【現代語訳 史記】レポート

【現代語訳 史記】
大木 康 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4480065938/

○この本を一言で表すと?

 「史記」に登場する人物の一部を5種類に分けて紹介した入門本

○よかったところ、気になったところ

・「史記」に登場する人物を典型的な5パターンに分類して、各パターンの代表的な人物の代表的なシーンを切り取って紹介している本でした。
とても読みやすく、「史記」の舞台となる時代や背景がわかるような構成になっていて、入門本としてふさわしい本だと思えました。

第一章 権力にあるもの―帝王

・堯舜から漢の高祖劉邦まで、天下を取った人物が世に出るところについて紹介されていました。
「新始皇本紀」には記載されておらず、「呂不韋列伝」で記載されている始皇帝の親のエピソードなども紹介されていました。

第二章 権力を目指すもの―英雄たち

・伍子胥、蘇秦と張儀、項羽について採り上げられていました。
恨みを晴らすためだったり、立身出世のためだったり、動機は現代でもわかるようなものでも、文字通り人生をかけて挑んでいたのだなと思いました。
蘇秦と張儀は合従・連衡でよく対比され、連衡を提唱した張儀が優れているという評価を別の本で見たことがありますが、張儀の秦での出世が蘇秦の策によるもので、張儀が蘇秦が亡くなるまで自身の策を遠慮していたというのは初めて知りました。

第三章 権力を支えるもの―輔弼の臣下たち

・廉頗・藺相如と張良・陳平・韓信の来歴が紹介されていました。
劉邦の家臣で陳平は張良・韓信ほどメジャーではないように思いましたが、その陳平が何をやったかではなく、項羽から劉邦に仕える先を変えるところまでの記載だったのが面白いなと思いました。

第四章 権力の周辺にあるもの―道化・名君・文学者

・滑稽者の淳于髠、文学者の司馬相如と戦国四君の一人信陵君について書かれていました。
司馬相如については文学者としての立ち位置についての記述のみで、その事績についてはあまり触れられていませんでした。
信陵君の食客に対する向き合い方やその行動は、他の戦国四君よりも優れているように思えました。

第五章 権力に刃向かうもの―刺客と反乱者

・刺客となった予譲・荊軻と秦に氾濫した陳勝について紹介されていました。
予譲にしても荊軻にしても、大した対価を得られるわけでもないのに自分のすべてを刺客としての行動のために投げ出したというのがすごい覚悟だなと思いました。

解説 司馬遷と『史記』について

・司馬遷の来歴や「史記」の構成とそれ以降の歴史書との共通点・相違点について解説されていました。日本においても平安時代よりも前から「史記」が伝わり、「紫式部日記」などでも引用が見られるほどだそうです。

○つっこみどころ

・「史記」に登場する人物の中で、一部の人物の一部のエピソードを抜粋しているので、「史記」を読んだあとに見返すと記述が浅く、その人物のことを掴みきれないなと思えました。
また、各人物が成功するところまでピックアップしているので、「史記」を通して感じられる観念的なものや文化的なもの、成功した人物やその子孫の挫折などが省かれてしまっているなと思いました。
「史記」に触れるための入門本としては問題ないと思いますが。

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