【万葉集講義 最古の歌集の素顔】レポート

【万葉集講義 最古の歌集の素顔】
上野 誠 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/412102608X/

○この本を一言で表すと?

 万葉集の背景や内容の分類等の解説の本

○よかったところ、気になったところ

・万葉集がどのような背景で編纂されたものか、選定された歌の分類等が詳しく説明されていて、「万葉集とはなにか」ということが多方面から分析され、解説されている本でした。

・訳が口語的というか漫画のセリフのように砕けて書かれていて、情感の伝わりやすさを意識したのかもしれませんが面白かったです。

・第二章以降では最初に前章のまとめが述べられてそれに続くように各章の内容が始まっていました。
各章の最後ではないのが変わっているなと思いましたが、各章が完全に独立しているのではなく前章を受けて説明している側面もあり、短歌の上の句を受けての下の句のような書き方も意識されているのかなと思いました。

・万葉集は恋歌が多く、また伴侶ある人への恋歌が多く、少し下世話なイメージを持っていましたが、そういった歌をわざわざ残したことを不思議に思っていました。
そういったお約束の宴の余興として、また庶民から慕われている証拠として、歌を残した人と歌われた人の名誉になる形で残されていったことを知り、ようやく腑に落ちた気がしました。

第一章 東アジアの漢字文化圏の文学

・元々日本語での歌があり、それを漢文ではなく日本語として漢字を使って表記することになっていった日本の文学であり、漢字に依拠する漢字文化圏の文学でもあるということが説明されていました。

・漢字を使い始める前から日本語があり、日本語の歌があったというのは当たり前ですがあまり意識していないことで新鮮でした。
文字で残されなければ語り継がれる以外に手段がないため歴史となることが難しいということを改めて実感しました。
文字に残すことが前提となることで初めて一回生起的な感情が歌となっていったというのもなるほどと思いました。

第二章 宮廷の文学

・万葉集の巻一と巻二は「日本書紀」に書かれている歴史に基づいた宮廷文化の歌が集められていて、宮廷行事の歌や皇族賛美の歌などがメインとなっているそうです。

第三章 律令官人の文学

・万葉集は律令国家形成期に編纂されているため、国家の官僚である郡司などの規範的なふるまいなどの歌も集められているそうです。

第四章 京と地方をつなぐ文学

・万葉集は京から地方へ赴任する者や地方から上京した者の歌も集められている、京と地方をつなぐものでもあるそうです。

・防人歌が中央に反発する歌だという解釈は学生時代に聞いたことがある気がしますが、そのようなことは編纂意図からも内容からもあり得えないそうです。

・現地の言葉を使った歌なども残っていて、それらから万葉集が集められた地方が類推できるそうです。

第五章 『万葉集』のかたちと成り立ち

・巻一と巻二以外の巻三から巻二十までの概略と、編纂時期について述べられていました。
各巻によって編纂意図が異なっていたり、時期自体もずれていたりして、長い年月を経て編纂されていったということが興味深かったです。

第六章 『万葉集』の本質は何か

・万葉集は恋と四季の歌集であると著者の意見が述べられていました。

・万葉集という歌集名から永く日本文化の見本として残す意図があったこと、以降の古今和歌集などで万葉集が勅撰集とみなされ、正当なものとされていったことが述べられていました。

・万葉集を日本文化の象徴とする負の側面として、言い訳をしない、短い文章で話を済ませるという現代日本人まで続く性質を規定してきたのではないかということが述べられていました。
大げさなような気もしましたが、連綿と引き継がれてきた歌がその文化に接する人々のあり方を規定していくというのは、ある程度ありえるような気もしてきました。

終章 偉大なる文化遺産のゆくえ

・万葉集が中国の「文選」を参考にして書かれていた一面があること、しかしながら日本の文学の象徴として尊ばれてきた歴史が長いことなどが述べられていました。

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