【二都物語 上】
ディケンズ (著), 池 央耿 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4334753264/
【二都物語 下】
ディケンズ (著), 池 央耿 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4334753272/
○この本を一言で表すと?
フランス革命前後のパリとロンドンの二都市を舞台に繰り広げられる物語の本
○この本を読んで考えたこと、印象に残った話
・ボストンとシリコンバレーを舞台に二つの都市の関係や栄枯盛衰の歴史を描いた「現代の二都物語」を以前読んだことがあり、元ネタになった「二都物語」のこともどこか気になっていました。
内容は全く違いますが、パリとロンドンを舞台としてフランス革命前後の二つの都市のあり方や関係が描かれていて興味深く読めました。
・光文社古典新訳文庫版だと栞に登場人物とその概略が書かれていて、見返しやすくてよかったです。
栞に書かれている16名の中に「道路工夫」が含まれていて、物語の所々で登場するのが個人的に面白かったです。
・連載形式で出版され、またディケンズが読者受けを狙うタイプだったからか、伏線が張られていながら回収されていない内容も結構あったように思いました。
ストライヴァーやジェリー・クランチャー、ロジャー・クライなどは設定だけで後半消えてしまったなとも思いました。
最初の方でミス・プロスがチャールズ・ダーネイを見ると痙攣する、という描写や、ミス・プロスの容姿について最後の方で触れていることなどは、読者の反応次第で変更できる余地を残しておいたのかなと思いました。
・解説でも触れられていましたが、貴族を一方的に悪しざまに書くのではなく、立場が変われば庶民でも残酷になれるということを、フランス革命のパリの描写を通して公平に書かれているように思いました。
フランス革命はその後の近代への幕開けとして、また人の行動範囲の広がりやメートル法などの単位の統一、科学の発展等の華やかのイメージもありますが、自業自得な生活を送っていた人だけではなく、一歩間違えばすぐに冤罪でも処刑されてしまう空気、周りに反対しがたい空気などの感覚がこの本では伝わってくるように思いました。
第一巻 生還
・近代以前の中世らしい治安の悪さや町と町の行き来のなさ等がよく描かれているように思いました。
・銀行の行員であるジャーヴィス・ロリーが中心に描かれ、登場人物の詳細を明らかにしないままにパリで精神を病んだ医師であるアレクサンドル・マネットを娘のルーシー・マネットに引き合わせ、ロンドンへ連れ帰るまでが書かれていました。
・第一巻を読んだだけではその後どうなっていくのかが全く予想できなかったです。
第二巻 金の糸
・チャールズ・ダーネイの裁判でそっくりな顔のシドニー・カートンがうまく相手方証人の意見を薄くして無罪を勝ち取り、ロンドンでのマネット親娘や裁判でかかわった人物の穏やかな暮らし、パリでの庶民の生活の厳しさや貴族の横暴さ、ルーシー・マネットとチャールズ・ダーネイの結婚、フランス革命の始まり、チャールズ・ダーネイが叔父から継いだ領地の役人の手紙でパリに向かうところなど、第一巻に比べて登場人物の生活感が出てきて、前半の穏やかさと後半の世の中の荒れ様などが際立っていたように思いました。
・第三巻を読み終えた後で、この巻で張られていた様々な伏線に思い当たることができました。
第三巻 嵐の跡
・フランス革命後のパリがメインの舞台になり、貴族階級がとことん弾圧され、先頭で行動する者たちが脚光を浴びる風潮や、自由を叫ぶ割に自由のない状況、登場人物の柵等が描写され、かなり重たい雰囲気の内容になっていました。
・ドファルジュ夫妻など、脇役のような登場の仕方をした人物がこの巻では大いに存在感を増し、この本全体の大きな流れに関わる存在として動き出していく様子や、希望を見出しては絶望に叩き落されることを繰り返すマネット親娘やチャールズ・ダーネイの様子など、状況の激しさだけでなく登場人物のあり様の激しさも描写されていて結末に向かっていました。
○つっこみどころ
・シドニー・カートンがパリに姿を見せた時点で結末が大体わかってしまいました。
物語上、ある程度はっきりと登場させないといけないと思いますが。
それでも解説で「主人公シドニー・カートンについては・・・」と書かれていて初めて主人公だったと気付いたくらいでしたし。
・チャールズ・ダーネイとルーシー・マネットの娘の年齢が6歳だったり3歳だったりして、また夭折した息子の年齢とその発言が年齢にそぐわなかったりして、年齢が出てくるところでは混乱しました。
・解説で触れられているディケンズの歴史や年譜で、28歳年下の女優エレン・ターナンと付き合い始め、妻と別れようとしていた時期に二都物語の連載が始まったとあり、置かれている状況と作品の内容やテーマの乖離がすごいなと思いました。
作品を純粋に評価する上で著者の状況を考えてはいけないのかもしれませんが。