【ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望】
トーマス・ラッポルト (著), 赤坂 桃子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4864106010/
○この本を一言で表すと?
シリコンバレーの著名な投資家・創業者のピーター・ティールの伝記の本
○面白かったこと・考えたこと
・ピーター・ティールの名前はシリコンバレーにまつわる話の書かれた本でよく登場していて、ペイパルの創業者であることなども書かれていたので気になっていました。
ペイパルを創業するまでの話、ペイパル以後の話を知ることができてよかったです。
・表面的なことに惑わされず、「技術の進歩が止まっている」と考えている話や、技術・事業の本質を見抜いてきた話など、すごいなと思わされることが何度もあり、面白かったです。
第1章 はじまりの地、スタンフォード大学
・子供の頃は勤勉さを求められ、競争心溢れる子供時代だったこと、SFやファンタジーの小説にハマっていたこと、リバタリアンになっていったこと、数学的思考・論理的思考に優れていたのにスタンフォード大学で哲学を専攻していたことなどが書かれていました。
・スタンフォード大学で将来のビジネスパートナーになるリード・ホフマンや他の仲間にも出会ったことが書かれていました。
・スタンフォード・レビューという学生新聞を創刊し、様々な意見を発信する場を得たこと、その編集者たちが将来の仲間になったことも書かれていました。
・スタンフォード大学のフランス人哲学者ジラール教授の模倣理論にその後も影響されていることが書かれていました。
第2章 「競争する負け犬」になるな
・ピーター・ティールはスタンフォードのロースクールを修了した後、数万人が応募して数十人しか採用されない連邦最高裁判所の事務官の面接を受け、自信があったのに不採用だったことがかなりショックだったと書かれていました。
その後大手法律事務所に勤務し、7ヶ月と3日で辞め、ニューヨークの投資銀行クレディ・スイスでデリバティブ・ディーラーとして働き、4年ほどで辞めてシリコンバレーに戻ったそうです。
・シリコンバレーに戻った1996年はインターネットが流行し始めた頃で、ドットコム・ブーム初期の頃だったそうです。
・ペイパルの元になる会社を最初はパームパイロット専用のツールとして開発し、その後電子メールを使えれば誰でも使用できるようにして、キャッシュバック制度などを活用してユーザーを集めることに奔走したそうです。
・ペイパルとして活動し始めてからすぐにイーロン・マスクがXドットコムという同種の起業を創業し、ペイパルのサービスをコピーした上でその前に成功して企業を売却した資金も活用してペイパルより大きなキャッシュバックをするなどで脅威になっていたそうです。
・ピーター・ティールは競争を避けるためにXドットコムと統合し、イーロン・マスクを経営者として再出発したものの、方針の違いから半年で解任し、再度ピーター・ティールが復帰した等の流れが書かれていました。
・eコマース市場の巨人イーベイを主戦場として売上の6割以上をイーベイに依存するようになり、2001年9月11日の同時多発テロの直後に株式上場を果たし、そのすぐ後にイーベイに売却した流れが書かれていました。
・ペイパルにいた人たちが「ペイパル・マフィア」と呼ばれ、ユニコーン企業と呼ばれる新興大企業を7社立ち上げた話が書かれ、今でも固い絆で結ばれていることが書かれていました。
第3章 常識はずれの起業・経営戦略
・章のタイトルとは異なり、かなり常識的な戦略が書かれていました。大きなビジョンを描き、照準を絞って注力し、リアルタイムで判断し、責任を明確にすることがピーター・ティールの経営戦略だそうです。
・ペイパルを売却した後、2003年に政府向けのセキュリティー・サービスを提供するパランティアという企業を立ち上げ、そのCEOに哲学者を採用した話が書かれていました。
・2004年にはマーク・ザッカーバーグと出会い、フェイスブックに出資して取締役になったそうです。短期間で大きな動きを連発する人物だなと思いました。
第4章 持論を発信する
・ピーター・ティールがスタンフォード大学で珍しく講義をすることになり、その聴講生のブレイク・マスターズがその内容をブログにして話題となり、ピーター・ティールがそれを止めずに続けさせ、その後「ゼロ・トゥ・ワン」という本になったというエピソードが書かれていました。
・過去の著作「多様性の神話」の内容の一部がトランプの選挙戦の時に有名になったことが書かれていました。
第5章 成功のカギは「逆張り思考」
・「あなたにとって、賛成する人がほとんどいない、大切な真実とは?」という質問がピーター・ティールの著作でも経営する企業の面接でも問われるそうです。
・ピーター・ティールは逆張り思考を自認していて、誰もが進む道ではなく秘密の道を探すことなど、10のルールについて述べていたそうです。
第6章 ティールの投資術
・オールド・エコノミーの代表としてウォーレン・バフェットが、ニュー・エコノミーの代表としてピーター・ティールが挙げられ、よく対比されるそうですが、投資の手法としてはかなり似ていることが例を挙げて書かれていました。
・投資先に求めるものとして、独占的な地位を占めているか、「プロプライエタリ・テクノロジー」「ネットワーク効果」「規模の経済」「ブランディング」の4つの要請を満たしているか、等があるそうです。
その投資成功例としてフェイスブックとパランティアが挙げられていました。
・ピーター・ティールは複数の投資会社に関与していて様々な用途に使い分けているそうです。
・Yコンビネータのことは別の本でも大きく取り上げられていて知っていましたが、ピーター・ティールがそこの非常勤パートナーになっていたのは初めて知りました。
第7章 テクノロジーを権力から解放せよ
・ピーター・ティールはリバタリアンとして「自由」を追求していて、新しい自由空間として「インターネット空間」「宇宙空間」「海洋自治都市」の3つに投資しているようです。
・ピーター・ティールからすると、今の世界は停滞していて、自身の立ち上げたファンドのマニュフェストのサブタイトルに「僕らは空飛ぶ自動車が欲しかったのに、手にしたのは140の文字でした」としているように、本質的な技術が進んでいないことに苛立っているそうです。
第8章 影のアメリカ大統領?
・ピーター・ティールはシリコンバレーでは一様に忌避されているトランプ大統領の支持者として有名で、その支持する理由が気になっていましたが、その理由が詳しく述べられていました。
・トランプ大統領のマニュフェストが、ピーター・ティールが好きなレーガン元大統領に似ているということと、支持されている割に低評価されているという逆張りのいい対象だったこと、テクノロジー業界とトランプ大統領を結びつけることで遅れている世界を進めたいという目的があることなどが書かれていました。
教育・ヘルスケア・行政機関・エネルギーなどを変えたいという狙いもあるそうです。
・この本ではトランプ大統領の娘婿のジャレッド・クシュナーを最大限に評価していました。
トランプ政権の暴露本「炎と怒り」ではジャレッド・クシュナーがその妻のイヴァンカと共にかなり否定的に書かれていたので、実態はどうなのか気になるなと思いました。
第9章 ティールの未来戦略
・ピーター・ティールはティール財団で未来に対する投資を進めていて、ティール・フェローシップでは大学や高校を中退した人向けに研究を推奨していて、ブレイクアウト・ラボでは初期段階で投資家が思いとどまるような案件への投資を進めているそうです。
○つっこみどころ
・全体的に過剰な表現が多かったです。当たり前・普通なことまで拡大解釈して持ち上げている内容も多く、いろいろ割り引いて読む必要のある本でした。