【アドルフ・ヒトラー 「独裁者」出現の歴史的背景】レポート

【アドルフ・ヒトラー 「独裁者」出現の歴史的背景】
村瀬 興雄 (著)
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○この本を一言で表すと?

 ヒトラーを特別視せず、当時のドイツの状況やナチスの実態を客観的に書いた本

○面白かったこと・考えたこと

・ヒトラー研究の主観的な議論を批判的に分析し、ヒトラーを特別視せずに歴史的背景や当時の様々な人物、ナチスが成長した背景などが書かれていてよかったです。

・ヒトラーの著作だけでは「実際はどうだったのか?」ということが訳注からしか読み取れず、その訳注も偏っていたので悩ましかったですが、ある程度客観的な視点の本を読むことで、当時の状況とヒトラーの考察を一歩踏み込んで理解できた気がします。

第一章 ルエガーとキリスト教社会運動、第二章 シェーネラーと全ドイツ主義運動

・「わが闘争」でヒトラーが青年時代に尊敬したシェーネラーと、シェーネラーの行動のまずさに対し行動もうまくやったことで尊敬したルエガーについて詳しく知ることができてよかったです。

・ルエガーがウィーン市長になるまでのプロセスと市長になってからの実績(街燈・照明の改善、市街電車の設立、水道の改善、教育事業、福祉事業)はすごいなと思いました。

・シェーネラーはうまくやればかなりの成功を収められそうなところを自身の好みで行動(先鋭的過ぎる政治活動、宗教批判)して破綻をきたしたというところは残念ですし、シェーネラーによいブレーンがついていたら歴史が変わっていたのかもしれないなと思いました。

第三章 ヒトラーの家庭、第四章 青年ヒトラー、第五章 ウィーン時代の思想、第六章 ヒトラーの生活と第一次世界大戦

・「わが闘争」でヒトラーが自身の過去について語り、ところどころ訳注で虚偽と判定されたことについて指摘されていた内容について、客観的な分析が加えられていて興味深かったです。

・ヒトラーの生まれについての話、ヒトラーの連れからみたヒトラーの印象(紳士的、理知的、落ち着いている、等)、実際の学校の成績や美術学校入試で落ちて顔向けができなくて逃避した話、浮浪者施設で暮らしていた話、兵役忌避疑惑でミュンヘンからオーストリアに連れ戻されそうになった時の必死な弁解、危険思想と思われて軍隊で出世できなかった話など、自伝的な「わが闘争」では述べられていなかったことを知ることができてよかったです。

・「わが闘争」で書かれていた大戦時のドイツの宣伝のまずさは本当のことだと思っていましたが、ドイツ国民に戦況が不利であることなどを悟らせないなど、むしろ宣伝に成功していたという話は参考になりました。

第七章 初期ナチス党とヒトラー、第八章 宣伝家ヒトラー

・何となく、ヒトラーという個人がナチスや当時のドイツを引っ張っていったような印象があり、研究者ですらそういう視点でしか見られないような人がいるらしいですが、初期ナチス党の状況やその他の党派の状況や趨勢、初期のドイツ労働者党に最初からトゥーレ協会という大きなスポンサーが存在したこと、レーム、エッカート、マイェルなどの支持者がいてこその出世だったこと、ヒトラー自身は自分を「指導者」のために道をひらく役目だと認識していて、ナチスのトップになった動機も自分の動きが制限されることが嫌だったことなどは、ヒトラー個人に焦点を当てすぎていていては見えてこないことだなと思い返しました。

第九章 北ドイツ農村におけるナチスの成功

・ヒトラーがほとんど介在せずに成功した北ドイツの事例は、ナチスが状況に応じて適切な手を打ち、方針そのものすら柔軟にしている、うまく機能している政党という印象を受けました。

第十章 ナチスの内治外交

・ナチス政権においても労働者の権利がそれなりに強かったこと、打った施策に妥当なものも多かったことなどは、偏見で目が曇っていたら見ることができないことだなと思いました。

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