【日本農業の真実】
生源寺 眞一 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/448006608X/
○この本を一言で表すと?
現在の日本の食料・農業・農政について丁寧に説明した本
○この本を読んでよかった点、知ることができた点
・自民党時代、民主党時代の政府がどういった農業政策を打ち出し、それらの意味や効果はどうだったのかが、法律や文書をベースに説明されていて実態を深く理解できたように思います。
「農業がわかると、社会のしくみが見えてくる」と同じ著者で、書いている内容が重複しているところもありましたが、前著では食料と農業に焦点を当てていたのに対し、この本では農政に焦点を当てていたように思います。
第1章 逆走・迷走の農政
・自民党の農業改革路線のアンチテーゼとして民主党が小規模農家や兼業農家の存続を打ちだし、さらにそこからTPP参加を目指す方向に転換するという迷走ぶりと、その迷走により農業と農政に比較的好意的な姿勢で接してきた経済界が対立姿勢に変わってしまったことが書かれていました。
第2章 食料自給率で読み解く日本の食と農
・「農業がわかると、社会のしくみが見えてくる」の「三限目 自給率で食料事情は本当にわかるのか?」とほぼ同じことがより詳しく書かれていました。
「食料・農業・農村基本法」によって5年に1度打ちだされる「食料・農業・農村基本計画」の2010年版では食料自給力の確保について国際的な視野での検討がなかったことが最後に書かれていました。
第3章 誰が支える日本の農業
・高齢化や就業人口の減少によって農業が衰退することは1990年代ですでに検討され、1993年の「農業経営基盤強化促進法」で「認定農業者」に対して農地集積や農林漁業金融公庫(現在の日本政策金融公庫)の貸付などで配慮することがうたわれていたということは初めて知りました。
その路線で一戸当たりの農地拡大がその路線で進んでいれば現状は改善されていたのかもしれませんが、民主党の選挙対策農政で御破算になってしまい、政策運用面でも不安定になってしまった経緯があり、そのことに関して全体的に客観的な視点で書いている著者が怒りを覚えている書き方になっていて印象的でした。
・コメの戸別所得補償の内容について説明されていて、ほとんど知らなかったことが理解できてよかったです。
戸別所得補償の内容をみると、ほとんど何のインセンティブにもならないような制度(0.5ヘクタールなら年間3万円、1ヘクタールなら年間7.5万円程度しか出ない)で、ひどい話だなと思いました。
第4章 どうするコメの生産調整
・コメの生産調整は小学校の社会の時間に習った覚えがありますが、その背景や実施方法が詳しく書かれていて、想像とはだいぶ異なるなと思いました。
戦時中の1942年に施行された食糧管理法がそのまま戦後も適用され、それを維持するための臨時手段として生産調整が行われ、それが慣例となったこと、トップダウンで都道府県、市町村、集落と生産調整の枠が決められ、従わなければ補助金等を受けられない仕組み、食糧管理法廃止後も「認定農業者」になるには生産調整を適用しなければいけないなどの仕組みの残留、農村の中で生産調整に従わない人に対しての迫害など、かなり暗い面があることがわかりました。
今の農業にしっかり組み込まれてしまっているコメの生産調整をどのようにソフトランディングさせるかが大事だと書かれていましたが、急に変えてしまうことが不可能である以上はそれしかないのかなと思いました。
第5章 日本農業の活路を探る
・日本農業の活路を4つの観点から考えるという話は前向きな内容が多かったです。
・「1 モンスーンアジアの風土と農業の規模」という観点では、気候だけでなく歴史的に収穫量の大きいコメの人口扶養力の高さから大きな面積の農地を必要としなかったことで日本だけでなく地域全体で農地の小規模化に繋がったと書かれていました。
地域的に欧米のような大規模農場には向かないものの、ある程度農地を集積して規模を拡大することにはメリットがあり、耕作放棄地の売買や貸借について法整備が望まれるそうです。
・「2 新たな共助・共存の仕組み」という観点では、旧来の農村では同規模の農家が集まるという形だったそうですが、現在ではさまざまな規模やさまざまな運営形態の農家や非農家で形成されていて、その互助関係が変わっているそうです。
・「3 農業経営の厚みを増す」という観点では、「農業がわかると、社会のしくみが見えてくる」の「四限目 土地に恵まれない日本の農業は本当に弱いのか?」で書かれていた3つの改善策に併せて担い手の教育政策として大規模農家や法人で教育される人材も有用なのだそうです。
・「4 アジアに生きる日本の農業」という観点では、食料の必需品という側面と嗜好品という側面の2つの側面からアジア地域全体の中でのポジショニングとして、アジアにおける嗜好品というポジションで農業経営を考えることも有用なのだそうです。
第6章 混迷の農政を超えて
・日本の農政とEUの農政が比較されていました。
EUでも農産物の価格統制などに費用が掛かり、特に酪農部門の過剰生産で「バター・マウンテン」と皮肉られるくらいの買い上げが為されていたそうですが、ウルグアイ・ラウンドを見据えた1992年に農政の枠組みを根本から変えて、かなりの効率化が図られたそうです。
それに対して日本ではウルグアイ・ラウンドの交渉が妥結された1993年の後の1994年にウルグアイ・ラウンド対策費として6兆1,000億円が予算計上され、しかも使い道が農業の強化に有効に使われず、健康ランド建設などに浪費されてしまう有様だったそうです。
もちろん日本とEUは環境が大きく異なるので、EUで成功したやり方をそのまま導入することで効果が上がるとは考えられませんが、参考にできるところは参考にし、有効な政策を打ち出してほしいなと思いました。