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【日本林業はよみがえる―森林再生のビジネスモデルを描く】レポート

【日本林業はよみがえる―森林再生のビジネスモデルを描く】
梶山 恵司 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4532354579/

○この本を一言で表すと?

 現在の日本林業とその周辺産業を海外のそれと比較し、その不合理性を徹底的に追求した本

○この本を読んでよかった点、知ることができた点

・林業とその周辺産業について日本と海外の実態や取組を様々なデータの裏付けとともに広く知ることができてよかったです。

・この本に書かれているような林業に関する広範な知識をもつ著者が内閣官房国家戦略室で実際にこの本で書かれている解決策に取り組んでいるというのはかなり心強いなと思いました。
ただ、民主党から政権交代したときにこれらの政策が変わってしまったら本当に林業が立ち直れなくなるかもしれないなと思いました。

第1章 日本林業のチャンス到来

・2010年に森林・林業についての特集がいろいろなテレビや雑誌で取り上げられていたことを初めて知りました。
日本国内産の木材が外材よりもかなり価値が低く、価格が低いということを初めて知りました。林業が高度に発達した社会システムが必要であること、重くてかさばる割には単価が安く輸送経費の比率が高いことから需要地のある先進国向きの産業だということを初めて知りました。

第2章 持続可能な林業とは何か

・森林の成長量に応じて伐採量を決める仕組みを初めて知りました。
欧州一の工業国のイメージがあるドイツの最大の雇用創出産業が木材関連業(林業、木材製造業等)だという話には驚きました。
日本と違い、ドイツの木材のカスケード利用(製材、木質ボード、紙パルプ、エネルギーと利用し尽くす)はうまく回っているなと思いました。

第3章 日本林業の不都合な真実

・先進国のほとんどでは森林法が厳密に定められ、皆伐(すべて伐採)後の再造林をしなければ違法行為となるのに対し、日本では再造林放棄が当たり前になっていること(法律の定めはあっても届け出のみで実態なし、放置していても雑木が勝手に生えてこれば問題なし)、保安林が17種類も定められ、しかもそれらが必要な機能かどうかの検証がないこと、間伐(木を間引きして森林を適正な状態に保つ)が行われなかったり、補助金狙いでいい木もまとめて伐ったり列状間伐(木を選別せずに一列まとめて伐採)をやったり、利用間伐(間伐した木を利用する目的で実施)で他の木を傷つけたり、間伐が適切に行われていないこと、巨額の建設費用をかけて地形上誤った路網を設置すること、日本の森林認証が認証林に程遠いものまで認定して機能を果たしていないことなど、日本林業の不具合が列挙されていました。

第4章 世界の森づくり・林業はこうなっている

・世界の森づくり・林業はその地域の状況に応じて適したやり方が採られ、画一的なやり方ではないことが書かれていました。
ニュージーランドなどの人口密度が低く、森林に多面的機能が求められていない地域では短伐期・皆伐経営で小面積を皆伐して植林または天然更新(放置して回復を待つ)のローテーションで実施し、同じ短伐期・皆伐経営でもアメリカの西海岸では伐期がニュージーランドより10~20年ほど長く、伐採に関して細かなルールが定められているそうです。
ドイツなどの中部ヨーロッパでは長伐期・非皆伐経営で樹齢が100年を超えて残った木を少しずつ収穫して可能な限り天然更新を促す方法を採っているそうです。

・ニュージーランド、フィンランド、オーストリアの林業の経営収支が載せられていましたが、経営形態に寄っての収支の違いが明確に出ていて面白かったです。
日本では森林のモニタリングが行われていないに等しい状態だそうですが、特に工業国では政策目標の達成度をモニタリングし、潜在木材生産可能量の予測を40年先まで立てて計画しているそうです。

第5章 日本にふさわしい森づくり

・日本の現在の人工林のほとんどは戦後の需要のために過伐が進んだ後に作られていたそうです。
短伐期・皆伐経営の方が採算が合うと見込まれて実施されたそうですが、日本はニュージーランドよりは中部ヨーロッパの方が環境が近く、収穫量トータルで見ても長伐期・非皆伐経営で間伐による方が質を見ずに量だけで考えても上になるそうです。
木材が構造材として利用される時は芯持ち材(芯を中心に利用)、芯去り材(芯をはずしえ製材、大径材でないと不可能)、集成材(板を重ねて貼り合わせて一つにした材、歩留まりが低く割高)の3種類に分かれるそうですが、短期伐・皆伐経営では質が良く費用面でもよい芯去り材が不可能なため、質の面でも長期伐・非皆伐経営の方がよいそうです。

第6章 林業経営を支えるシステムの構築

・フィンランドでは行政組織であるフォレスト・センターと森林所有者自ら組織する森林所有者協会が所有者をサポートする体制になっていて、フォレスト・センターは森林管理・経営計画を策定し、所有者は任意でその計画を購入して、森林所有者協会がこの計画に基づいて所有者をサポートする、というシステムになっているそうです。
森林所有者協会は林業経営にかかわるほとんどの部分を代行可能な機能を備えていて、所有者はその中からアラカルトでサービスを受けることができるそうです。

・ドイツではフォレスター(森林官)という森林管理の専門家がサポートし、所有者自身が林業の担い手となっていることが多いそうです。
自身で林業経営ができない所有者に対しては森林連盟と呼ばれる任意の団体に任せることもあるそうです。

・日本ではフィンランドに所有形態が近いそうですが、フィンランドの森林所有者協会に近い組織の森林組合が機能することは例外的でほとんど機能しておらず、民間の林業会社に頼めば荒い作業で森林を破壊しかねないというかなり大変な状態になっているそうです。

第7章 待ったなし 森林組合の再生

・第6章でほとんど機能していないと書かれていた森林組合のなかで例外的な京都の日吉町森林組合の事例が書かれていました。
元々は日吉町森林組合も公共事業の補助金を狙う機能しない森林組合の一つだったところ、ダム建設関連事業が1996年に終了したとき、別の公共事業のために泣きつくところを手つかずの民有林の間伐に大きく事業転換し、伐り捨て間伐から利用間伐に切り替えて日々努力し、路網の整備などにも手を付けていって10年間で木材生産量を5倍にするという実績を上げたそうです。
また、林業界が全体的に営業やマーケティングなどの努力を怠ってきた中で、木材の販売先などを開拓して収益を上げるところまでこぎつけたそうです。

・フィンランドでは木材生産会社サプライチェーンの担い手となり、木材生産から木材輸送までを一気に担って、IT化により需要に合わせて採材する仕組みも導入しているそうです。
ドイツやオーストリアでは森林連盟がサプライチェーンの担い手となり、量をまとめて製材工場と交渉し、木材生産から輸送までをアレンジしているそうです。日本でも需要と供給をマッチングさせるコーディネーター育成の必要性が指摘されてそのための補助金がつくられているそうですが、成果は上がっていないそうです。

・ドイツでは林業専科大学などの専門家育成機関が存在し、森林管理の知識が体系化されているそうですが、日本では「林学」を掲げた大学が消滅しており、現場技術者の育成も2006年度から「緑の雇用」という制度が始まったものの成果が上がっていないそうです。
さらに、他国では当たり前に存在する「立木に傷をつけない」「土壌保全に配慮する」などの一般常識も日本では一般常識化されておらず、そういった暗黙知を形式知に置き換えなければいけないところからスタートなのだそうです。

第8章 あるべき林業機械と路網

・木材生産は①立木を伐採し、②伐採された木の枝を払って、所定の長さに伐って丸太にし、③丸太をトラックの通れる土場まで運搬する(場合により②と③は逆転)という工程からなっているそうです。
欧州の機械はこういった林業に要求される性能要件を全て満たすように設計され、重心を低くしたり、車高を高くしたりして森林で活動しやすい形態になっていますが、日本の林業機械は建機をベースマシンとしているため、そもそも森林で動くのに適しておらず、伐採機能や運搬機能もかなり低いという悲惨な状況だそうです。

・路網の設計についても平地の多いフィンランドでは林内走行用に森林を四角に区画する形で設計したり、産地の多いドイツやオーストリアでは等高線に沿って設計したりしているのに対し、日本ではそもそも路網の整備が進んでいないため、現場での作業が人力に頼らざるを得ない状況が多いそうです。

第9章 「保育から利用」への転換を実現する予算

・日本では、そもそもどういった地域にどういった森林構成がふさわしいかの理論・技術が定まっていないそうです。
さらに目標もなく予算が投入され、その予算の妥当性が検証すらされていないため、効果が上がらない政策が常態化してしまっているそうです。
2006年度の補正予算において森林吸収源対策で700億円の予算が組み込まれたことで、公共事業が減少して民有林事業の開拓へ進んでいた森林組合がまた公共事業にどっぷり漬かることになり、その吸収源対策も逆に森林破壊を増進するようなことになってしまったそうです。
2007年度に始まった林野庁事業の「森林施業プランナー育成研修事業」も赤字になった森林組合が取り組んで成果を上げた事例が少数あるのみで、公共事業で潤った森林組合は研修を受けただけで実践しないという結果に終わったそうです。

第10章 欧州の木材産業は今

・欧州では、70年代後半から80年代にかけて成長量に合わせた伐採で資源の回復に努めて伐採可能量が増加し、80年代に起こった林業機械のイノベーションによる林業の生産性が向上し、木材の国内調達量が増加したそうです。
調達量が安定したことで製材工場の大型化・効率化が始まって製造原価が低下する動きがある一方で、中小製材工場は独自に個別対応のサプライチェーンなどを構築し、多様な産業構造が構築されているそうです。

第11章 日本の木材産業の構造転換

・欧州では木材の品質基準が定められ、さらに高品質基準も定められているのに対し、日本ではミニマムスタンダードすら定められていない状態だそうです。
欧州では大規模製材業者が流通市場に、中小規模の製材業者は直接工務店等に流すところ、日本の業者の大部分はマーケティング不在で、ほとんど多段階の流通市場に流してしまっているそうです。

・日本の極端な零細工場が存続してきた木材産業をポーターのダイヤモンドモデル(産業を取り巻く資源、競争環境、需要、関連産業・支援体制)で分析した場合、資源については国内の木材供給が著しく不安定で、外材も為替リスクやカントリーリスクによる不安定要因があり、競争環境については地理的な要因から海外の木材の輸送費が課題となって非関税障壁となり、需要については戦後は住宅需要がかなり高く品質が求められて淘汰されることがなく、関連産業・支援体制についてはほとんど存在せず、各自が自分の都合のいいやり方を進める、という状況だったそうです。
90年代半ばに阪神大震災により住宅の品質確保の基準が定められ、外材が丸太市場から製材市場になって輸送費が軽減されることで非関税障壁が崩れたそうです。

第12章 バイオマスエネルギー利用拡大のために

・欧州では再生可能エネルギーの半分が木質系バイオマスで供給される体制となり、薪、木材チップ、ペレット(おが粉を固めたもの)をそのまま燃料とし、これらを燃料としたストーブなども普及しているそうです。
またこれらを発電に利用し、そのための政策として発電の由来によって補助金を細かく定めることにより、市場の原理も利用してうまく導入が進んでいるそうです。
一方日本では木材の主産物(丸太等)からペレットを作るなど、本末転倒なことをやった方が補助金を多くもらえるようになって多大な予算が投入されているそうです。
また、電力にしても石炭にペレットを混ぜた場合とペレットだけの場合でも補助金の額が変わらないなど、混乱の進む制度設計になっているそうです。

終章 動き出す森林・林業再生プラン

・日本の森林のほとんどは間伐が進んでいないことで枝が枯れてダメになるおそれがあり、この5年以内に対処できるかどうかが勝負なのだそうです。
民主党政権が2010年6月に発表した新成長戦略「21世紀の日本復活に向けた21の国家戦略プロジェクト」で森林・林業再生プランが位置付けられ、この本の中で指摘された日本の林業の問題点への対策が盛り込まれているそうです。

おわりに

・著者が2007年のゴールデンウィークに菅元総理(当時は民主党代表代行)と1週間ドイツを案内することになって欧州や日本の政治・経済と林業について議論し、その後菅政権で国家戦略室に招聘されて直接林業の改革を担当することになったエピソードが書かれていました。

○つっこみどころ

・ポジティブなタイトルとは裏腹に、現在の日本林業とその周辺産業を広範にわたる面で徹底的に批判していて驚きました。
終章で著者が実際に解決に取り組んでいることが書かれていなければ「日本林業断罪」などのタイトルが似合う本だと思います。