【これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学】
マイケル・サンデル (著), 鬼澤 忍 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4152091312/
○この本を一言で表すと?
いろいろな哲学的観点から見た「正義」の本
○この本を読んで考えたこと。
第1章 正しいことをする
・「何が正しいか」という話で「5人の命が亡くなるのを見過ごすか、自ら手を下して1人の命を奪って5人の命を助けるか」「アフガニスタンのヤギ飼いを殺して作戦を成功させるか、殺さずに隊全体を危険にさらすか」という極端な事例で正しいことを判断することが難しいことを示していて考えさせられました。
第2章 最大幸福原理──功利主義
・よく聞く「功利主義」について、目指すところは全体の最大幸福で、そのための手段が「各自が快を追い不快を避ける」ということが説明されていて、功利主義の手段を目的だと勘違いしていたのがこの本で解消されました。
分かり易い考え方ですが、反証として功利主義だけを追い求めた時のデメリットが載せられていてこれにも納得できました。
第3章 私は私のものか?──リバタリアニズム(自由至上主義)
・リバタリアニズム(自由至上主義)も分かり易い考え方で、私もこの考え方が自分に合っているような気がします。
その批判として幇助自殺とその究極の「合意による食人」について書かれていましたが、人によっては妥当と思う人もいそうで批判としてはイマイチだったように思います。
第4章 雇われ助っ人──市場と倫理
・傭兵と徴兵、代理母の問題もなかなか判断基準が難しい問題だなと思いました。
これらの問題を通じて自由市場で下す決定がどこまで自由なのかということに触れているのは巧みな話のもっていき方だなと思いました。
第5章 重要なのは動機──イマヌエル・カント
・カントは名前をよく聞いたことがありますが、どのような哲学を提唱していたかはこの本を通して初めて知りました。
感性界と英知界の切り分けで常に理性が働いているわけではないことを説明し、自律の定義も厳密に定めていて難しいけれど面白いなと思いました。
嘘についての態度が厳密過ぎて形式主義的になっているような印象も受けましたが、そのための逃げ道も用意しているのはなかなか細かいところまで気を配っているなとも思いました。
第6章 平等をめぐる議論――ジョン・ロールズ
・ロールズの考え方がこの本で一番難しかったです。
「無知のベールをかぶった状態で人びとがどのような原理を選ぶか考えること」から格差原理(社会で最も不遇な人々の利益に資するような社会的・経済的平等を許容)という考えに至るという流れを考えたのは、すごい想像力だなと思いました。
恣意的な道徳的貢献は全てその人に属しないという意見はなかなか極端だなと思いました。
第7章 アファーマティブ・アクションをめぐる論争
・アファーマティブ・アクションは他の本でもいろいろ書かれていますが、議論を呼びそうなテーマだと思います。
多様性という美徳が、白人が不利益を被る不公平性を上回ると考えられた上で導入されているというのはなかなか興味深いなと思いました。
第8章 誰が何に値するか?──アリストテレス
・アリストテレスの政治に関する考え(政治は美徳を人びとに広めるためにある)、目的論的考え方は面白いなと思いました。
第9章 たがいに負うものは何か?――忠誠のジレンマ、第10章 正義と共通善
・道徳的個人主義に対して「連帯」や「成員の立場」による責務を考えることで本人が同意していない法律を守る必要性や加担していない過去の事件の賠償責任について説明しているのは、自分の中でもどういった論理でそうなるのかあまり思いつかなかったので、大変興味深い考え方だなと思いました。
いろいろな国(特に一神教の国)の政教分離政策が破綻していることからしても、この宗教も含めたコミュニティの道徳という考え方はそれなりに説得力があるように思います。