【「自分だまし」の心理学】
菊池 聡 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4396111215/
○この本を一言で表すと?
「自分だまし」の仕組みとその影響と活用法について書かれた本
○この本を読んでよかった点
・「自分だまし」がなぜ起きるのか、なぜ必要なのかなどが平易な文章で説明されていてわかりやすかったです。
一章 なぜ人は「だまされる」のか
・現実を直視することが健全なのではなく楽観的な考えにだまされることが健全という見方、抑うつ傾向の人はリアリストということは、自分の印象と違っていていろいろ考えさせられるなと思いました。
二章 人は無意識のうちに、自分で自分をだましている
・「だます」ということの定義を「①だます人、②だまされる人、③何らかの意図、④真実でない、または歪曲された情報を伝える、⑤意図通りの行動へ誘導、⑥利益を得る」ととらえるというのはわかりやすい定義だと思いました。
・「自分だまし」の対象はなんとなく言葉によるものだけだと思っていましたが、盲点を認識しない視覚の話や、話している人の声だけを聴き分けるカクテルパーティー効果の聴覚の話などもあって、適用される範囲が広いなと思いました。
・無意識の情報処理システムの諸原則第一の「生存に有利になること」はわかりやすいなと思いました。
・第二の「リソースを節約すること」はヒューリスティクスなど結構広い範囲で適用され、しかも自分でも気づかなかったりしそうだと思いました。
占いに対する「当たったケースは後に残るが、はずれは残らない」という「直感」が血液型判断にも適用されているというのは納得できます。
三章 誰もが、自分に都合のよい「思い込み」をする
・無意識の情報処理システムの諸原則第三の「自分を気分よくするように情報を選択・解釈・評価する」とその適用事例がいろいろ書かれていて面白かったです。
「ポジティブ・イリュージョン」を「自分自身を現実以上にポジティブにとらえること」「自分が外界に及ぼすコントロール力を、現実以上に大きいと考えること」「自分の将来に対する非現実的な楽観主義を持つこと」の三種類に分類するシェリー・テイラーの定義は分かりやすいなと思いました。
・P.105,106の男の外見スキーマという「外見のいい男」と「外見の悪い男」に対する同じ性質の捉え方の違い(「決断力がある」と「軽率」、「頭がいい」と「頭でっかち」、「おおらかな」と「無神経な」など)は思い当たることが多くあり、なるほどと思いました。
・よく見聞きする「全米ナンバーワン」の仕組み(こっそり「火曜日公開映画としては」などの限定条件がついている)がわかってよかったです。
・「自分は平均以上にマナーがいいと思っている」という認識は他人がマナーを乱していることには気付いてもマナーを乱していないことには気付けないが、自分がマナーを乱していることには気付けない(気付いていたらそうそう乱さない)が、乱していないことは認識しているというギャップからというのはとてもわかりやすい例だなと思いました。
こういった他人への認識と自分への認識のギャップはいろいろなことに当てはまりそうだと思いました。
・継続して無力感を味わうことでネガティブになっていく「学習性無力感」もいろいろな人に当てはまりそうです。
日本人がこの「学習性無力感」に陥りやすい原因として、自分の将来を楽観的に思う傾向が弱いことというのもなるほどと思いました。
四章 無意識のだましと、上手につきあう心構え
・「ポジティブ・イリュージョン」と「ポジティブ・シンキング」の違い、前者は無意識のプロセス、後者は意識的なプロセスという違いがあり、ポジティブ・シンキングにはかえって全体として不適合状態を引き起こす可能性があるという話は納得できるなと思いました。
・ポジティブ・イリュージョンの二つの方略で、自分の行動の中から価値を拾い上げていく方略と、他人を不当にバカにすることで自分の価値を相対的に高める方略があり、後者は「仮想的有能感」とも呼ばれ、自尊感情との関連が薄いという話は身近にそういった事例もあり、わかりやすいなと思いました。
・世界の見え方の転換を進め、宗教や自己啓発セミナーにはまる過剰適応の話もありそうな話だなと思いました。
・「自分で悪徳商法にだまされに行く」という人のスキーマで、「世の中はやり方次第で大儲けが可能だ」という誰もが多かれ少なかれ考えている枠組みに親和的な情報、自分に快い情報が入っていきやすく、信じたいことを信じるという流れでだまされるというプロセスは、なるほどと納得できます。
五章 「自分のだまし方」を身につければ、物事はうまくいく
・「あるある大事典」やUFO発見番組などの「ウソは言っていないが全てを言っているわけではない」ということで「ウソ」と「だまし」は違うというのは確かにそうだと思いました。
UFOや超能力者の話で真実でないと発表されていても、UFOが発見されたという「報告があった」という事実はウソではなく、その事実のみを番組で流すというのはうまい言い訳だなと思いました(倫理的にどうかはともかくとして)。
六章 おたくこそ、だましのリテラシーの達人だ
・「疑り深い人ほどだまされやすい」ということはよく聞きますが、「だまし―だまされる」というシステムは常に存在するのに、情報をシャットダウンすることでそのリテラシーが弱くなるからだというのは納得できる説明だなと思いました。
・おたくがホットハート・クールマインドの持ち主だとかなりの文章量を割いて説明しているのは面白いなと思いました。
「おたくは虚構と現実を区別できない」という偏見と実態、ゲームやアニメが青少年の犯罪を引き起こすというよく言われることと、少子化のペースをはるかに上回る中学生未満の強姦被害率の減少ということのギャップなど、おたくでない人がおたくに原因を求めるということ自体も、自分は違うと思いたい「だまし」の現れかなとも思いました。