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【戦争論 レクラム版】レポート

【戦争論 レクラム版】
カール フォン クラウゼヴィッツ (著), 日本クラウゼヴィッツ学会 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4829502983/

○この本を一言で表すと?

 徹底的に理論立てた「戦術論」

○よかった点

・「第一編第三章 軍事的天才」で、将軍に必要な能力は「情意力(もっとも激しく興奮している最中でも、なお知性に従う能力)」だと述べていて、EQの重要性について主張していて面白いと思いました。

・「第二編第四章 方法主義」で、予め定めておいた方法に従うことを定めておく「方法主義」は有効であるが、盲目的に採用してはならないこと、特に戦略において採用してはならないことに触れていて、実際に「方法主義」・・・今でいえばマニュアル主義に凝り固まって失敗している事例が多い現実と一致していると思いました。

・「第二編第五章 批判」「第二編第六章 戦例について」で、過去の事例の検討において偏った見方をすることの危険性について触れていてもっともだと思いました。(ある結果が一つの要因で決まることはほとんどなく、複数の要因が存在するにも関わらず、主要な一要因が見つかった時点で納得してしまっていました)
 ⇒私自身、過去の事例において「この企業はこの時この戦略を適用したからうまくいったんだ」と単純に納得していたりしましたが、一度それで納得してしまうとそれ以上に追及することがなくなっていました。
 例)ローソンとセブンイレブンの展開戦略⇒ローソンは一から店舗を開設、セブンイレブンは元からあった酒屋等を利用
 ⇒セブンイレブンが優位に・・・ここで納得。
  ※セブンイレブンを展開したイトーヨーカ堂とローソンを展開したダイエーの資本力や物流等の経営資源、全体に対するコンビニ事業の位置づけなど、他の要素を考えずに納得していた。

○突っ込みどころ

・人的な要因以外(拠点、倉庫など)を「生命のない戦闘力」と称して軽視しているところ。

・奇襲、詭計はほとんど意味のないものと軽視しているところ。

・直接戦闘以外(兵站、補給等)を補助的なもと見て軽視しているところ。

・決戦主義により予備隊を置くくらいなら決戦に投入しろ、としているところ。

・諜報等の情報戦略に触れていないところ。

○「孫子」との共通点

・戦争は短期で決着すべし、という点

・「孫子」では「勢」、「戦争論」では「精神力」という表現ですが、士気や全体の勢い等の重要性について共に触れています。

○「孫子」との違い

・「孫子」に比べて「戦争論」は観察の対象としている期間が短い(18世紀と19世紀初頭のみ、しかもナポレオン以後の数十年が中心)ため、状況が限定されていて「突っ込みどころ」で記載したような点が出たのかなと思います。

・「孫子」が特に説明なく自分の考える大前提を持ってきてその応用を述べる形式であるのに対して、「戦争論」は大前提の説明に徹底的に記載を割いています。そのため、「孫子」は読む人の素養によって理解度や実践した結果が大きく異なり(軍は水の如く無形・・・と言われても実践できる人は限られる)、「戦争論」は比較的理解しやすく実践に移しやすいため、「教科書」にするなら「戦争論」が適していそうです。

・「孫子」が「故に上兵は謀を伐つ。其の次ぎは交を伐つ。その次は兵を伐つ。」としているのに対し、「戦争論」は敵兵を残すのは後に憂慮を残すため撃滅するべし、と真逆のことを言っています。

○所感

 ・「孫子」と「戦争論」を比較して、「孫子」は複数の相手を対象とし、「戦争論」は1対1を対象としているため、「孫子」の方が優れている・・・と書かれているのを見て「戦争論」を軽視していましたが、どちらが優れているというわけでもなく、書かれた意図がそもそも違うということに気付けました。

・この本の「編者あとがき」でこの戦争論が書かれてから中途半端に理解したせいで誤解した人たちが出たことが書かれていて、面白かったです。明治時代に日本陸軍が参考にしていたモルトケもその誤解してしまった人に入っていたのはなかなか興味深かったです。確かにこの本で理論を説明するために仮定して述べた「絶対戦争」をそのまま受け止めて「全て殲滅が正しい」と理解してしまうのはありがちだな、と思いました。中途半端に読むと誤った理解を呼ぶなかなか怖い本だと思います。

・この本でナポレオンが戦争のあり方を改革し、様々な戦争で勝利したその理由に触れ、ロシアとの戦争で敗れたことに触れていますが、この本の著者のクラウゼヴィッツ自身がプロシャを亡命してロシアで参謀になり、そのナポレオンの敗北に貢献していたのはびっくりしました。