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【ずる 嘘とごまかしの行動経済学】レポート

【ずる 嘘とごまかしの行動経済学】
ダン アリエリー (著), 櫻井 祐子 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4152093412/

○この本を一言で表すと?

 不正を対象とした行動経済学について仮説と検証を繰り返した本

○この本を読んでよかった点

・不正を避けることがいかに困難かということがよくわかりました。

・疑問に思ったことを検証する方法を考え、実践して結論を得るプロセスを繰り返している手法自体が面白いなと思いました。

・「予想どおりに不合理」に比べるとかなり真面目な内容だなと思いました。

第一章 シンプルな合理的犯罪モデル(SMORC)を検証する

・ノーベル賞受賞者のゲーリー・ベッカーが提唱するSMORC(Simple Model of Rational Crime)の基本要素①犯罪から得られる便益、②つかまる確率、③つかまった場合に予想される処罰で、①の便益と②③の費用を天秤にかけて一つひとつの犯罪が実行に値するかどうかを判断できるというのは、確かにシンプルですが疑わしいモデルだなとその後の著者の意見を読まなくても思いました。
実際に著者らの実験で、報酬が大きくなると不正が減った事例、盲目の実験者に対する不正が減った事例などが提示され、そんなにシンプルではないことが示唆されていました。

第二章 つじつま合わせ仮説

・人は不正をするかどうか、する場合にはどれくらいするか、自分の欲求と良心の間で「つじつま合わせ」をするというのはなかなか現実的な仮説だなと思いました。

・不正が現金より代用通貨の方が二倍も行われたということから、現金から離れる方向に世の中が進んでいることへの著者の懸念も分かる気がします。

・十戒を思い出すように言われたグループや存在すらしない倫理規定を守る旨の署名で不正が減ったことは、自分の中での「つじつま合わせ」が大きな要因なのだなと思わせられます。

第二B章 ゴルフ

・ゴルフの不正な打ち直しで、「ボールを手で取る」「足で動かす」「クラブで動かす」で不正をしそうだと思う確率が異なり、自分の体から離れる方が確率が高くなるというのはごまかしの微妙な心理が垣間見えるなと思いました。

第三章 自分の動機で目が曇る

・歯科医の「高価な機器を購入⇒新しい機器を使って患者から料金を徴収したい⇒新しい機器を使う理由を探す⇒患者は新しい(場合によっては不要な)処置をされる」という利益相反の例は実際にありそうで怖い話だなと思いました。

・著者が高潔だと信じていた医者に髭の入れ墨を強く勧められた理由がその処置を学会で発表するための人数が足りないからだったこと、MRが医者やその周りに接待や便宜を図ることで医者が医薬品の導入を決定することなど、いろいろな場面においてある動機で通常とは異なる決定をするということが起こり得るのだなと思いました。

第四章 なぜ疲れているとしくじるのか

・自制心が疲労していくものであるという感覚的には当たり前のようにも思える考えが実験ではっきりと証明されていて面白かったです。
2桁の数字と7桁の数字を憶えさせられている協力者が誘惑に負ける比率、判事が仮釈放を認めるのは朝一番と昼食後の元気な時間が多いこと、著者の授業で学期の終わりごろに学生の祖母の訃報が増えることなど、実際の事例からも自身の感覚からもそうだろうなと思いました。

・合理的な人間はたまには誘惑に屈するべきだという「合理的放縦仮説」は、誘惑の言い訳として私も含めた多くの人が使っていることだなと思いました。

第五章 なぜにせものを身につけるとごまかしをしたくなるのか

・ひとつごまかしをすると他のごまかしに対する耐性が弱くなる、という話は感覚的にわかるなと思いました。

・本物のブランドのサングラスとにせもののサングラス(実は本物)をつけた学生を対象とした実験でにせものとされたサングラスを身につけた学生が不正をする確率が有意に高かったというのは、逆に高価なものを身につけることで意識が高まるというよく言われる話の裏返しでもあるような気がしました。

第六章 自分自身を欺く

・ウソをつき、そのウソのままに行動していると、いつの間にか自分自身も欺いてしまうという話は、確かにこれもありそうだなと思いました。

・ずるをした上で高得点をとった学生が、ずるができない次のテストでも自分は高得点をとれると信じていること、スポーツでドーピングをした者や、有名監督の偽物としてふるまった者が自分自身をも欺いていたことなど、目立つ事例は表に出てきますが、小さなことだと誰もがやってしまっているのかもしれないなと思いました。

第七章 創造性と不正

・創造性が高い人はつじつま合わせがうまいために不正をする可能性も高くなるという仮説と実験結果、知能(計算能力等)は不正とは有意な関係が見られなかったという結果は、いろいろと考えさせられました。

第八章 感染症としての不正行為

・自分と親しい人が不正をしていることを見ると不正への耐性が弱まるという実験結果は日本人だとよりよく出やすそうだなと思いました。
不正が感染する、誘発するという「割れ窓理論」は結構真実に近いのだろうなと思いました。

第九章 協働して行う不正行為

・自分が不正を行うことで他者の利益になる利他的な不正が起こりやすいという話は実感として分かりやすい話だなと思いました。
第三者が監視することで不正が行われにくくなるものの、長期的に監視者と信頼関係ができることで不正が行われやすくなることを第三者による監査制度を例に出して書かれていますが、アメリカでも日本でも監査する立場の者が粉飾に加担したことを考えればその通りだろうなと思いました。

第十章 半・楽観的なエンディング

・つじつま合わせ仮説から、人は「それほど」不正はしないという話はなるほどと思えるものの、本当の犯罪者による不正と普通の人の不正では、普通の人の不正の方が総計すると大きくなるという話や、P.274の不正を作る要因のまとめで不正を促す要因が「正当化の能力」「利益相反」「創造性」「一つの反道徳的行為」「消耗」「他人が自分の不正から利益を得る」「他人の不正を目撃する」「不正の例を示す文化」、不正に影響のない要因が「不正から得られる金額」「つかまる確率」、不正を減らす要因が「誓約」「署名」「道徳心を呼び起こすもの」「監視」と、数だけでなく内容を見ても不正を促す傾向の方が圧倒的に大きいことからうれば全然楽観的になれないなと思いました。