【Think Simple―アップルを生みだす熱狂的哲学】レポート

【Think Simple―アップルを生みだす熱狂的哲学】
ケン・シーガル (著), 林 信行 (監修), 高橋 則明 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4140815450/

○この本を一言で表すと?

 アップルに浸透している「シンプル」の文化とその実践について書かれた本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・紙質のせいで分厚く見える本ですが、ページ数が意外と少なく、内容も平易な表現で書かれていて「シンプル」についての内容が「シンプル」に伝えられている本だなと思いました。

・著者がアップルの社員ではなく、アップルに使われていた広告代理店の担当者という立ち位置で、同時期のアップル以外の会社でも仕事していることからシンプルの文化と非シンプルの文化の比較ができているところが面白く、また分かりやすかったです。

・タイトルは原題の「Insanely Simple」のままでもよかったような気がしますが、日本人向けにわかりやすく「Think Simple」と変えたことで間違いなくウケはよくなったのだろうなと思い、センスを感じました。

第1章 容赦なく伝える

・歯に布を着せない、率直な意見交換がやり取りをシンプルにするというのは、確かに納得はできるものの実践は難しそうだと思いました。
ある程度互いに人間関係ができているならともかく、誰にでも実践するのは強いハートが必要になりそうです。

第2章 少人数で取り組む

・意思決定におけるヒエラルキーや無駄なメンバーが邪魔になるというのはよく納得できますし、人数が増えるほど意思決定が難しくなることは自分の経験からもそうだと思いました。
一方で意思決定の段階から参加することでコミットできる、ということもあるので、ケースバイケースなのか、組織の性質によるのか、なかなか難しい問題だなと思いました。

第3章 ミニマルに徹する

・製品の数も、製品の機能や形状も最小化するという考えは、大いに納得できるものの、心理的に実践する時に大きな壁がありそうです。
「どうせならこれも・・・」「あれもできる・・・」と対象範囲を拡げたり選択肢を増やしたりする傾向に抗うには強い意志が必要になりそうです。

第4章 動かし続ける

・シンプルだから動き出すのが早い、動き出すのが早いからこそシンプルになれる、という好循環は強力だと思いました。
だからこそその逆の悪循環も強力で、一度ハマるとなかなか抜け出せないのだろうなと思いました。
アップルとデルやマイクロソフトとの違いが大きく出ているところだと思いました。

第5章 イメージを利用する

・イメージをシンプルにすることもそうですが、シンプルに企業イメージを思い起こさせるようにする仕組みづくりという点でもジョブズが復帰してからのアップルの戦略は卓越しているなと思いました。
企業か傾いているときに企業イメージを復活させるマーケティングに投資するという意思決定もすごいなと思いました。

第6章 フレーズを決める

・製品の名称や製品を表すフレーズの影響がかなり大きいことがよく分かりました。
これだと思った名称やフレーズが見つかった時に、訴訟等の障害を怖れずに突き進んだアップルはこの点を認識し、はっきりと意思決定を下していたのだなと思いました。

第7章 カジュアルに話し合う

・フォーマルさ、伝えたいことを修飾するデータや文章を忌避する文化というのは、第1章と同様にこれも率直な意見交換が進みそうだなと思いました。

第8章 人間を中心にする

・機能や性能の重要性を理解しつつも、人間性を優先してそれに合わせた開発を実施し、マーケティングを実施しているということ、それを実践し続けているということはすごい話だなと思いました。
広告が人間性を優先しているだけでなく、製品自体も人間を志向しているというこの一貫性は構築することは困難ですが構築していればすごい武器になりそうです。

第9章 不可能を疑う

・第6章でも書かれていた名称の法的な問題について、その問題が解決不可能かどうかを疑い、アップルが小売店を始めることについて、専門家やジャーナリストが失敗するという記事を書きたてたにもかかわらず独自の考えで構築して小売店として最高レベルの実績を出したり、考えて行動すると決めてから、その実現可能性をとことん追求する姿勢はすごいなと思いました。

第10章 戦いを挑む

・競合企業にケンカを売るようなプロモーションを実施したり、使えそうなコネなら必要であれば大統領も使ってなんとかしようとしたりする、目的に対する妥協のなさはすごいなと思いました。

○つっこみどころ

・若干、ジョブズを神聖化し過ぎているように思いました。ジョブズの伝記ではなくて、「シンプル」についての本なので、ジョブズを偶像化して描くこと自体が手法というならそれでいいのかもしれませんが。

・アップル以外の企業(インテル、デル、IBMなど)での仕事の体験をアップルと比較してかなり批判的に書かれていますが、広告代理店が顧客に対してこういった書き方をして問題はないのかなと著者のことが心配になりました。

・第1章と第7章、第6章と第9章などは顕著ですが、他の章も含めて、まとめたら7章くらいにまとまりそうだと思いました。この点では「シンプル」ではない本だと思いました。

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