【社会はなぜ左と右にわかれるのか 対立を超えるための道徳心理学】レポート

【社会はなぜ左と右にわかれるのか 対立を超えるための道徳心理学】
ジョナサン・ハイト (著), 高橋 洋 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4314011173/

○この本を一言で表すと?

 道徳とはなにか、どのように形成され、どのようにそれに基づいて行動しているのかなどを徹底的に研究している本
 

○よかったところ、気になったところ

・第1部、第2部、第3部で、それぞれ違った内容、目的、トーンで述べられているように感じました。
第1部を読み終わった時には「人間は直観に左右される生き物ってことだな」と思い、第2部を読み終わった時には「保守主義とリベラルの対立、保守主義がいつも強いように思う原因はここなんだな」と思い、第3部を読み終わった時には「集団選択の力、その全体的ではなく部族的な力は大きいな」と思い、別ジャンルの本をそれぞれ読んだような読後感でした。

・いろんな経験を経て著者自身も考え方の変化を経ていて、研究分野について徹底的に追求していく姿勢が興味深かったです。

・翻訳者が工夫して翻訳している様子が本文中に見られて面白いなと思いました。(ちょっとアピールし過ぎかなとも思いましたが)

第1部 まず直観、それから戦略的な思考

・道徳とは何か、道徳の境界はどこか等をキワドイ内容のアンケートと、さらに掘り下げる質問で追求していく手法がすごいなと思いました。
真面目で重要な研究だと思いますが、日本だと思い切り叩かれそうな手法で、こういった研究をできる事自体がすごいなとも思いました。

・いくつかの質問内容とその解釈を見て、自分自身も何かしらの道徳に囚われていること、それに気づけていないところがあるなと考えさせられました。

・直観の働きが理性に比べて格段に大きく、まず直観が動き、その結果に合わせて戦略的思考が正当化する、という話は、自分でも気づかないうちにやっていそうだなと思いました。
人の事例には気づけても自分の事例に気づくのはかなり難しそうです。
そして指摘されたら冷静になれなさそうにも思いました。

第2部 道徳は危害と公正だけではない

・頑固なリベラルだった著者がインドで生活することで危害と公正以外の価値観の存在を体感的に実感し、その後の研究に繋げていった話は興味深いなと思いました。

・「ケア」「公正」「忠誠」「権威」「神聖」の5つの基盤で検討していて、保守主義の反対者の意見を検討して「公正」の内容を見直し、「自由」を追加して6つの基盤とした流れは、著者の柔軟性が優れていると感じました。

・ベンサムの功利主義、カントの義務論ではなくデュルケームの道徳基盤理論を選択した経緯、共和党が6つの基盤を活用し、民主党が3つの基盤しか活用できていないため、民衆の道徳的な関心を得る能力は共和党のほうが高くなっている話等、興味深い話だなと思いました。

・デュルケームは名前はよく聞いたことがありますが、その著作や主張については知りませんでした。
著作を読んでみたいと思いました。

第3部 道徳は人々を結びつけると同時に盲目にする

・9.11の同時多発テロで衝動に駆られた経験から、個人ではなく集団を選択する強い動機づけに気づけた話があり、自分も「寄付はしない。自分に関係のない人間に寄付するくらいなら、その金を自分か自分の周りに使う」というポリシーだったのに東日本大震災で寄付した経験を思い出しました。

・集団選択、集団志向性が、全体的ではなく部族的なものだという話は興味深いなと思いました。
オキシトシンが協力を促すホルモンだということはいろんな本で読んだことがありますが、オランダの実験でオランダ以外の国に対してむしろより敵対的になった話などは驚きでした。
オキシトシンを世界の水に混ぜたら平和になるかという問いと、それに対する否定の話は極端ですが面白かったです。

・進化論で集団選択が一度完全に否定されていた話、宗教論でその話から宗教が害悪でしかないということに繋がる話と、それらに対して否定する著者の意見もそれぞれ興味深かったです。

○つっこみどころ

・道徳の三原則の説明だけで終わっていて、その原則故に対立する話のみで、その解決策や対処法についてはあまり触れられていないように思いました。
「あるべき姿」のようなもの自体が、特定のグループ内のもので、最善の解決策などない、ということなのかもしれませんが。

・理性を軽視し過ぎなようにも思えました。
第一原則「まず直観、それから戦略的な思考」には同意できますが、直観のあとの戦略的思考も重要で、戦略的思考に行動を従わせてきたことが個人の成長、組織の成長に繋がってきた面も大きいのではと思いました。
「道徳」の分野では直観の比重が相当大きい、ということでしょうか。

・サイコパスに対するフォローのない断罪等、判断の余地の有りそうな内容まで極端な発言が多めで気になりました。

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