【漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972-2022】レポート

【漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972-2022】
池上 彰 (著), 佐藤 優 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4065290120/

○この本を一言で表すと?

 1970年代中心の日本左翼史の最終巻の本

○よかったところ、気になったところ

・日本左翼史シリーズの最終巻で、1970年代から現代に至るまでの流れについての対談でした。

第一章 「あさま山荘」以後(一九七二年~)

・「あさま山荘事件」以後は日本共産党で新左翼の方向に分派した者を排除する「新日和見事件」があり、また新左翼の過激な活動が活発化して一般市民から忌避される方向に進み、アナキスト化していく方向にあったそうです。
新左翼の活動の中で1970年代後半以降で唯一盛り上がったのは成田空港を巡る「三里塚闘争」くらいだったそうです。

第二章 「労働運動」の時代(一九七〇年代①)

・1970年代から学生の政治闘争の時代から労働運動に焦点が移っていったそうです。
郵便番号を書かない反合理化闘争や労使協調を名目に労働運動を沈下させるマル生運動への反対などがあり、公務員のスト権を認めさせようとするスト権ストで敗北するなど、労使の戦いについて述べられていました。

第三章 労働運動の退潮と社会党の凋落(一九七〇年代②)

・国民が許容していた国鉄スト・順法闘争に対して、一般市民の反労組感情が噴き出した1973年の「上尾事件」や「首都圏国電暴動」で利用客が暴動を起こすなど流れが変わったのは興味深いなと思いました。列車の破壊や放火、国鉄職員への暴行など、その激しい内容にも驚きました。

・社会党右派の重鎮で党内外でウケの良かった江田三郎が、革命よりも市民社会論に依った考えで動き、社会主義協会によって社会党を除名された後、社会主義協会への権力集中が忌避されるようになって社会主義協会が選挙活動・政治活動に力を入れなくなり、社会党は右派が力を持つようになっていったそうです。

第四章 「国鉄解体」とソ連崩壊(一九七九~一九九二年)

・国鉄内の最大規模の労働組合である国労が国鉄赤字化の元凶とされ、国労以外の鉄労は当初から民営化賛成、動労は反対から賛成に転向し、民営化後には動労に鉄労が合流して成立したJR総連が最大の労働組合になったことが述べられていました。

・ソ連崩壊は日本共産党よりも日本社会党・社会主義協会に大きな影響を与え、社会党は社民主義に変化しようとしたものの高負担・高福祉ではなく、低負担・高福祉を提唱するような不徹底さで、連立政権で首相を排出して社会党のそれまでの主張を否定するような言動を取った結果、凋落していったそうです。

・日本共産党は社会党に幻滅した層の一部を取り込み、ナショナリズムを煽り立てるような方策で、冷戦後も組織防衛にある程度成功したそうです。

終章 ポスト冷戦時代の左翼(一九九〇年代~二〇二二年)

・小見出しごとに興味深いことが述べられていました。
左翼の要件の曖昧化、メディアのエリート化、新自由主義化した組織化されない運動の虚しさ、大きな物語を語れない左翼の弱さなど、どれも興味深かったです。

○つっこみどころ

・シリーズ三冊目ですが、「真説」「激動」に比べて内容が薄いように感じました。

・シリーズ初めの巻だった「真説」では「左翼の歴史を知らないままに左翼に惹かれていく」ことを危惧して左翼の歴史を語ることにしたとありましたが、最終巻のこの本では左翼の存在感のなさについて結論で述べていて整合しないなと思いました。

・1970年代の内容が中心で、1980年代以降の内容が薄く、特に現在に近い内容がほとんどなかったので残念でした。

・著者の一人である佐藤優氏は動労・JR労組の主導者で革マル派の松崎明と親交があり、松崎明の葬儀で弔辞を読んだこともあるからか、かなり松崎明を擁護するような内容になっていて、1980年代以降の革マル派の動きには全く触れておらず、残念ながら著者の立ち位置が反映されてしまっているのかなと思いました。

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