【社会学史】
大澤 真幸 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4062884496/
○この本を一言で表すと?
様々な社会学の分野の解説と社会学の歴史の本
○よかったところ、気になったところ
・時代ごとの社会学と社会学に繋がる分野について、それぞれ詳しく説明されていて面白かったです。
所々に自分がその著作を読んだことのある人も紹介されていて、著作を読んでも気づかなかった考え方などにも触れることができました。
・著作を読んだ印象として、この本で突き詰められているその著作の研究結果については、著者自身そこまで考えていなかったのではと思えるような深読みがされているように思えました(特にルソーについて) 。
ただ、自然科学でもまず発見があり、その発見の原理について突き詰めていくので、社会科学でも同様に直感的に結論が書かれているとして、その本質を後の研究者が検討して突き詰めていくのも同じようなものかなと思えました。
・読みやすい書き方の本でしたが、ある程度一気に読むと理解できたような気がするものの、少し時間が経つとどういったことが書いてあったのかを忘れてしまいそうになりました。
何度か読んで理解する本なのかもしれないなと思いました。
Ⅰ 社会学の誕生―近代の自己意識として
・社会契約について考えたグロティウス、パスカル、ホッブズ、ロック、ルソーなどのそれぞれの考え方について述べられていました。
ロックとルソーについては著作を一部読んだことがありますが、それらを読んだときはこの本で書かれているようなことまで読み取ることができず、新鮮に思いました。
・近代、特にフランス革命以降に社会科学という分野が成立していき、その流れで社会学も生まれていったことが説明されていました。
西洋の近代が、なぜ西洋で生まれたのか、歴史学や東洋学などからその差異が見いだされていった側面もあったようで、興味深いなと思いました。
・マルクスについて一節割かれていて、詳しく説明されていました。
資本価値と交換価値、疎外論と物象化論、敬虔なる守銭奴から資本家への飛躍、宗教としての資本と見放されたプロレタリアートなど、興味深い解釈だなと思いました。
Ⅱ 社会の発見
・フロイトが無意識の発見者として、社会学者に位置づけられているのは興味深いなと思いました。
エディプス・コンプレックスや快感原則など、心理学のイメージですが、それらの要素が以降の社会学の基礎になったそうです。
・デュルケームの社会的分業、ジンメルの相互行為としての社会など、社会に関する考え方が挙げられていました。
・ヴェーバーについては岩波文庫で出ている著作を一通り流し読みしたことがありますが、よく理解できず、この本で説明されているようなことを読み解くことができなかったので大変勉強になりました。
プロ倫で示された予定説と資本主義の関係の解説もわかりやすかったです。
Ⅲ システムと意味
・20世紀になってからアメリカが社会学の中心になり、パーソンズの機能が構造を決める構造ー機能分析、役割や演技などで社会活動を定義する意味の社会学、構造主義の社会学などについて説明されていました。
なかなか理解の難しい複雑な内容になっているなと思いました。
・近年の社会学者で考え方に触れたことがあるのはハーバーマスくらいでした。
コーヒーの歴史の本でコーヒーハウスが公共圏になっていたという流れでハーバーマスの公共圏、コミュニケーションこそが社会だという考え方が出ていました。
○つっこみどころ
・社会学の定義を「社会秩序は如何にして可能か」を追求する学問として、近代以降でないと社会学と呼べないと述べられていましたが、結論ありきでこじつけているようにも思えました。
例えば、アリストテレスの考えが社会学とは言えないのは、現実のポリスを目指しているからという理由付けがこの本ではされていましたが、アリストテレスの著作で描かれる目指すべき姿としてのポリスは現実のポリスというより目指すべき理想としてのポリスで、この否定には該当していないように思えました。
・この本での社会学の定義自体、あまり賛成できませんでした。
「社会秩序は如何にして可能か」は哲学的なテーマとしてはいいかもしれませんが、現実社会に役立てられるような内容ではないように思えます。
社会がどのようなメカニズムになっているかを研究し、実証していく学問全般でいいのではと思えます。
・アダム・スミスの「道徳感情論」と「国富論」について、この本では意見の異なる著作であるように書かれていましたが、実際に読んでみると「道徳感情論」の考え方の応用で「国富論」が書かれているように思えたので、この記述には同意できませんでした。
「公平な観察者」に関する記述も無理やりリヴァイアサンにこじつけているように思えました。