ゼミナール経営学入門 「第1章 戦略とは何か」

ゼミナール経営学入門 第3版
伊丹 敬之 (著), 加護野 忠男 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4532132479/

第1章<戦略とは何か>

1.戦略の定義と内容

○戦略の二つの定義

 ①戦略とは、「市場の中の組織としての活動の長期的な基本設計図」である。
  市場の中の・・・戦略のよしあしは市場競争の中で判断される
  組織としての・・・戦略は組織という人間の集団を率いるための構想
  活動の・・・戦略は実行可能なアクションの構想
  長期的な・・・戦略は長い時間的視野を見据えた構想
  基本設計図・・・現実に柔軟に対応するための基本方針としての基本設計図

 ②戦略とは、「企業や事業の将来のあるべき姿とそこに至るまでの変革のシナリオ」を描いた設計図、である。

○組織レベルで異なる内容、視点

 企業戦略(事業構造戦略)と競争戦略は異なる
⇒複数事業全体の戦略と個別事業の戦略の違い。(単一事業の企業なら同一)
⇒企業戦略は事業間の資源配分がカギ、競争戦略は市場対応行動のプランニングがカギ
 ※競争戦略は第2章と第3章、企業戦略は第4章と第5章で取り扱われる。
 戦略と戦術の考え方⇒戦術を下位組織の戦略と考える。

2.市場でのポジショニングと経営資源の蓄積

○市場でのポジショニング、組織としての実行能力

・外向きの成功要件:戦略が示す基本設計図が、市場の状況、産業の動向をきちんと理解して作られていて、市場という基本的な環境動向の中にきちんと自社を位置づけている(ポジショニングしている)こと。

・内向きの成功要件:基本設計図として決められた市場での企業の行動の基本方針を実際に有効に実行できるだけの資源や能力を企業が持つこと。
⇒ともに必要であるが、どちらを優先するかで二つの考え方がある。

・ポジショニング・スクール:市場でのポジショニングを優先⇒自分と他人との関係の中で自分はどうなるかを戦略として描く。

・経営資源スクール:資源や能力をより優先⇒自分は何者であるかを戦略として描く。
⇒資源の調達が容易であればポジショニング型が向き、資源の調達を内部蓄積に依存するなら経営資源型が向く。
経営資源とは:あるものが「利用」され、「蓄積」することそのものが計画に組み込まれ、また「蓄積」されたものが「利用」されるもの。

○経営資源の中核としての見えざる資産

他の企業が真似できない優位性の源泉となる経営資源:汎用性⇔企業特異性、可変性⇔固定性の2軸で考えると、企業特異性と固定性がともに高い「情報的経営資源」。

「情報的経営資源」の三つの性質

①カネを出しても買えないことが多い(したがって、自分でつくるしかない)
②つくるのに時間がかかる
③複数の製品や分野で「同時多重利用」ができる
 ⇒「同時多重利用」できる理由・・・①同時に複数の人が利用可能 ②使いべりしにくい③使っているうちに、新しい情報が他の情報との結合で生まれることがある

○事業活動が生みだすもの

インプットとして投入される経営資源のうち、アウトプットとしても生み出されるものは「カネ」と「情報」のみ。そして「情報」特異性が際立つ。
「人材」が重要な理由⇒情報的経営資源の担い手はヒトしかいない。

3.戦略と見えざる資産のダイナミクス

○見えざる資産蓄積の二つのルート

・直接ルート:意図的に蓄積する(ブランド作りのための宣伝、新技術会派のための研究)

・業務副次ルート:日常業務を通じて副次的に蓄積する。
⇒業務副次ルートの方が独自性を持っている。(狙ってそれだけを得られるものではないため)⇒仕事の仕方が重要⇒仕事の内容を大枠で決める企業の戦略が重要。

○企業成長の背後の双方向ダイナミックス

戦略を立案・遂行することで見えざる資産を蓄積し、蓄積された資産からまた新たな戦略が可能となる。
技術が戦略をドライブする、競争優位の追及が企業に変化対応能力を蓄積させる、挫折から経験を蓄積する、などが考えられる。


<演習問題>

1.戦略が失敗した例

戦略の二つの定義
・戦略とは、「市場の中の組織としての活動の長期的な基本設計図」である
・戦略とは、「企業や事業の将来のあるべき姿とそこに至るまでの変革のシナリオを描いた設計図」である

・「ベータ」と「VHS」の争い
 業務用の「U規格」と同質の品質を追求した「ベータ」と、顧客の求めているのは画質ではなく「時間」だとして妥協した「VHS」の勝負
 自社生産にこだわったソニーと、OEMにより参入会社を増やした「VHS」

・住友軽金属
 アルミの伸銅事業から圧延事業に展開しようとしたが、あまりシナジーが発生せず、撤退することに。

・ANA
 航空会社からホテル事業に参入したが、あまりシナジーが発生せず、撤退

2.ポジショニングスクールと経営資源スクールのどちらかに偏った場合に現れる戦略的欠陥

・ポジショニング・・・外向き(環境)
・経営資源・・・内向き(基本方針を実行できる資源、能力)

ポジショニングスクールに偏った場合⇒内部資源に目を向けない
⇒自社資源では賄いきれない市場機会に飛びつく可能性がある。
⇒良い機会があってもそれに対応する内部資源が蓄積されていない可能性がある。
経営資源スクールに偏った場合⇒外部環境に目を向けない
⇒市場の機会に気付けない、気付いてもその機会に適した経営資源ではない(方向性が違う)可能性がある。

3.マーケットシェアが高いことが競争力につながる理由

 ⇒見えざる資産の蓄積につながる
  ⇒生産経験、顧客との接触の両面から

・生産経験面・・・経験曲線上有利に働く、スケールメリットを享受⇒コストダウン、品質向上


・顧客接触面・・・顧客のニーズに触れる機会が多い⇒ニーズを反映した商品・製品を提供しやすい
         顧客に認知される可能性が高くなる⇒ブランド構築

タイトルとURLをコピーしました