【MITメディアラボ 魔法のイノベーション・パワー】レポート

【MITメディアラボ 魔法のイノベーション・パワー】
フランク モス (著), 千葉 敏生 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4152093161/

○この本を一言で表すと?

 学際的なMITメディアラボの考え方・行動・組織・発明品について触れた本

○この本を読んで興味深かった点

・ただ一つの専門ではなく、学問に境界を設けずに挑戦するMITメディアラボの教授や学生の考え方、行動、そしてやり遂げたことはどれもすごいことばかりで読んでいてワクワクしました。

・成果物の知的財産をスポンサーの共有財産とすることで過剰な干渉を避けることができ、失敗を恐れないこと、リスクのない分野は却下するというチャレンジ精神が養えているのはすごいなと思いました。

・考えるだけでなく、まず作ってみるという精神は物事を進めるスピードが一気にアップしそうです。そのために、音楽家がプログラミングをしたり、エンジニアが医療関係のフィールドワークをしたりする、まず自分で始めるという精神を皆が持っているという文化は素晴らしいなと思いました。

第1章 情熱のちから

・バイオメカトロニクス・グループのトライ・アンド・エラーを繰り返して義足をつくりこむ情熱と、何より登山家だった担当教授のヒュー・ハーが高校生の時に両足を切断する怪我を負い、義足を分解してオリジナルの義足を開発し、登山やロッククライミングをやってのけた後でMITメディアラボに入ったという経歴もとんでもないなと思いました。
著者と初対面の時に階段を猛スピードで駆け下りて、両足が義足だったことをばらすというユーモアあふれたパフォーマンスもその時の著者の驚きが目に浮かぶようで面白いなと思いました。

第2章 学問の消えゆく境界

・MITメディアラボのMITレッド・バルーン・チームがDARPA(インターネット技術を開発したところ)のインターネット40周年記念のアメリカ全土で10個のレッド・バルーンを発見するというチャレンジで、SNSの原理を利用して賞金を山分けする仕組みを作って(発見者は1個当たり賞金の半分、発見者の紹介者はそのまた半分、その発見者はそのまた半分・・・)9時間で見つけ出したという話は、直前に参加することを決めてそのプログラムやサイトを準備して実施した前準備も含めてとんでもないなと思いました。

・LAM(リンパ脈管筋腫症)という珍しく治療不能な疾患にかかった女性が諦めるのではなく、患者同士のネットワークを築き、情報を共有する仕組みを気づきあげて解決をめざし、さらに医療関係者の情報共有の仕組みも作ったという話は、問題を技術で解決しようとするいい例だなと思いました。

・建築を学んだ学生が一から自動車の開発を始め、自動車業界では100年前に一度挫折し、それ以降成し遂げられなかったロボット・ホイールや折り畳み機能を持った車の開発を1年で成し遂げたという話は、「二十一世紀のもっとも重要な学問分野のひとつとは、そもそも専門分野がないことなのだ」というMITメディアラボの考え方を表していてすごいなと思いました。

第3章 難しい遊び

・「モノのグーグル検索」と呼ばれるTaPuMaや、鉛筆で書くことで音楽を奏でるドローディオ、スマートシティを考える上でのシティ・カーなど、の厄介な問題を「難しい仕事」ではなく「難しい遊び」と考えるMITメディアラボの精神は見習いたいなと思いました。

第4章 必然の偶然

・子供の学習過程の記録・分析が銀行業務の改革に繋がったり、音楽家の演奏用の電子楽器がマジックのネタに繋がってさらに野球選手の故障の原因究明に繋がったりする、その偶然の出会いを作り出す機会がMITメディアラボに面白くて自分とは関係のない分野でも見たくなるデモの発表などを通じて広がっているというのは、正しいことや人に認められることをやり続けることで思いもよらない機会を引き寄せる、そのいい例だなと思いました。

第5章 新しい“正常”

・障害者市場が小さいと考えた著者に対して、シーモア・パパートがその見方は時代遅れだと言い返したこと、その理由は、人間はみんなが障害者であってその障害の程度が異なるだけだと答えた話にはなるほどと思いました。
障害者向けに開発した商品の市場は地球上のほぼ全員があてはまるというのは理想的でありながらも地に足がついている考え方であるように思いました。

第6章 ともに暮らし、ともに学ぶ

・ロボットの開発で、「常識」を組み込むことが困難だという話に、人間が自然に学び取ることの複雑性に改めて気づかされました。
すべてを指示しなくてはならないロボットではなく、「常識」を備えたロボットが介護などの人と接する場所で有用であることは創造が付きますし、すでにその導入が始まっていて結果を出しているという話に、私が考えていたよりも世界は進んでいるのだなと改めて思わされました。

第7章 エージェントの時代

・「コラボリズム」という医療の現場で活躍するテクノロジーはすごいなと思いました。
患者へのヒアリングをネットワーク上のエージェントが行って情報を集め、医者と患者の共同作業としての医療に繋げるその仕組みは、医者の診察がいつも手抜きに感じられて信用できない私からすると本当に素晴らしいしくみだなと思いました。

・服薬やダイエットをうまく続けさせる仕組みで、従来の強制させる仕組みではうまくいかないことから、コミュニケーションが取れるロボットにコーチングを実施してもらう仕組みでうまくいったという話は、工学だけでなく心理学などの他の学問との境界を設けないMITメディアラボならではの業績かなと思いました。

第8章 私はクリエイター

・脳性麻痺で頭を動かすことしかできない人が作曲と演奏することを可能にした「ハイパー・スコア」、電子繊維で女性がエンジニアリングに携わることを可能にした「リリーパッド」、子供が自分でプログラミングして作品を作り上げることができようにした「スクラッチ」は、オリヴァー・サックスの「われわれはテクノロジーを人間化しなければならない―人間がテクノロジーから人間性を奪われる前に」という言葉を実現しているように思えました。

タイトルとURLをコピーしました