【ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現】
フレデリック・ラルー (著), 嘉村賢州 (その他), 鈴木立哉 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4862762263/
○この本を一言で表すと?
ティール組織という新しい組織論の考え方とつくり方、実例を紹介している本
○面白かったこと・考えたこと
・新しい組織論の本で、2018年のベストセラーと知って、ミーハー心で購入した本でした。
最初は理想論ばかりで自己啓発をこじらせた怪しい本だなと思いながら読み進めていましたが、途中から実現可能ではあるのかなと思い始め、読んでいて「こういう点で無理なのでは?」と思った点に対する対応策も書かれていて、結構地に足の着いた考えも書かれているなと思いました。
・実現でき、維持できるのであれば、確かにティール組織に属する人は幸福になれるだろうし、事業もうまく回りそうだなと思えました。
合わない人は組織を抜けて、また異なる組織に向かう、というのもそうであろうなと思えました。
・人を中心に考える組織のあり方として、日本的な組織・企業とどこか類似点がありそうだなと思いました。
立ち上げも運営も全然違いますが、日本の経営学で提唱される「人本主義」などと一部重なるくらいはするように思えました。
<第Ⅰ部 歴史と進化>
第1章 変化するパラダイム
・人類の経てきた組織パラダイムの変遷について述べられていました。
無色(家族・部族単位で組織モデルが何もない状態)、マゼンタ(神秘に頼る状態)、レッド(衝動的で力が全ての状態)、アンバー(順応的で、慣習や法に従う状態。ここから大組織になり得る)、オレンジ(達成型。イノベーション、説明責任、実力主義などが特徴。現代の多くの企業がこの状態)、グリーン(多元型。あらゆる層の平等を志向する。権限の委譲、価値観を重視する文化、多数のステークホルダーの視点)がこれまで表れてきたそうです。
第2章 発達段階について
・どのパラダイムも前の段階を内包し、それを超えていること、その組織のリーダーが何を志向するかによって属するステージが変わることが述べられていました。
第3章 進化型
・グリーンで終わらず、その先にティール(進化型)が存在するはずであること、それはエゴを抑え、外的から内的なものになり、自身・人間関係・自然との全体性に基づくものになるそうです。
<第Ⅱ部 進化型組織の構造、慣行、文化>
第1章 三つの突破口と比喩
・ティール組織の事例研究から「自主経営」「全体性」「存在目的」の3つが重要であることが述べられていました。
第2章 自主経営/組織構造
・ミドルマネジメントが存在しない、スタッフ機能を最小限とした自主経営が成功した事例としてオランダの地域介護事業のビュートゾルフやドイツの自動車部品メーカーFAVI、アメリカの電力会社AESが紹介されていました。
・手法、スケジューリング、購買に至るまで、チーム単位、個人単位で決定まで行うことができる体制を整えることで、教育も新しい事業の開始も全てが担えたそうです。
第3章 自主経営/プロセス
・自主経営が運営されている仕組みについて述べられていました。
・命令ではなく助言プロセスによって、独善的な誤った意思決定が正されること、個人間・第三者を挟むことで多くを巻き込まずに問題解決すること、役割を固定せず流動的にすることで固執させないこと、チーム単位で実績を管理し、実績では排除しない仕組みを作ること、解雇・採用・報酬などもチームに任せること、などの仕組みをうまく運用して自主経営を成り立たせているそうです。
・組織構造・リーダーシップがない、全員が平等、等は誤解で、グリーンまでの組織とは違った形で組織構造・リーダーシップ・地位が決められていると述べられていました。
第4章 全体性を取り戻すための努力/一般的な慣行
・全体性を確保するために、人間らしさを仕事でも重視し、内省のための空間・時間を確保し、物語を話し合い、ミーティングや紛争解決を形式的にではなく納得のいく形で実施し、建物や地位を示すような物もオープンにし、環境問題や社会問題に積極的に取り組めるようにするなどの取り組みをティール組織ではしているようです
第5章 全体性を取り戻すための努力/人事プロセス
・採用、オンボーディング(入社時の組織に馴染むための教育や研修)、研修、労働形態・労働時間の設定、フィードバックと実績管理、解雇など、それぞれ従業員が従業員に対して実施し、醸成していくプロセスとして述べられていました。
第6章 存在目的に耳を傾ける
・ティール組織は存在目的がはっきりと定められていて、その活動も意思決定も存在目的に沿って行われること、マーケティング上の利点や利益などよりも存在目的を重視すること、予算を簡素化し、予実分析も行わないこと、個人の目的と組織の存在目的の交点を探り、一致するところで働くことが基本であることなどが書かれていました。
第7章 共通の文化特性
・ウィルバーの四象限(内面的・外面的な次元、個別的・集合的な次元)で、「人々の信念と心の持ち方(内面的・個人的)」「人々の行動(外面的・個人的)」「組織文化(内面的・集合的)」「組織のシステム(外面的・集合的)」の四象限がそれぞれ関連していて、組織文化はその他の三象限から影響されて形作られるものであること、ティール組織の企業は自主経営・全体性・存在目的の点で共通する点が見られることなどが述べられていました。
<第Ⅲ部 進化型組織を創造する>
第1章 必要条件
・新しいティール組織の創立、既存の組織のティール組織への変革に必要な条件として、経営トップがティールの世界観を養い、精神的な発達を遂げていることと、組織のオーナーがティールの世界観を理解し、受け入れていることの2点が挙げられていました。
・理想論に終わらせず、実際にティール組織を運営していく上で、現在の会社制度などからこの2点は備えていなければすぐに破綻しそうだなと納得しました。
・実際に国際的にティール組織を運営できていたAESが取締役会の承認を得られなくなったことで通常の組織に戻ってしまった事例は、ティール組織として運営し続ける困難さと、二つの必要条件が最低条件であることを示しているなと思いました。
第2章 進化型組織を立ち上げる
・ティール組織を立ち上げるには、3つの要素「自主経営」「全体性」「存在目的」のどれか一つから着手して機能するようにすれば、他の二つが機能しやすくなること、3つの要素を機能させるには第Ⅱ部で述べられていた各要素の慣行を導入していくことが近道であることが述べられていました。
第3章 組織を変革する
・既存の組織をティール組織に変革する場合も立ち上がる時と同様に3つの要素「自主経営」「全体性」「存在目的」を機能させていかなければならないが、何もないところから立ち上げるよりも変革する方がかなり大変そうだなと思いました。
・経営者のリーダーシップが高度に求められ、切り替えるタイミングなども状況を観察して把握した上で程度も図る必要があるなど、相当の能力が求められそうだと思いました。
第4章 成果
・ティール組織が機能することで、実際に大きな成果が得られること、3つの要素「自主経営」「全体性」「存在目的」が正常に機能していればオレンジ組織等よりも明らかに力を発揮できることが述べられていました。
第5章 進化型組織と進化型社会
・ティール組織が当たり前になったティール社会の姿が述べられていました。
大量消費から循環型経済へ、所有から管理責任へ移行し、グローバル・コミュニティーが発達し、革命的な民主主義に変わっていくそうです。
ティール社会の中のティール組織は株主のあり方も変わり、通気性の良い柔軟で居心地のいい組織になるそうです。
○つっこみどころ
・条件が揃えば実現可能な組織だと思えるようになりましたが、未来の組織がティール組織に収束していくというのは論理が飛躍しすぎているなと思いました。
実例の数も少なく、立ち上げでも既に運営されている企業の変革でも導入にかなりの苦労が必要とされそうで、この考え方がスタンダードになるイメージまでは持てませんでした。
・通常備えているであろう良識等が、自主経営がうまくいく根拠になっていることもあり、排除される暗黙のプロセスも併せて用意したとしても、性悪説まではいかなくても性弱説で、心の弱さから恣意的な運用に傾くことはありそうで、その辺りをクリアするには組織設立者と賛同者のリーダーシップが常に発揮されていないと難しく、かなりハードルが高そうだなと思いました。
・製造業、サービス業等がメインで事例として挙げられていましたが、IT技術・インターネット技術の進展やプラットフォーム経済等についてはほとんど触れられていませんでした。
実体経済以外でもある程度通用するかもしれませんが、そういった産業のプライバシー・セキュリティーや技術特性の方向性とティール組織の方向性は完全に反するわけではないものの同じ方向性とは思えず、現在のGAFAと呼ばれる企業を同業種のティール組織で対抗できるかというとかなり難しそうな気がしました。
・唯一掲載されているオズビジョンのサイトを見ると、この本に載っている「Good or New」「Thanks Day」はもうやっておらず、これらの施策が組織文化に馴染めるかどうかの踏み絵になって社員の1/3が辞めていったそうです。
「Good or New」はとにかく会話しないといけないという義務感から上っ面感が出てきてオフィスの増床のタイミングで廃止、「Thanks Day」は初めは新鮮で盛り上がったものの、飽きない工夫を続けないと形骸化してしまって途絶えていったそうです。
そういった活動を全くやっていないわけではなく、それに代わる様々な施策を実施しているらしいですが。
・第Ⅱ部第6章で「7つの習慣」を始めとする自己啓発書をタイトルのみで批判している箇所がありました。
脚注でタイトルはともかく内容は若干グリーン的なものであるとフォローしてありましたが、この本の主題とかなり似ている本もまとめて批判していたので、あまり原典を読んでいないのだろうなと思いました。