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【GMとともに】レポート

【GMとともに】
アルフレッド・P・スローンJr. (著), 有賀 裕子 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4478340226/

○この本を一言で表すと?

 GMと自動車業界の興隆と中興の祖アルフレッド・スローンの伝記

○考えたこと

・GMについて書いた本がなぜ経営書として有名な本になっているのか、読む前は不思議に思っていましたが、経営学の入門書に書かれているようなこと(事業部制、製品ポリシー、統合と分散、マーケティング手法、財務によるコントロール等)がほとんどGMから始まっていたということがわかって驚きました。

・当然の仕組みと思って特にそれ自体について考えることがなかった仕組みについて、それらがなかった時代にどう導入していったかを知ることで見直す機会になりました。

・GMという会社が設立から世界有数の企業になるまでの物語とその中で経営学の理論がどのように実践されていったかの事例という2つの側面を楽しめる本だなと思いました。

・ITTの中興の祖ハロルド・ジェニーンの「プロフェッショル・マネジャー」とコンセプトが似ているなと思いましたが、「プロフェッショナル・マネジャー」はマネジャー個人に焦点を当てているのに対し、「GMとともに」は企業自体に焦点を当てている違いがあるなと思いました。
「GMとともに」が新訳になる前の翻訳者が「プロフェッショナル・マネジャー」の翻訳者でもあるというのは面白いなと思いました。

・ドラッカーの紹介文でドラッカーがGMの問題点を書いた「会社という概念」という著作がスローンにも誤っていると言われ、「GMとともに」がその反論として出版されたというドラッカーの自負、ドラッカーが「GMとともに」についてスローンに意見を出しても一切採用されなかったことが書かれていることと、スローンの序文でいろいろな協力者に触れているのにドラッカーについては書かれていないことの対応が面白いなと思いました。

第1章 大いなる可能性―1

・フォードがT型を発売した年とGMが設立された年が同じ1908年だということは初めて知りました。
センス系経営者のデュラントの合併を多用した拡大戦略で一度会社を追われ、また復活するところはスティーブ・ジョブズと似ているなと思いました。
復活時に資金提供先となったデュポンから才気走ったラスコブが派遣されてきて、二人でさらに拡大路線を突っ走る様子が面白かったです。

第2章 大いなる可能性―2

・スローンがハイアットという部品メーカーの経営者になり、そのハイアットがGMに買収される形でGMの経営陣に加わったこと、デュラントの暴走とデュラント自身の借金の焦げ付きが原因でついにデュラントが退陣することになったことなど、舞台裏がいろいろ書かれていて面白かったです。

第3章 事業部制の誕生

・事業部制はデュポンが最初に始めたという話が経営学の本でよく載っていますが、GMで始めてそれを経営参画していたデュポンの人が自社に持ち帰ったということは初めて知りました。
スローンが自分の経験をもとに事業部制を考え出したというのは、自分の経験からこういった仕組みを考えられるという現代にも通じる能力を持っていたのだなと感心させられました。

第4章 製品ポリシーの構築

・各事業部がバラバラに製品を作っていて、事業部同士で顧客を取り合うような状態から製品ポリシーを定めて棲み分けを決めたこと、フォードがほぼ独占している低価格帯も攻めることを決めたというのは、今だと当たり前のようなことですが、それなりに大きくなった企業にこういったことを導入したのはすごいなと思いました。

第5章 失われた二年半―銅冷式エンジンの教訓

・才能があってすでに認められた技術者であるケッタリング率いる研究チームと事業部の対立、それにより進まなかった銅冷式エンジンの導入とそのために生産が止まっていたことによる損失など、今でもありそうな事例が詳しく書かれていて当事者のイライラも伝わってくるような気がしました。

第6章 繁栄の礎

・デュラントの後を継いだピエール・デュポンの功績を称えるためにこの4ページの章を設けたのは自分を後任に指名した義理を感じていた面もあるのかなと思いました。

第7章 総力の結集―自動車ブームを迎えて

・社長の権限の強化、銅冷式エンジンの教訓から設置した技術委員会と拡大する市場に対応するための全社セールス委員会の設置など、状況に応じた統合と分散の統合面の組織戦略的対応のいい事例だなと思いました。

第8章 財務コントロールの強化

・今では形式がかなり確立されている財務という分野がほとんど確立されていない状態の不安定さと、そこに確立するための大変さがよく伝わってきました。

・放任状態から、予算の遵守、運転資金の本社への一元化、部品在庫・ディーラー在庫の把握による生産のコントロール、事業部ごとの財務状況の把握、標準生産量の設定など、現代ではないことがあり得ないようなコントロールがどういった理由で導入されているかとその重要性がよく伝わってきました。

第9章 自動車市場の変貌

・単一製品を大量生産するフォード1強時代から市場のニーズが変わっていったことはいろいろな本で書かれていますが、その多様化が求められる時代にどういう意思でGMの経営陣が対応していったかがわかってよかったです。

第10章 方針の立案

・戦略の立案と実行を分離するという現代の大企業では当然のようなことを、どういった考えで行っていったかがわかってよかったです。

・ポリシーグループが方針を立案し、各事業部が詳細を練って実行するという長期的な視点を見据えつつ実行できる体制を他の企業が対応できていないうちに築けたのはかなりの強みになったのだろうなと思いました。

第11章 財務面での成長

・1908~1929年の長期拡大期、1930~1945年の大恐慌と第二次世界大戦、第三期の戦後の再拡大期という大きく環境が変わってきた中でそれぞれの状況で適切に対処し、成長してきた歴史が書かれていました。

第12章 自動車の進化

・燃料の改良、トランスミッションの発展とAT車の開発、タイヤとサスペンションの改善、新塗料の開発など、現代の自動車以前から現代の自動車に繋がる技術の進歩の歴史を知ることができてよかったです。

第13章 年次モデルチェンジ

・二年前から新モデルの開発を進めるプロセスを毎年行う年次モデルチェンジは今ではどこでもやっていると思いますが、それを始めようと考えて実践したことがすごいなと思いました。

第14章 技術スタッフ

・研究からそれを製品化するまでの技術スタッフの関わり方やGMの彼らに対する扱いについて書かれていました。

第15章 スタイリング

・技術者が幅を利かせて他の者の意見が通らないような状況から、スタイリングの重要性に着目してアート・アンド・カラー部門を設立し、デザイナーの責任者のハーリー・アールをバイス・プレジデントに任命するなどの動きでスタイリング重視の企業に変革したことはすごいなと思いました。
今の日本企業でも技術偏重でデザイン部門が弱く、製品自体が弱くなった企業の話を聞きますが、そういった状況とは大違いだなと思いました。

第16章 流通問題とディーラー制度

・作ったら後はディーラーに任せるという体制からディーラーという顧客に接するものを重要視して体制を変えていったスローンの着眼点はすごいなと思いました。

・ディーラー向けの経営手法を開発して研修を実施すること、ディーラーの経営状況や在庫状況なども把握して対応すること、ディーラーとしての才覚はあっても資金がない者に融資すること、ディーラーの意見を吸い上げるための仕組みを作ることなど、こういった自社だけでなく利害関係者も視野に入れた戦略を立案して実行できたというのはスローンが卓越した経営者だったことを示していると思いました。

第17章 GMAC

・自動車自体にも自動車を買う顧客にも信用がなく、銀行が融資を渋っていた状態でGMがGMACを設立して消費者金融制度を展開したというのは妥当な手段だなと思いました。

第18章 海外事業

・GMが戦前のドイツ進出というかなりリスクのある事業展開をしていたというのは面白いなと思いました。
それだけドイツがまた大戦を引き起こすとは考えられていなかったのかもしれないなと思いました。
GMが買収したオペルがナチスに接収され、戦後に西ドイツに取り上げられそうになるところをなんとか確保できたという話は、戦前・戦後でないとあり得ない珍しい事例だなと思いました。

第19章 多角化:非自動車分野への進出

・蒸気機関車がメインでディーゼル機関車に注目もされていない状況で、GMがディーゼルエンジンの開発に注力し、蒸気に対する優位性を証明して機関車業界を革新したというのはすごい話だなと思いました。

・GMが家電事業に進出し、それなりに成果を出したという話は面白いなと思いました。フリジデアーという名前をどこかで聞いたことがあるなと思いましたが、「7つの習慣」でフランクリン・コヴィーの奥さんがフリジデア社の冷蔵庫に固執し、コヴィーが指摘すると奥さんが感情的になってしまうというエピソードで語られていました。奥さんの父親がフリジデア社にお世話になったということとそのことを奥さんが子どもの頃から何度も語っていたことが原因であったという話でした。

・航空業界への進出は、エンジンという共通点があるのでそれほど不思議ではないと思いますが、経営陣を派遣して航空業界の経営スタイルに影響を与えていたというのは初めて知りました。

第20章 国防への貢献

・GMが軍事産業にも関わっているというのは戦車などの共通点があるので不思議には思っていませんでしたが、銃などの他の分野にわたっても関わっていたということは初めて知りました。また、初めて取り扱う分野の製品についても素早く対応できる経営体制がすでにあり、低コストで兵器を提供できていたというのはアメリカの戦争継続能力を高める大きな一因になっていたのかなと思いました。

・スローンは真珠湾攻撃前から戦時体制への切り替えを検討していたようですが、当時はルーズベルト大統領の参戦しないという表明がまだ生きていた頃だと思います。スローンは政府との繋がりなどで予め戦争したいという意思を知っていたのかなと思いました。

・戦時生産から平時生産への切り替えも予め考えていたこと、戦後需要が拡大することに注目していたことは、スローンの先見力を表しているなと思いました。

第21章 人事・労務

・福利厚生について法律などで強制される前から対応し、昇給などの対応についても労働組合側も納得できるような形で持っていったというのはそれだけでもすごい対応力だなと思いました。そんなスローンたち経営陣も嫌気がさすほど強圧的な組合の活動(1937年の座り込みなど)もすごいなと思いました。

第22章 報奨制度

・ボーナスや株式取得でモチベーションを上げる仕組みがエージェンシー問題(会社の所有者である株主と雇われる経営者の利益相反問題)の解決に役立つというわかりやすい事例だなと思いました。

第23章 経営とは何か

・「組織は戦略に従う」と提唱したアルフレッド・チャンドラーが序文でGMの協力者とされていたと書かれていましたが、まさに戦略によって組織を都度再構成してきた歴史が書かれていたなと思いました。

第24章 変化と進歩

・スローンが引退した後の経営陣もGMをうまく経営してきたことが書かれていました。GMの組織は状況によって変えていくべきものであって完成されたものではないとも書かれていました。GMが9.11事件の後も生産量を落とさないなどの方針を採って収益を落とし、提携などの策も採らないような硬直ぶりをみせ、ついには経営破綻に至ったことをスローンが知ればどう思うだろうかと思いました。

○参考にならなかった所、または突っ込みどころ

・日本語がおかしいところ、数字の間違い(万と億の違いや、文脈からしておかしい数字等)などが散見されました。

・何年に何が起こったのか、各章でバラバラにでてくるので、起こったことや実績をまとめた年表が欲しいなと思いました。

・自動車産業の草創期に設立した会社が大企業になっていく過程を経験した経営者、管理者がまだ残っている時代の話で終わっているので、そうでない停滞した産業においてはこの本に書かれているような取り組みはそのままできるわけではなさそうだと思いました。

・第Ⅰ部がGMの歴史と概要、第Ⅱ部が各論となっているとイントロダクションで書かれていましたが、ところどころ混じっていて構成はそれほど練られていないのかなと思いました。
スローンが亡くなる3年前に出版された経緯を考えると、出版社側も構成について強く言えなかったのかもしれないなと想像しました。