【韓国社会の現在 超少子化、貧困・孤立化、デジタル化】レポート

【韓国社会の現在 超少子化、貧困・孤立化、デジタル化】
春木 育美 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121026020/

○この本を一言で表すと?

 韓国の社会を客観的に描いた本

○よかったところ、気になったところ

・韓国の社会がどのような社会であるか、数字をもとにした客観的事実を中心に述べられていて興味深かったです。

・帯に「隣国の苦悩は、日本の近未来だ」と書かれていましたが、過言ではないなと思いました。
日本でこうあるべきと考えられているような民主主義、特に民意が政治に反映されることや、デジタル化などの理想を実現すればこうなるという社会であるようにも思えました。
また、それがよいのかどうかを問いかけるような内容でもあるなと思いました。

第1章 世界で突出する少子化

・少子高齢化の最先端を行く国は日本だと思っていましたが、韓国が日本を超えるペースで少子高齢化が進むことを初めて知りました。
出生率・未婚率の低下や晩婚化は既に日本より進んでいて、結婚・出産・育児へのネガティブなイメージも顕著だそうです。
1997年のアジア通貨危機から専業主婦志向が一変し、男性稼ぎ手モデルが成り立たなくなり、女性の社会進出が進んだことでそのようになっていったそうです。

・歴代政権の少子高齢化施策を見ると、日本よりも踏み込んで様々な政策が打ち出されていますが、効果はあまり見られないそうです。
2013年の保育無償化で供給が追いつかず、質の低下を招いたそうです。
2019年の日本の保育無償化は韓国の事例を考慮しておらず、同じ轍を踏みそうだなと思いました。

・国際結婚が結婚奨励策として勧められているそうで、韓国語教育プログラムなども充実しているそうです。
ただ、子供の教育費がすごく、特に早く授業が終わる小学生は習い事を詰め込むためにかなりの費用がかかるそうです。

第2章 貧困化、孤立化、ひとりの時代の到来

・韓国は高齢者の相対的貧困率が5割に迫り、OECD加盟国36カ国中トップで、OECD平均の3倍近いそうです。
一方で、GDPに対する社会保障支出比率は1割強でOECD平均の半分程度だそうです。
生活困難な高齢者が多いために高齢者の労働力が突出して高いそうです。
高齢者間の貧富の格差が拡大していてジニ係数は65歳以上で0.42、75歳以上で0.52になるそうです。

・子供や親族の扶養意識も低下していて、1998年には9割が老父母の扶養義務は子供にあると答えていたのが、2000年代後半以降は3割を切っているそうです。
財産相続や報酬の見返りを求めて「親孝行契約」を取り交わす家庭が増えたそうですが、それに反する子供に対する「親不孝訴訟」も増えたそうです。

・韓国の年金制度は国民年金の1階建てしかなく、公務員年金以外には税金が投入されていないそうです。
一方で、世界第3位の国民年金公団を通じて政府が財閥企業を中心に経済界に介入する傾向が強いそうです。

・高齢者の仕事づくりのために税金や制度を投入しているものの、質より量の拡大が目的となっていて低賃金短時間労働ばかりになっているそうです。
その中でも「老人宅配」が多いそうです。ごく一部はシルバー・ユーチューバーになって成功しているそうです。

・韓国の高齢者は孤独化も進んでいるため、「孤独ケア」事業が進められ、就業支援も孤独化への対策の一面があるそうです。

・ひとりごはんを意味する「ホンパプ」は、みじめで恥ずかしいと思われていた文化から、2010年代後半から急速に広がったそうです。
日本のテレビドラマ「孤独のグルメ」が大ヒットした影響もあるそうです。

・ひとりっ子家族が増え、単身世帯も増えたことから、一人でいることが当たり前になってきていて、ソロ・エコノミーが注目されているそうです。
通販でも人と接触しない置き配を求めるようになり、一人用の小型家電などの商品開発も進んでいるそうです。

第3章 デジタル先進国の明暗

・韓国ではアジア通貨危機以降、消費喚起と所得・消費の補足のため国策でクレジットカードの利用を推進し、一定以上の規模の店舗では扱わないと罰則もあるようにし、キャッシュレス化を進めていったそうです。
国税庁で過去1年間の買い物履歴を見ることができるほど政府と結びついているそうです。
最高額の紙幣が1万ウォン札だったために現金がかさばること、日本では1万円札という高額紙幣があるためにキャッシュレス化が進まないことなどは興味深いなと思いました。
キャッシュレス化の弊害として、2018年のソウルの通信最大手の通信ケーブルの火事が起きた時に通信回線が寸断され、カード決済ができなくなった時は大きな損失を被ったそうです。

・韓国では住民登録番号制度が進み、電子政府としての機能も充実していることで、健康保険や行政サービスがスムーズに利用でき、情報も一元化できているそうです。
この分野では世界の最先端のシステムを兼ね備えているそうです。利便性を優先していて、情報漏洩事件等も起きているものの、制度に反対する者はほとんどいないそうです。

・韓国では教育分野でも1997年からICT導入が進んでいるそうです。
ただ、問題の解決を探す能力は開発されても自分でものを考える能力は低下する傾向にあり、悩みどころだそうです。
NEIS(教育行政情報システム)が2002年に構築され、全国で運用されているそうですが、教員はNEISへの生徒のポートフォリオ入力に1日4時間以上かかっていて長時間労働に繋がっているそうです。
ICT導入が進んでいることから新型コロナウイルス下のオンライン授業対応はスムーズだったそうです。

第4章 国民総高学歴社会の憂鬱

・韓国は日本以上の高学歴社会で、大学院進学率は日本とは比べ物にならないほど高いそうです。
それでも就職率が低く、大卒新入社員の平均年齢が29.2歳だそうです。
また0.1%のエリートに集中投資する教育で英才教育期間を別途設置してエリート優遇の方針を採っているそうです。
韓国最高の教育施設であるKAIST(韓国科学技術院)では自殺者が多発するほどの重圧があるのだそうです。

・エリート校に入れたいという親の「教育虐待」とも言える圧力はすごく、その狂気を描いた「SKYキャッスル」というTVドラマが話題作になったそうです。

・英語教育を追求した政策、アメリカの大学のボーディングスクールを招聘する政策を実施していたらしいですが、あまり人が集まらずに挫折しているそうです。
また韓国に留学生誘致戦略も実施していているそうです。

・韓国では若者のアルバイトや就職を諦めたものを含む拡張失業率が20%とかなり厳しい状況で、打開する政策を打ち出しているもののうまくいっていないそうです。
大企業と中小企業の処遇格差が大きいこと、職業の地位の違いによる職業威信を重要視することが就職先の選り好みに繋がっているという要素も大きいそうです。
海外就職奨励策も打ち出しているものの、「ヘル朝鮮」と言われる元になっていてうまくいっていないようです。

第5章 韓国女性のいま

・「82年生まれ、キム・ジヨン」という韓国人女性の悲哀を描いた小説が大ヒットし、映画化されてから、「キム・ジヨン法」と呼ばれる男女差別廃止・格差是正の法律が次々と発議されたそうです。

・女性関連法案は1990年代から各政権で制定されていて、フェミニスト運動等も活発だそうですが、状況の改善には程遠いそうです。
ミソジニー(女性嫌悪)による無差別殺人なども起きていて、根深いなと思いました。

終章 絶望的な各社と社会

・「パラサイト―半地下の家族」という貧しい家族と裕福な家族の対比を描いた韓国映画があり、話題になったそうですが、韓国の若者の現実はそれ以上に厳しいと述べられていました。
若者を社会に包摂することが大変なことは、日本も笑っていられないとも述べられていて、たしかにそうだなと思えました。

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