【現代メキシコを知るための60章】レポート

【現代メキシコを知るための60章】
国本 伊代編著 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4750334286/

○この本を一言で表すと?

 過去の歴史から最近の状況に繋がる事情のトピックを集めた本

○この本を読んで面白かった点・考えた点

・治安が悪化している最近の状況に触れてあるところやその状況に繋がる事情についても触れてあるところがバランスよく、メキシコについてよく理解できる本でした。明石書店のエリア・スタディーズは当たり外れのブレが大きいですが、この本は良かったです。

Ⅰ 独立200年・革命100年のメキシコの姿

・首都圏に2,000万人近い人口が集中し、第2位の都市が416万人とかなりの差があること、上位5位の都市圏に総人口の30%が集中し、それ以外の人口密度は日本の60分の1以下であること、若い世代が多い国であり、2050年に各年代の人口が均一化されそうなこと、国民の80%が貧困層に属してそのうちの20%は飢餓的な状態にあること、ニーニー族(ニート)と言われる若者が出現し、年間5,000人の若者(19~25歳)が自殺していることなど、かなり偏りのある国だと思いました。

・最近よくニュースやネット上で騒がれている麻薬組織の状況について触れられていましたが、その問題は20年前の大統領教書演説ですでに触れられていて、2010年には8つの巨大な麻薬カルテルが存在すること、政府が麻薬取り締まりに取り組み始めてからさらに抗争が激化したこと、全国60万人の農民を麻薬栽培に巻き込み、不法入国者を密輸に関わらせ、拒めば虐殺していること、取り締まりに関わる政治家を拉致や暗殺で脅すことなど、かなり深刻で泥沼化していることが書かれていました。

・最近の混合経済体制から新自由主義経済体制への転換、急進的な環境対策の導入、インフラ導入の遅滞、教育制度の質の悪化など、経済的にもまだまだ混迷期にあるなと思いました。

・2010年にメキシコが肥満度世界一になり元々気にされていなかった肥満に急に取り組み始め、制度的な対応もしているというのは、問題意識から対策実施までの流れが速いなと思いました。メタボなメキシコ人の写真はなかなかインパクトがあります。

Ⅱ 「革命政党」統治71年と多党政治の時代

・1917年憲法が1992年の改正でメキシコ革命の理念がほとんど失われたとしているのはなかなか強い意見だなと思いました。変革が必要だった頃の政策が含まれている憲法と安定が必要な現代の憲法で役割が異なるのは当然なように思えます。そもそも憲法に政策的な内容まで含めていることが日本の憲法の議論と異なる気がしますが。

・宗教権力が強かったことから宗教法人の資産所有まで禁じていたことを解禁したというのは、近現代の先進国ではあまり聞かないトピックで興味深かったです。

・政権交代が行われる前に兆候が表れていたことなど、流れ的に混迷なく交代し、そして交代した政権の運営能力が疑問視されたというのは日本に似ているなと思いました。

・大統領候補が暗殺されたり誘拐されたり、投票が操作されたりするのはある程度先進国と認められている国家にしてはアフリカの後進国並の状況だなと思いました。

・汚職や公務員の腐敗が改善されないこと、麻薬組織との癒着も当たり前のように存在し、国民のだれもが認識していることは、かなり根深い問題だと思いました。それでもある程度改善が見られ、国営の石油公社であるPEMEXの労働組合の汚職に徹底的に対処したことなどは明るいトピックだと思いました。

Ⅲ 資源大国の経済運営

・経済運営の面ではなかなか資源以外の産業がなく、観光産業が第3の産業ということはまだまだ発展途中という印象を受けました。

・石油に対する政策で円満に国有化したところはすごいと思いましたが、石油に依存しすぎて石油価格や石油生産量に国家の収入が連動しているのはかなり不安定で外部要因による影響が大きいなと思いました。

・海底油田を発見しても開発が難しく、またメキシコ湾の石油流出事故が更に輪をかけて着手にストップをかけている点もなかなか大変な状況だと思いました。

・保護されていた農業がその保護が無くなって農村共同体として存在していた都市以外の地域に大きな影響を与えた状況は、日本でも同様の政策等がありましたがメキシコの方がより大きな影響を受けたのだろうなと思いました。

・メキシコのマキラドーラ政策については他の本でも読んだことがありますが、アメリカと隣接しているという立地を活かして労働力を提供するという立ち位置は他の国には取れない政策だなと思いました。同様に隣接しているカナダは同じような戦略をあまりとっていないイメージがあります。

Ⅳ メキシコの国際ビジネス環境

・外資制限政策から外資開放政策に代わり、外資の流入が激しくなりながらも国内企業が小売業等で善戦しているのはすごいなと思いました。その場で即消費されるサービス業の性質的に市場としてのメキシコでは外資がそれほど優位にはならないのかと思うと興味深いです。

・ウォルマートが反米傾向のあるメキシコ国民に配慮して名称をしばらく出さなかったり、景観に配慮したりしているのは現地の調査等をかなり綿密に行ってから進出しているのだなと思いました。

・日本企業がそれなりに進出し、製造業やサービスでも日本流が認められ、醤油がメキシコに行き渡っているのは面白いなと思いました。

Ⅴ 国際政治とメキシコ外交

・ずっと内政干渉され続けていたことから内政不干渉主義になり、中立外交を進めていたメキシコと、それを成し遂げた能力ある外交担当により、ラテン・アメリカを非核武装地域としたり、OECDの事務総長となったり、外交力に優れているなと思いました。

Ⅵ 壁で分断されるアメリカとメキシコ

・3,200kmも国境を接しているアメリカとメキシコで、その国境の壁を超える不法越境者が何百万人といて、それに関わるビジネスやマフィア等の利害関係を持つ者がいて、在米メキシコ人の数が膨らむことで一定の政治力も持って、アメリカとメキシコの関係は複雑で、今後も複雑であり続けるのだろうなと思いました。

・他の本で、アメリカとメキシコの労働人口比の変化により、アメリカがメキシコの労働力に頼らざるを得なくなる未来が書かれていたり、アメリカで英語を話せない人が増加していたり(スペイン語しか話せない=ラテン・アメリカの人が増加)、この2国間の関係は一つの大きなテーマとして今後も語られそうです。

Ⅶ 環境問題と都市化の縮図としてのメキシコ市

・2,000万人が住む首都圏において、環境の悪化とそれに対する施策の急速な導入で、改善までのスピードが速いのは改めて驚かされます。ストリートチルドレンの増加、特に未成年女性の環境の劣悪さの話は生々しく、根深い問題だと思いました。

Ⅷ 21世紀のメキシコ社会

・大家族から核家族化するという先進国でもお決まりの流れがメキシコでもあり、自活できない高齢者の増加、仕事のない若者の増加、女性の社会進出と差別など、社会制度が進んだからこその弊害が大きく出ているなと思いました。

・先住民族の反乱が1994年に起こり、サパティスタ民族解放軍(EZLN)が蜂起して、現在でもメキシコ最南端のチアパス州の南部に自治区を保持しているのはすごい話だなと思いました。

Ⅸ 魅惑の文化大国メキシコの姿

・いろいろ本を読む前にメキシコと聞いて思い浮かぶイメージ「遺跡」「ラテンっぽいダンス」「プロレス」などは今でも隆盛している話は興味深かったです。

・ラテン・アメリカではアルゼンチンの次にテレビの視聴時間が長い国で、ドラマが重要な輸出産業になっているという話も興味深かったです。

Ⅹ 21世紀の日本とメキシコの関係

・メキシコが親日国で、日墨交流の一環で交換留学生の制度があったこと、日本企業が1960年代から進出し、メキシコで基盤を築いていることなど、あまり日本では知られていないことだなと思いました。こういった長期継続的に築かれた関係を発展させるという視点は日本に欠けていて中国や韓国に立ち位置を取られてしまうところだろうなと思いました。

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