【日本人はなぜ戦争へと向かったのか: 外交・陸軍編】レポート

【日本人はなぜ戦争へと向かったのか: 外交・陸軍編】
NHKスペシャル取材班 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4101283745/

○この本を一言で表すと?

 日本がなぜ戦争が向かったのかを外交面と陸軍のあり方の面でまとめた本

○面白かったこと・考えたこと

・NHKスペシャルの番組の元になった情報が詰まっているだけあって、ページ数・文字数はそれほど多くなく一気に読める文章量ながら、内容が詰まっていてよかったです。

・外交面で、当時の立場は決して悪くなかったのに、立ち回りが悪過ぎてどんどん孤立していったこと、情報を共有できていなかったこと、活用できていなかったこと、勝手に甘い想定をして修正しなかったことなど、現代の政治にもつながる点が結構あるなと思いました。

・陸軍の話では、平時の仕組みを変えることができなかったこと、変える機会があってもそれらが潰されていったこと、暴走を止める仕組みがなかったこと、責任を取らない体制になっていたことなど、一つ歯車が狂うとどこまでも悪化してしまう組織になっていたような気がしました。
「失敗の本質」の結論でもありましたが、現状に適応しすぎて環境が変わった時に対応できない組織の典型例であるように思えました。

<第一章 外交 世界を読み違えた日本>

“外交敗戦”孤立への道

・国際連盟の総会で満州事変について責められながらも、列強は敵に回らないという目算でいた日本が、満州国の承認が得られる目算でいて、リットン調査団の日本に有利な調査結果・提案も認めず、更に関東軍が熱河地方へ独断で進出し、国際連盟から経済制裁を受けそうになって、その前に連盟脱退することで経済制裁の意味をなくしてしまう、という流れになったそうです。

・国際連盟で五大国の一国という重要な立場から退いた後、対中外交に行き詰まって「防共外交」を打ち出し、中国との仲介にドイツとイギリスを巻き込もうとしたものの、イギリスはソ連と良好な関係にあり、イギリスとドイツの間では到底同盟関係が結べない状況を理解せずにずっとイギリスにアプローチしていたそうです。

・陸軍の外交と外務省の外交がそれぞれコンセンサスのないままに進められたために、蒋介石もヨーロッパ諸国も日本の外交を不可思議なものと捉え、日本は信用されなくなって孤立していき、日独伊三国同盟以外の選択肢がなくなってしまったそうです。

一九三〇年代 日本を支配した空気

・満州事変が起きて以降、二大政党の政友会と民政党のどちらも国民の信用を失った状態で、連立内閣で事態に対応しようとしたものの政友会の単独内閣になり、五・一五事件で政友会内閣が倒れ、対応できなくなったそうです。

・拡大を防げたはずの満州事変はその後、国内世論が満州国をフロンティアとして、成功事例としてみなすようになって、「和解の書」とも呼ばれる国際連盟のリットン報告書すらも受け入れることができず、正式承認以外は認めないという立場で外交団は国際連盟の総会に送られたそうです。

・イギリスやアメリカが挙国一致体制の構築に向かう中、日本の政党政治が破綻して同様の流れができず、満州事変が落ち着いた時に今度は天皇機関説で内閣が責められ、軍部が政府の外交を妨害し続けたそうです。

・蒋介石がかなりの譲歩を見せたタイミングで日本が譲らなかったために交渉が破綻したり、対応次第では外交で改善できたことも全て潰してしまったそうです。

・当時の日本も今の日本もリーダーがものごとを決めない学級会民主主義になっているという批判で締められていました。

外交に活かせなかった陸軍暗号情報

・陸軍の暗号解読能力は当時世界最高レベルだったそうですが、その情報は政府に共有されず、むしろ外国の情報から政府の動きを察知して妨害していたそうです。

・ドイツが中国に武器を売っていて、日本よりも中国寄りだったことも把握していて、それがドイツとの外交を諦めるのではなく、防共協定の方向に考える切っ掛けになったそうです。

・イギリスでは平時から横の繋がりがあり、重要な情報は全て内閣のもとに集まる体制に対して、日本は重要な情報が全く内閣に集まらない仕組みで、情報も情報に基づいて方針を決めるのではなく、方針を説明づけるための材料としか使われない有様だったようです。

・外務省も、中国で反日派と親日派がせめぎ合っていて親日派へ協力が必要なときでも陸軍の方ばかり向いていて対応せず、何もできなかったそうです。

変化していた世界帝国主義・遅れてきた日本の対応

・日本はイギリスを自身と同じような国、立場だと思い込んでいて、イギリスは情勢を客観的に見ていて、対ソ連についてもソ連がドイツと接近しないように外交していることに日本は気づかず、常に読み違っていたそうです。
そのため国際連盟での不支持、二国間外交の不成立、と日本は孤立の道へ向かったそうです。

<第二章 陸軍 戦略なき人事が国を滅ぼす>

巨大組織“陸軍”暴走のメカニズム

・陸軍が山県閥で上層部が占められていた状況を憂いて、永田鉄山らが二葉会、のちの一夕会で定期的に集まり、政治的な考えを発表し合い、陸軍の人事掌握に動いていったそうです。
一夕会は陸軍のあり方を憂いていた者が集まっていたものの、考えは異なる同床異夢状態で、板垣征四郎と石原莞爾が関東軍で暴走して満州事変を起こし、改革の準備を進めていた永田鉄山の方針と対立したそうです。

・山県閥ではない荒木貞夫を陸軍大臣に勧めると荒木貞夫は派閥人事に走り、永田鉄山と対立すると荒木貞夫の属する皇道派の相沢三郎が永田鉄山を暗殺し、皇道派はその翌年に二・二六事件を起こし、派閥抗争を防ぐために党派色の強い人材を避けるようになると、さらに人事が歪になっていったそうです。

・満州事変を起こした軍人が帰国すると歓喜の声で迎えられ、現場のポストから外せずに要職につき、処罰できない体制ができあがったそうです。

・関東軍を抑えるために天津軍を大幅に増強すると、中国でかなりの反感を買い、今度は天津軍が盧溝橋事件を起こして日中戦争に突入し、収束させようと派遣軍を削減しようとしても実行できず、現地軍が制御不能状態で暴走を続けたそうです。

陸軍を狂わせた人事システム

・ヨーロッパで総力戦の過程と結果を見てきた永田鉄山らが、日本の陸軍のあり方に危機を感じて、山県閥が牛耳る陸軍省中心の組織からの脱却を考えたそうです。

・永田鉄山が進めていた人事システムの改革中に関東軍が暴走して満州事変を起こし、その混乱を収めるために政治に無関係な荒木貞夫を陸軍大臣に推すと荒木貞夫は派閥人事を敢行し、中国では関東軍と天津軍が競って暴走し、二・二六事件など派閥闘争が激化すると派閥色の薄い人間を集めようとして組織的なアイデンティティが崩れていったそうです。
また、不祥事を起こしても責任を取らない組織として満州事変以前からあいまいな処分を繰り返していたことも問題だったそうです。

・現地で過激だった者が昇進して国内に戻ると政治がわかって穏健派になるが、その時には陸軍を変えられない、ということも続いていたそうです。

日本が陥った負の組織論

・陸軍を組織論の観点で評価していました。

・荒木貞夫の派閥人事は、周りを自分の派閥で固めるとコンセンサスを取る「取引コスト」が小さくなるという点で合理的なのだそうです。

・陸軍の不祥事に対して、直接罰するのではなく、間接的アプローチでシグナルを送ることしかせず、それが機能しなかったそうです。

・人事采配術として、推薦を利用し、自分だけが責任を取らない仕組みも構築されていたそうです。

・関東軍が政府の意向を無視して自身の利益を求めたこと、天津軍も続いたことは、エージェンシー理論の典型的なモラルハザード問題なのだそうです。

・マイナスの状態だとリスク・テイカーになりやすい、という心理が失敗を大きな成功で取り返そうという行動に繋がり、数々の成功率の低い作戦を実行させたそうです。

・「空気」は自然に生まれるものではなく、損得計算をして自ら作り出すもので、それが方針を変えさせない要因として働いたようです。

内向きの論理・日本陸軍の誤算

・国家としてではなく軍として、自身の属する組織のための行動を取ることの連鎖、絶対服従をさせるための教育制度、兵力さえあれば解決できるという主張の連続、現場司令官に権限を付与しすぎたことによる暴走などが述べられ、結論として暴力装置にはそれを統制する仕組みが欠かせず、現場に権限を付与しすぎないことが重要と書かれていました。

陸軍暴走の連鎖

・ヨーロッパの総力戦を目の当たりにしたこと、軍人が無用の存在として扱われてきたトラウマ、先走る中堅軍人の想定外の暴走、荒木貞夫の起用による失敗、責任を取らず結果オーライの組織化、軍令と軍政の二重基盤の並立、リーダー不在などが陸軍を暴走させ、それを止めることができない仕組みとなって動いていたそうです。

なぜ、日中戦争をとめられなかったのか

・歴史という分野自体が戦争から始まっているということをヘロドトスから説明されていて興味深かったです。

・対ソ開戦論というものがずっと陸軍にはあって、満州事変より前から陸軍の主導者が代わっても常に存在し、その前提で動いているところ、準備しているところが大きかったそうです。

○つっこみどころ

・帯に『「負ける」軍幹部ですら予想した戦争を何故―。』とありましたが、太平洋戦争にほとんど触れられていない本で、そういった内容は全く本文中になかったように思います。
三部作の他の本の帯もそれぞれ各本用に作られているようなので、間違いなくこの本が対象の帯だと思いますが、全く内容を知らない人が携わったのでしょうか。

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