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【経済大国インドネシア - 21世紀の成長条件】レポート

【経済大国インドネシア - 21世紀の成長条件】
佐藤 百合 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121021436/

○この本を一言で表すと?

 戦後インドネシアの歴史、民主主義の確立、経済成長のための課題とその解決策について書かれた本

○この本を読んで面白かった点

第1章

・イスラム教徒が多い(約88%)インドネシアの国章でヒンドゥー教のガルーダをモチーフにしていたり、建国五原則で神を「アッラー」ではなく「トゥハン(インドネシア語で特定しない神を指す)」にしていたり、人口の約四割を占めるジャワ人のジャワ語ではなく文法がシンプルで表記が簡便なムラユ語(マレー語)を国語にしたり、確かに寛容な国だと思いました。

第2章

・現在の人口がすでに多く、中間層が今後さらに増大していく傾向(2020年に2億人以上)にあるなど、消費市場が伸びそうな要素が盛りだくさんで、労働力としても優秀など、人口ボーナス(生産人口に対し従属人口が相対的に減少)を活かすための出生率低下政策と雇用確保がうまくいけば間違いなく伸びそうな国だなと思いました。

第3章

・現在の中国のような政治体制(立法・行政・司法の三権よりも上の最高機関が存在)から大統領公選制のアメリカのようなはっきりと三権分立された政治体制に転換できたのはすごいなと思いました。
移行時に権力が逆転して今度は国会と政党が国民協議会を牛耳るなどの動きも過渡期の大変さを表していると思います。

・元々上意下達がはっきりしている状態(中央⇒州⇒県・市⇒郡⇒村・町)から州に実権を与えることにより分離独立要求を助長しないために頭越しで県・市に実権を与える、というやりかたはなかなか極端で面白いなと思いました。
自治が行き過ぎて全く管理できない状態になり、州・県・市が中央の補助機能を併せ持つという形で戻ったことも、中央の政治体制の揺れ動きと同様に大きく揺れ動いて最後にバランスを取っていてなかなか面白いなと思いました。

・ユドヨノ大統領がスハルト時代に武力抑制で抑えていたGAM(自由アチェ運動)と和解でき、国軍に影響力があったために動きを押さえることができ、テロに対しては断固たる姿勢で臨んで治安を安定させることができたのも元軍人という経歴があったからという話に納得できました。
エジプトの革命では軍がバックにいて成功したものの、軍の体質が変わらず軍を外して政権を固めることができていないことと対照的だなと思いました。

・ユドヨノ外交のバランス感覚はなかなかすごいなと思いました。WOC(世界海洋会議)開催、COP13議長国、2009年G20で気候変動セッションのキースピーカー、バリ民主主義フォーラム主催、非民主主義国との独自対話ルート、特定の大国の影響下にはいらない(ASEAN+3、ASEAN+6への無回答、TPPへの無関心)など

第4章

・インフラ開発の未整備は発展途上国・中進国のどの国でも(ブラジル・インドなど)ありますが、民主主義化してからインフラ整備に対応しづらくなったというのは印象的でした。
民主主義化する前に開発独裁の国だった韓国、今も開発独裁の国であるシンガポールなどでインフラ整備がうまく進んでいるのと対照的だなと思いました。

・政官産学界を広く計画策定のプロセスに参加させて「マスタープラン」を策定することができたのは民主主義の国ではかなり上々の結果だと思いました。今の日本では無理そうだなとも思いました。

・6つの経済回廊のように地域ごとに特色のあるなかでマスタープランの22業種を割り振るというやり方は、島国で人口もそれなりに分散している国家ならではだなと思いました。

・インドネシアは何が成長主導産業か?という問いは確かに具体的なイメージがわかず、それゆえに「フルセット主義」というのはなんだか納得しました。
1990年と2010年の比較で対中国で工業製品の輸出入が逆転して、対ASEANでは均衡しているのも納得です。

・内国投資は農林業・一次産品、外国投資は運輸・倉庫・通信産業等という棲み分けはなかなかうまくいっているなと思いました。

・産業構造で製造業の割合が低下していること、農業でも経済成長していること、などはなかなか珍しい事例なのかなと思いました。

・経済成長の要素に労働の投入量と資本の増加を除く生産性が貢献していないのは確かに不安要素だなと思います。

第5章

・インドネシアの財政健全化は確かに優等生と言えるレベルだと思いました。これを主導で来た経済テクノクラートの能力はすごいなと思いました。

・KKN(癒着・汚職・身内びいき)が蔓延るなかで、クリーンなテクノクラートが財政改革と官僚体制改革をやり遂げたというのはすごいなと思いました。
政治体制の構造そのものも中央銀行の位置づけの変更などがしっかり功を奏しているように思います。
これだけの能力と志を併せ持つ人がいるというのには感動を覚えました。

第6章

・スハルト元大統領の華人政策のバランスの良さはすごいと思いました。(政治的には制約、経済的には活用)
華人政策に続くプリブミ(先住マレー系住民)政策などもうまく回っているように思います。
スハルト時代以降のインドネシアの政策を立案し、施行する能力はすごいなと思いました。

・パラ・グループの創業者ハイルル・タンジュンはかなりデキる人だなと思いました。
大学の学費を事業を興して稼ぎ、それでいながら学業も疎かにせず全国模範生として表彰されたり、友人との共同経営で事業経験を積んだ後で小銀行を買収して「メガ銀行」と改称してアジア通貨危機を乗り切り地場民間銀行第4位まで持っていき、テレビ事業参入、不動産事業参入、カルフール資本参加などを手掛け、2010年にはユドヨノ大統領にKEN(国家経済委員会)の委員長に抜擢される・・・すごいサクセスストーリーだと思いました。

第7章

・日本語学習人口が韓国、中国に次ぐ第三位(72万人)というのはすごいなと思いました。
日本の文化が今でもブームになっているというのも、日本から何かで事業参入する際にはかなりプラスイメージで始めることができそうだなと思います。

・インドネシアがODA最大対象国というのは初めて知りました。中国が最大かと思っていました。

・インドネシア人の日本観(①占領者としての日本、②従軍慰安婦を強いた日本、③開発資金提供者としての日本、④先進国としての日本、⑤ハイテク国の日本、⑥ポップ文化の日本)がきっちり分けられて、とについては学校でも教育したうえで親日国というのは寛容な国だという印象をさらに深めました。
過去を忘れない(日本に対する中国)や過去を忘れる(アメリカに対する日本)のとは異なって、この意味でもバランス感覚に優れているなと思いました。