【海の地政学 海軍提督が語る歴史と戦略】レポート

【海の地政学 海軍提督が語る歴史と戦略】
ジェイムズ スタヴリディス (著), 北川 知子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4152097078/

○この本を一言で表すと?

 海軍提督だった著者が自身の経験と歴史と地政学的見地で各地域について論じた本

○面白かったこと・考えたこと

・「7つの海」の全てで海軍として任務に携わった海軍提督の経験談と、マハンのシー・パワー論を中心とする地政学の考え方を軸に各地について述べられている本でした。

・海軍提督であっても、中国に対して警戒していないわけではないものの、最大の脅威とはみなしておらず、地政学上の検討課題の一部として他の問題と並列で見ているのは興味深い視点だなと思いました。

・アメリカが「国連海洋法条約」を批准していないことに対してかなり問題意識を感じているようで、ところどころでその記述が見られました。
アメリカがこういった条約に参加しないのは結構あることだと思いますが、トランプ政権ではより一層国際協調からは離れそうだなと思いました。
アメリカで2017年に出版されていますが、2015年から2016年に書いた論文等を取りまとめたものらしいので、トランプ政権について触れられていませんでした。

第1章 太平洋 すべての海洋の母

・太平洋はその広さから大航海時代でもそれほど侵略が進んでいなかったこと、蒸気船等の技術で一気に進んだこと、アメリカはハワイを確保したことで太平洋への影響が大きくなったこと、日本の鎖国解除から一気に海洋国家としての動きが加速したこと、第二次世界大戦に至るまでのことなど、歴史的な流れが概説されていました。著者は北朝鮮を最も危険視しているようです。

・環太平洋地域での軍拡は現在でも進み、現在も何かのきっかけで予想外の展開が考えられる、とされていました。

第2章 大西洋 植民地支配のはじまり

・大西洋は太平洋よりも東西の幅が狭いからか、中間拠点なしでもヨーロッパからアメリカ大陸への航行が15世紀末から可能だったこと、それ以前もヴァイキングが到達していたなどの話もあること、21世紀は「太平洋の世紀」と呼ばれているそうですが大西洋もその重要性は変わらずにあること、などが述べられていました。

・植民地時代はトルコのいる陸地を避けた大西洋の航海から始まり、ポルトガル・スペイン・オランダ・イギリスなどが進出していったこと、ナポレオンをイギリス艦隊が破ったこと、第一次・第二次世界大戦でのアメリカの台頭など、主役が入れ替わり続けて現在に至ることも述べられていました。

第3章 インド洋 未来の海洋

・インド洋は地球の2割を占めるほど広大で、太平洋・大西洋のような主な舞台になってこなかったものの、今後重要な海域として発展していくことが、ロバート・カプランの著作「インド洋圏が世界を動かす」の記載を基にして述べられていました。
この海域ではインドとパキスタンの対立が大きな発火点で、中国とインドの対立もあり、アラビア湾の情勢もあって、なかなか困難な地域であるようです。

第4章 地中海 ここから海戦は始まった

・紀元前3000年頃からフェニキア文明など様々な文明が興隆し、島嶼文明が発達していたこと、ペルシャ島の侵略等の歴史も繰り返されてきたこと、ヨーロッパと北アフリカに囲まれたこの地域は「ヨーロッパの泣き所」であり、未来でも安全保障上の課題は抱え続けるだろうという見解が述べられていました。

第5章 南シナ海 紛争の危機

・南シナ海はオランダ、イギリス、フランスが植民地を形成し、アメリカも植民地形成に参入し、第二次世界大戦で日本がかなりの部分を一時的に掌握し、その後も様々な地域紛争やトラブルが続き、現在に至っていることが述べられていました。

・アメリカが南シナ海でプレゼンスを発揮するには安全保障に関する同盟を強化し、中国・ロシアとも関係を強化しながら断固とした対応を取る必要がある、と著者の意見が述べられていました。

第6章 カリブ海 過去に閉じ込められて

・カリブ海はコロンブスの新大陸発見の当初から侵略を受け、銃・病原菌・鉄により原住民が排除され、過酷な歴史を辿ってきたこと、キューバ革命以降は冷戦の舞台にもなっていたこと、重要な麻薬輸送圏でもあり、アメリカに麻薬を流し続けるルートだったこと、アメリカはこのアメリカに近接した地域への貢献におりプレゼンスを高めるべきであることが述べられていました。

第7章 北極海 可能性と危険

・北極海は隣接した各国による開発が進み、特にロシアによって進められているようです。
アメリカは砕氷船等の北極海開発に必要な資源にはほとんど投資せず、ロシア一強の状態が続いているそうです。

・著者は北極海へのアメリカのプレゼンスを発揮すること、砕氷船を開発するべきであることを述べていました。

第8章 無法者の海 犯罪現場としての海洋

・海賊が跋扈する東アフリカ海岸だけでなく、漁業の問題や環境問題など、複数の世界的な問題を各エリアの国家と手を組み、達成していくべきであることが述べられていました。

第9章 アメリカと海洋 二一世紀の海軍戦略

・この本全体の結論として、アメリカはシー・パワーを強化すべきであり、海軍の装備にも投資すべきであること、同盟国との関係を強化して安全保障面でも組むこと、アメリカが中国等のライバル・仮想敵になりそうな国家の海軍力を大きく上回るべきことなどが書かれていました。

○つっこみどころ

・「地政学的には」という言葉が異様に多用されているのがちょっと微妙に思いました。
「地理的」などの別の用語も全て「地政学」と翻訳してしまっているのか、著者が実際に多用しているのかわかりませんが、不自然な場所で使われている箇所も散見されました。
あと同じ文の中で「皮肉にも」が多用されていたりするなど、同じ言い回しがしつこいくらい出てくるのが目立ちました

・日清戦争で韓国を併合した、など明らかな間違いが結構ありました。
時代考証など、あまりチェックがされていないのかなと思いました。

・著者自身の経験と歴史と現在の状況などが混ざって述べられているので、時折現代なのか過去なのかがが分かりづらくなる箇所がいくつもありました。

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