【明治天皇―苦悩する「理想的君主」】レポート

【明治天皇―苦悩する「理想的君主」】
笠原 英彦 (著)
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○この本を一言で表すと?

 明治天皇を軸に語った幕末から明治の終わりまでの歴史の本

○面白かったこと・考えたこと

・幕末や明治の人物を取り上げた本を読んでもそちら側の視点から明治天皇の判断や行動を述べた記述しかなかったので、明治天皇側からみた記述を読むことができ、視点によってこれだけ見方が違うのかということを改めて知ることができたように思いました。

・他の本では立憲君主制の「立憲」というところに注目した歴史観に触れることが多かったですが、「君主」という点に注目しているのは面白く、思っていた以上に明治天皇が政府に対して影響力を持ち、判断を下していたのだなと思いました。

・天皇の側近が力を持ち、政治に意見する様子は中国の宦官にも似ているなと思いました。薩長土肥の者からするとかなり目障りだったでしょうし、その対立構造や、側近の影響力について知ることができてよかったです。

第一章 幕末の政局と睦仁の降誕、第二章 激動の中の即位と明治維新

・孝明天皇の即位以降の天皇家から見た日本の状況と、明治天皇が生まれた背景、育った環境、即位した状況について書かれていて、これまであまり知らなかった幕末の一面を知ることができたように思いました。

第三章 天皇権威確立の努力と挫折、第四章 維新の宰相、大久保の政治指導

・昔から続いていた宮廷の慣習を更新していったこと、天皇の教育について配慮した体制に変更していったこと、大久保利通がかなりその辺りに配慮し、紀尾井坂の変で暗殺されていなければ宮内卿に就任する話があったことなど、なかなか興味深かったです。
後に政府と対立する侍補職を置いたのが政府の考えだったというのも面白い流れだなと思いました。

第五章 伊藤首班の集団指導体制、第六章 立憲性の確立と皇室制度の形成、第七章 憲法の制定と立憲政治の開始、第八章 議会政治の進展と日露戦争

・伊藤博文の憲法を成立させて運用させるまでの動き、皇室典範を形成させる動きは「伊藤博文―知の政治家」という本で書かれていた背景に比べると全体的に記述が弱いように思いましたが、ロエスレルなどの外国人の意見が皇室典範にかなり反映されていたという話は初めて知ったので、背景をより深く知ることができたように思いました。
内閣の人事に対して明治天皇が人物像や評判により判断を下していたこと、政府の行動の結果から直接大臣に指示して更迭させるなど指揮を揮っていたこと、教育勅語成立にかなり力を入れて最終決定に関与していたことは、象徴としての天皇とは言えない君主制としての面だなと思いました。

第九章 天皇の晩年と明治の終焉

・晩年の明治天皇とその周りについて書かれていましたが、亡くなる直前まで執務を執ろうとしていた姿勢はすごいなと思いました。
伊藤博文を暗殺した安重根についてその背景が詳しく書かれ、明治天皇を尊敬してその親政を邪魔する者として暗殺したという経緯は、どういった情報が朝鮮に流れていたのか、その偏りが興味深いなと思いました。

○つっこみどころ

・できるだけ天皇に客観的に書こうという姿勢は見られるものの、やはりかなり天皇寄り過ぎる、かなり持ち上げた視点が多いなと思いました。

・明治天皇の行動、判断について極端に肯定的な記述が多く、無理やりに意味づけしているところも多く、客観的な判断が下しづらいところが多かったです。

・特に側近に見識を鍛えられた天皇が政治的判断を下す点について、一個人がその程度の能力で国家の趨勢を決めるような意思決定に絡んでいいのかは疑問だなと思いました。

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