【真珠の世界史 – 富と野望の五千年】レポート

【真珠の世界史 – 富と野望の五千年】
山田 篤美 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121022297/

○この本を一言で表すと?

 古代から現代に至るまでの真珠の価値と真珠の歴史の本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・真珠について、日本で初めて養殖に成功したことなどは知っていましたが、各時代でどういった位置づけにあったのか、どのような変遷を経てきたのか、どのような種類があるのかなど、知らないことだらけでいろいろと勉強になりました。
真珠について宝石より一段落ちる大衆的な宝飾品というイメージを何となく持っていましたが、歴史上重要な、最も貴重な宝飾品という時代もあったことなど真珠を見る目も変わりそうです。

・真珠と言えば球状というイメージでしたが、いびつな形を活かしたアクセサリーの写真などを見て興味深いなと思いました。
カラーの写真が妙に充実している本だなと思いましたが、それぞれの写真の解説が本の随所に歴史とともに紹介されていて、歴史上珍重されてきた様子がより頭に思い浮かべやすくなったなと思いました。

・真珠の生産状況や各国の歴史など、異なる多数の分野についてよく調べられ、関連付けられている本だなと思いました。

第一章 天然真珠の世界

・アワビなどの貝の身を取ったところ、貝殻の裏側を見てきれいだなと思ったことがありましたが、まさにそれが真珠と同じ材質だったということを知って驚きました。
むしろ天然真珠はその貝殻の裏側に出している表皮部分が偶然剥がれて身の中に落ちてできたものだというのは面白いなと思いました。

・アコヤガイ以外の貝の裏側がきれいな貝でも真珠ができる可能性があるというのも面白いなと思いました。
昔話だったか、何かで聞いたのか憶えていないですが、アワビから真珠が出た話を聞いたことがありましたが、根拠のあることだったのだなと腑に落ちました。

第二章 古代日本の真珠ミステリー

・日本の貝塚の貝の種類と、当時の日本とやり取りしていた三国志時代の魏の国の魏志倭人伝の真珠の朝貢の記述などを照らし合わせて考察しているのは面白いなと思いました。

・宝石だけでなく、あらゆる加工技術が未熟な状態だと、真珠のように、特にアコヤガイのように未加工でもそれなりに整った姿のものがより貴重なものとされていたのだろうなと思いました。

第三章 真珠は最高の宝石だった

・メソポタミア最古の叙事詩であるギルガメシュ叙事詩の記述から、ペルシアやインド、古代ローマでも真珠が最高の価値を持つ者として扱われ、キリスト教の聖書の中でも貴重なものとして扱われていることなど、地域や文化を超えて普遍的に価値を見出されていたというのは興味深いなと思いました。

第四章 大航海時代の真珠狂想曲

・大航海時代、ヨーロッパ人のアメリカ大陸発見でも真珠が採取できるかが重要な価値基準だったこと、酷使や疫病で現地民が全滅に近い死亡率になったその酷使の理由の一つが真珠採取だったことなどは初めて知りました。

・イギリスのエリザベス女王が真珠好きとして有名だったことなどは初めて知りました。

第五章 イギリスが支配した真珠の産地

・インドを支配したイギリスが真珠の獲得に熱心だったこと、真珠貝を腐らせて真珠を取り出す方法が定着していたことなど、あまり知らなかった歴史の側面を知ることができたように思いました。

第六章 二十世紀はじめの真珠バブル

・真珠のライバルとしてダイヤモンドが台頭したものの、ダイヤモンドが供給過剰になって真珠の価値が相対的に向上したこと、真珠の希少性とファッションとの組み合わせの視点などからさらに価値が高まったこと、フランスの真珠王ローゼンタールの買い占め戦略などから真珠バブルが起きた流れが書かれていました。

第七章 日本の真珠養殖の始まり

・御木本幸吉が真珠の養殖に何度も失敗しながらついに成功させた話は児童向けの伝記マンガで昔読んだような気がしますが、その後の独占や他者への弾圧ぶりなどがこれ程すごかったとは知りませんでした。
エジソンがそうであったように、子供向けに偉人として紹介されている人が成功した後の俗っぷりは子供には見せられないのだろうなと思います。

・御木本幸吉が実現させたのは半円真珠で、真円真珠は別の研究者が開発したこと、それを模倣して御木本幸吉が更に真珠事業を発展させたことなど、興味深い内容だなと思いました。

・養殖真珠の成功が世界にどれだけのインパクトを与えたのか知りませんでしたが、それまでの天然真珠の価値からすると衝撃だったのだろうなと当時の状況がわかるような気がしました。

第八章 養殖真珠への欧米の反発

・養殖真珠が真珠商から敵扱いされ、偽物扱いされたことは、真珠商の立ち位置からすれば当然のことだろうと思えますし、相当の脅威で必死だったのだろうなとも思えました。

・シャネルの創業者ココ・シャネルが下層階級から成り上がったというエピソードは初めて知って興味深かったです。
また、シャネルが流行させた服装に整然とした真珠が似合うことから日本の養殖真珠の需要に繋がったというのも興味深い話だなと思いました。

第九章 世界を支配した日本の真珠

・戦後の外貨を稼ぐ手段に真珠の生産があったという話は初めて知りました。
GHQの連合軍兵士、特に米軍兵士が真珠製品を買い漁ったという話もなかなか生々しいエピソードで面白いなと思いました。

・シャネルのライバルとなるディオールの服装でも真珠が必須のアイテムとなり、映画等でも触発されたこと、ミニスカートの流行で真珠が似合わないことから需要が激減し、真珠生産者に自殺者が出るほどのダメージが出たことなど、ファッションという流れが世の中に与える影響の大きさはすごいなと思いました。

第十章 真珠のグローバル時代

・アコヤガイ以外のクロチョウによる黒真珠やゴールデンパールなどの高級な真珠や淡水真珠の養殖成功による安価な真珠等の、日本以外で生産される真珠の台頭について書かれていました。

・真珠質を生み出せる貝というのが世界中に存在していて、真珠貝という狭いカテゴリーでもいくつか存在していたことで、国際競争ということになると思わぬところから競合が出てくる、という流れは他の商材におけるグローバル化でもありそうだなと思いました。

第十一章 真珠のエコロジー

・真珠生産のデメリットとしての海へのダメージに対して対処が遅れ、生産規模を確保できずに日本の真珠生産が後退したことなど、環境という大きな範囲で見た場合の合理性と、短期的な経済合理性の相反が顕著に出ているなと思いました。
これも他の事例でもありそうな話だと思いました。

○つっこみどころ

・真珠を軸に歴史を俯瞰した本だったので、この本だけ読むと真珠で歴史が回っているというレベルで世界史を捉えてしまいそうになるかもしれないなと思いました。
真珠の取引とそれ以外のモノの取引の比較があればもう少し客観的に見ることができた気がします。
貴重であったという質の側面を中心に取り上げ、取引量などの量の側面が薄かったからかもしれません。
本のテーマ的にはこうした方がインパクトがあるのだろうとは思いますが。

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