【競馬の世界史 – サラブレッド誕生から21世紀の凱旋門賞まで】
本村 凌二 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121023919/
○この本を一言で表すと?
競馬好きが書いた競馬の歴史の本
○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
・競馬については私が子供の頃にゲームセンターでやったメダルゲームやテレビゲームくらいの知識しかありませんでしたが、周囲でよく競馬の話になるので、小ネタとして競馬の世界史を追ってみようと思ってこの本を購入しました。
・著者が「世界史の叡智」と同じというのを買った後で知りました。
「世界史の叡智」はマイナーな人も含めて取り上げていたので個別の歴史としては面白いものの、著者の憶測や現代の政治家との比較の記述が歴史家というよりは「その辺にいる年配のおっさんの戯言」というレベルのものでした。
著者が競馬について長年情熱を持って追い続けているからか、この本は競馬の始まりから現代まで、しっかりと地続きになった記述になっていてよかったです。
第1章 古代民衆の熱狂―競馬の黎明期
・古代ローマの競馬のメインは戦車の競争であったこと、ローマ市民を政治的盲目にさせるために民衆に無償で与える「パンとサーカス」のサーカスが戦車の競技場を意味していることなど、興味深いことが書かれていました。
第2章 英国王の庇護のもとで―近代競馬の胎動
・16世紀初めに王位につき、イギリス国教会を立ち上げたヘンリ8世が馬に興味を持ち、各国の名馬を集めたこと、17世紀から馬比べから始まった競馬が始まったこと、初期の競馬はヒート競争(日に予選を何度も走って決める競争)だったことなどが書かれていました。
第3章 サラブレッドの誕生―品種改良のはじまり
・馬の存在価値が軍馬としての価値だったため、重量に耐えスタミナがあることが良馬の条件だったが、銃の発展により重い鎧に意味がなくなり騎乗する者が軽装になったことで、敏捷さに重きを置く軽種馬の生産が注目されることになったという現代へのサラブレッドへの流れが興味深かったです。
・サラブレッドの三大始祖として、トルコ軍から盗んでイギリスに持ち込まれたターク馬のバイアリーターク、アラブの馬主からイギリスの水兵が盗んでイギリスに連れて行った馬の中でダーレー家に引き取られたダーレーアラビアン、フランス国王に献上されたが痩せこけて見栄えがせず、地方で水の運搬車を引いていたところをイギリス人が引き取り、ゴルドフィン伯爵によって取得されたゴルドフィンアラビアンの経歴が述べられていました。
第4章 クラシックレースの成立―十八世紀のヨーロッパ競馬
・1666年のロンドンの大火災後、ロンドンの復興とともに秘密クラブが設立され、その中にジョッキークラブがあったこと、ジョッキークラブの創始者に王族のカンバランド公爵がいて、ジョッキークラブが競馬の権威になったことなどが書かれていました。
・十八世紀当時の競馬がある程度成熟した馬による長距離のヒート競争だったのを、3歳の若駒を短距離で一発勝負で走らせれば何度も走らせるような中弛みがない刺激的なレースになるだろうと始められたのが、現代のクラシックレースに連なっている流れも書かれていました。
第5章 市民社会と近代競馬の発展―十九世紀のヨーロッパ競馬
・競馬が賭けの対象として労働階級にも広まり、あまりに熱中し過ぎて身を滅ぼす者も出てきて、不正の温床にもなるなど、その功罪が問われるようになっていたことなどが書かれていました。
馬のえさに毒を混ぜる、発着係を買収するなど、収拾がつかなかったであろうと当時の混乱を思わせる記述がありました。
同じ頃、馬齢重量制の整備などのルールを定めて構成にする動きもあったこと、クラシックレースと呼ばれるレースが定着して、その中で三冠馬となる馬が出てきたことなどが述べられていました。
第6章 馬産地ケンタッキーの台頭―十九世紀の世界の競馬
・アメリカでは独立戦争から軍隊として馬の数を用意する必要があり、アメリカ大陸への馬の持ち込みや生産が入植当初から行われていたというのは興味深いなと思いました。
アメリカでも競馬が発展し、それ以降南アフリカや開国当時の日本等でも競馬が持ち込まれ、外国人居留地に住むものの娯楽として成り立っていたと書かれていました。
第7章 凱旋門賞創設と国際レースの舞台―二十世紀のヨーロッパ競馬
・アメリカ流の騎乗の仕方が広まったり、フランスで凱旋門賞が創設されたり、競馬後進国イタリア産のネアルコが凄まじい実績を叩き出したりと、競馬の元祖イギリス以外における二十世紀の競馬の活況について述べられていました。
第8章 繁栄する合衆国の英雄たち―二十世紀のアメリカ競馬
・アメリカの競馬が隆盛し、あまり他の大きな大会が開催されない時期にブリーダーズカップを創設することで世界中の有力競争馬が集まってきたこと、あまり競馬を知らない私でも知っているサンデーサイレンスがアメリカの馬でありながら日本のファームに買収されて種牡馬となったことなどが書かれていました。
第9章 日本競馬の飛躍―二十世紀の世界の競馬
・日本でも陸軍の要請で競馬が始まり、流行したが不正の温床となって1908年から1924年まで馬券の販売が禁止されたこと、司馬遼太郎の「坂の上の雲」で書かれていたような日露戦争での騎兵の評価はあまりなく、「騎兵が充実していればロシアは無条件降伏していただろう」と言われるような評価だったこと、競馬場を創設した安田伊右衛門が陸相から手を引くように言われても遂行して今は安田記念に名を残していること、日本中央競馬会の二代目理事長の有馬頼寧が教育事業につくしながら公職追放にあい、唯一受けた仕事で競馬環境の改革に励んで今は有馬記念に名を残していることなど、現代に繋がる話も合って面白かったです。
第10章 国際化時代のビッグレース―現代の競馬
・ディープインパクトなど、二十一世紀になって活躍した馬など、現代に繋がる話が書かれていました。
○つっこみどころ
・古代ローマや中世・近代ヨーロッパの競馬の歴史はそれなりに充実していましたが、後半の第8章以降は個別の馬に焦点があてられていて、歴史の流れより個別トピック中心になっていて、頭に残らない内容になっていました。
・競馬の歴史自体は興味深いと思いましたが、競馬に興味のない私がこの本を読み終えても現代の競馬に対してはそれほど興味を持てないままでした。