【大阪アースダイバー】レポート

【大阪アースダイバー】
中沢 新一 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4062178125/

○この本を一言で表すと?

 さまざまな文献や考古学的知見に妄想を足して大阪について考えた本

○この本を読んでよかった点

・大阪について地理学的な観点や民俗学的な観点から見ることができ、新鮮で面白かったです。

第一部 プロト大阪

・大阪が昔は海だったことは知っていましたが、どのように陸地が形成されていったのかは知りませんでした。

・上町台地が半島のようになっていて古代は栄えていたというのは面白いなと思いました。

・大阪には「○○島」という地名がたくさんありますが、昔は八十島と言われていて、砂州が島のようにできていったというのも初めて知りました。

・蘇我氏に政争で敗れた物部氏の勢力の中心地が八尾だったことは初めて知りました。

第二部 ナニワの生成

・ジャレド・ダイヤモンド氏の「昨日までの世界」、ニコラス・ウェイド氏の「宗教を生み出す本能」、アダム・スミスの「道徳感情論」などで、交換することが縁を作り出すということ、商業的な目的より交流が目的だったということが書かれていましたが、そういったことを踏襲しながら、ナニワでは無縁と約束事を絶対視する超無縁の商業が成り立ったという話は興味深いなと思いました。

第三部 ミナミ浮上

・処刑場があったところで芸能が成長するという歴史的な証拠から芸能と死を結びつけるという発想は、若干因果関係が薄いなと思えるものの、面白いなと思いました。

・漫才と落語は似たようなものから分岐したものだと思っていたので、漫才が南方からきた海の神から、落語が仏教の説法からきたもので全然来歴が違っていたということには驚きました。

・通天閣あたりの成り立ちの歴史、日雇い労働者の歴史などは目新しくて興味深かったです。

第四部 アースダイバー問題集

・墓場とラブホテルという組み合わせ・結びつきは前に誰かに聞いたことがありますが、死が近いからこそ生を強く求めるという感覚は、よく知られている命の危険があるときに種族維持本能が顔を出すということにも繋がっているなと思いました。

・黒門市場の歴史を初めて知りました。
商人が売れ残りを持ってくるような二流の市場だった黒門市場でタコを茹でて売る「蛸宗」が人気を集め、今なお続く活気のよさに繋がっているというのは、実際に行ってみた感覚からもそれほど間違っていないような気がしました。

・生玉神社と坐摩神社の古くからの来歴と坐摩神社の宮司である渡辺氏が北と南に別れ、部落となって水平社の創設地になったという歴史など、えた・ひにんが成立する課程や位置づけの再考など、なかなか他の本で語られるところを見たことがないことが書かれていて新鮮で面白かったです。

Appendix 河内・堺・岸和田―大阪の外縁

・ヨーロッパ型の都市がほとんど存在しなかった日本で堺と平野だけが農業などから隔離された商人が息づく環濠都市だったというのは面白いなと思いました。

・岸和田のだんじりを船に見立てたり鯨に見立てたりすることに著者だけでなくだんじりの元若頭も賛同しているというのは面白いなと思いました。

○つっこみどころ、その他考えたこと

・ジャレド・ダイヤモンド氏のなりそこない、という印象を受けました。
考古学的証拠や文献などにあたって過去を浮かび上がらせようとするアプローチは同じですが、埋められなかった部分を著者が知っている知識と妄想で無理やり埋めていました。

・第一部は妄想9割で第二部以降の内容についての期待がかなり薄くなりました。
アポロン軸・デュオニソス軸などの無理やりな意味づけなどはかなり陳腐な印象でした。
第二部以降はイマイチな妄想がそれなりに含まれるもののそれなりに面白かったので、もったいないなと思いました。

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