【文字世界で読む文明論 比較人類史七つの視点】レポート

【文字世界で読む文明論 比較人類史七つの視点】
鈴木 董 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4065201470/

○この本を一言で表すと?

 文字世界と文明・文化に関して論じている本

○よかったところ、気になったところ

・文字世界という軸で歴史や文化を見ていく視点は、新たな気づきもあり、面白いなと思いました。

・文化的凝集力や同化力が高いかどうかで文明が長く続くかどうかが決まっているという文脈が興味深かったです。

プロローグ 文明が成熟するために

・民主主義、文明がまだ成熟していないためにフィードバック機能が機能せず、自由主義・資本主義もフィードバック機能が機能していないから格差の拡大に繋がり、うまくいっていないとして、文明が成熟すれば解決するものだと述べられていました。

・文字を軸にして考えられた四大文字世界から五大文字への変遷とそのプロセスの図は歴史の流れがコンパクトに纏まっていてわかりやすいなと思いました。

第一章 文明と文化とは

・文明の定義が様々であり、著者の文明の定義は一言でまとめると「外的世界・内的世界の利用・制御・開発・フィードバック能力の総体」となるようです。

・著者の文化の定義を一言でまとめると「集団が後天的に習得・共有する行動・ものの考え方・感じ方の総体」となるようです。

・文明については優劣を論じることが可能だそうですが、文化については優劣を論じ得ないそうです。

第二章 ことばと文字

・音声でことばを伝えることだけでも大帝国を築くことができるほどだったものの、文字の発明が画期的だったこと、古代において文字のない文明も発展していたため、四大文明とは言えないかもしれないが、四大文字文明とは言えることなどが述べられていました。

・四大文字文明のうち、メソポタミアの楔形文字とインダス文字は死文字となって途絶えてしまったこと、エジプトのヒエログリフは形を変えてアラビア文字、梵字文字、ラテン文字、ギリシア・キリル文字の五大文字文明のうち4つに派生していったこと、中国の漢字は今に至るまで残っていることなど、文字の様々な歴史について述べられていました。

第三章 知の体系の分化――宗教と科学と

・自然と超自然が渾然一体となっていた世界から科学と宗教に分かれた流れが書かれていました。
さらに宗教が知の体系を担保していた状態から哲学が知の体系を担うようになったそうです。

第四章 文明としての組織 文化としての組織

・家族として血と家のどちらを優先するか、長子相続か均分相続か、国家として空間拡張型か空間固定型か等、地域ごと時代ごとに異なっていたことが述べられていました。

・科挙による中国社会における凝集性の向上が特にクローズアップされていました。

第五章 衣食住の比較文化

・住まいの違いによる文化の違い、衣服の違いによる文化の違い、食に関わる文化の違いについてそれぞれ述べられていました。

・衣服については地域ごとに異なった特色があったものの、洋装を受け入れていくことが社会の西洋化として進んでいったことが述べられていました。

・食に関しての文化は現代に至るまで統一されず、箸食、右手指食、フォーク・ナイフ食など文化ごとの作法が分かれていることが述べられていました。
食に関するタブーも文化毎に異なり、漢字圏ではタブーがないことが述べられていました。

第六章 グローバリゼーションと文化変容

・大航海時代以降、非西洋社会の西洋化が進み、グローバリゼーションによる斉一化が進む中で、文化摩擦が起こっていることについて述べられていました。

第七章 文明と文化の興亡――文明の生き残る道

・残った文明と滅びた文明の違いとして、内的凝集力と同化力の強さが挙げられていました。
西洋化が進む中でも同化力はそれほど強くなく、近代化・グローバリゼーションが進む中でも文化の斉一化があまり進まなかったことについて述べられていました。

エピローグ 現代文明と日本

・日本が漢字文化圏から西洋化・近代化して追いつけ追い越せで成長してきながら独自の文化を保っているものの、同質性が求められる文化であるため異才を育てられない国であること、そこから脱却すべきことについて述べられていました。

○つっこみどころ

・参考文献が記載されておらず、想像で書かれているような内容が散見されました。
科挙などの特定の要素の効果・成果を過大に評価していたり、全体として説得力に欠けるようにも思えました。

・四大文明、四大文字文明から五大文字世界への流れは面白かったのですが、文明・文化についての本書の大部分の内容が薄く、あまり同意できませんでした。

・現在まで「行け行けドンドン」の文明だった、それではいけない、という内容が何度も出てきますが、単純化し過ぎ、一面的過ぎで説得力がないなと思いました。

・「行け行けドンドン」の文明の第一段階と、それ以降の文明の第二段階、第三段階という話が何度も出てきますが、第二段階以降の説明がほとんどなく、第一段階を抜けた後の文明がどのようなものかよく分かりませんでした。

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