【MAKERS―21世紀の産業革命が始まる】
クリス・アンダーソン (著), 関美和 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4140815760/
○この本を一言で表すと?
もの作りが工場から机の上に場所を移す現代及び近未来についての本
○この本を読んで興味深かった点
・「FREE」の著者がもの作りについての本を書いたと知ってどういうことなのか驚きましたが、読んでみると「FREE」で書かれたビットが無料ということの土台の上でもの作りというアトムが身近になるという話で納得しました。
・著者の実体験として実践した話から、もうすでにここまで3Dプリンタが実用されているのかと知り、驚きました。3Dプリンタが手に届く値段で手に入ることにも驚きましたが、それをとりまく環境(CADデータの共通化・共有化、3Dプリンタやレーザーカッターなどの利用サービス等)がすでに整備されてきていることにも驚きました。
・ウェブだけでは「第3次産業革命」とは言えないところを、ウェブを活用したもの作りが「第3次産業革命」と言えるまでに発展しそうなこと、製造業が大きくシフトして人件費が全体に占める割合が小さくなり、アメリカに製造業が回帰するかもしれないことなどは現在の常識からすると信じにくいですが説得力があるなと思いました。
・巻末の「付録 二十一世紀の工房」で、現在でも手が届く製品やサービスが載っていて、アメリカならやろうと思い立てばすぐに取り掛かれる体制が整っているのだなと思いました。日本でも早くそのようになればいいのになと思います。
・訳者あとがきが思い切りフランクなのでびっくりしました。
「SHARE」や「PUBLIC」と同じ訳者ですが、そちらでは監修者の解説しか載っていませんでした。
第6章 変革のツール
・これまで2次元であればできていたことを3次元で可能にするツール(3Dプリンタ、CNC装置、レーザーカッター、3Dスキャナー)が身近になり、実用にかなうものになってきていることが書かれていました。
第7章 オープンハードウェア
・オープンソフトウェアでなく、構造やデザインやCADコードなどがフリーになっているオープンハードウェアによって、オープンソースの世界がソフトウェア業界だけでなくハードウェア業界にまで広がっていることが書かれていました。
第8章 巨大産業を作りかえる
・自動車のような巨大な設備が必要な産業でもロングテールに当たるマニアックなニーズに一台ずつ答えることができる企業が存在可能になっていること、大企業でもデジタルマニュファクチャリングを目指してプログラムを入力すれば動きが変えられる汎用ロボットを導入して内製を進め、これまでのサプライチェーンに依存した事業構造を変える可能性があることが書かれていました。
第9章 オープンオーガニゼーション
・よく目にするけれども意味を知らなかった「ジョイの法則(ビル・ジョイの法則)」の由来と意味が載っていました(サン・マイクロシステムズの共同創業者のビル・ジョイが「いちばん優秀な奴らはたいていよそにいる」と言ったこと)。
ジョイの法則が対抗しているコース理論(企業化することで取引コストを最小化する)についても内容を初めて知りました。
アップルがジョイの法則ではなくコース理論に沿った企業であることは言われてみれば納得です。
・著者と組んだジョルディ・ムノスという若者が19歳で高校時代の彼女が妊娠して結婚したばかりのメキシコ移民という背景と、その背景に拘らずに企業のパートナーとなれたという話は、一昔前ではあり得ない現代ならではのサクセスストーリーだなと思いました。
・アメリカの製造業が弱くなっているという話をよく聞きますが、データでみると一部の産業では史上最高水準であり、製造を中国に委託しているiPhoneでも価格の半分以上はアメリカに留まっているというのはなるほどなと思いました。
製造を海外に委託するか国内で行うかの流れが書かれているP.204の図は分かりやすかったです。
第10章 メイカーズの資金調達
・クラウドファンディングの名称と概要は何となく知っていましたが、その詳しい内容は初めて知りました。
キックスターターの寄付金を募り、寄付した者に商品購入の便宜を図ることで、予約時に売り上げが上がること、寄付金を募ること自体が市場調査になっていることなどはよくできた仕組みだなと思いました。
2012年4月にオバマ大統領が新規事業活性化法案にクラウドファンディングを取り入れて成立した話は日本と違って政府がビジネスを理解しているからかなと思いました。
・クァーキーのアイデアを登録し、改良するプロセスに誰もが関わることができ、人気のあるものだけを商品化するというプロセスもなるほどなと思いました。
昔日本でもアイデア・ドットコムなどで似たようなことをやっていましたが、今全然聞かないのはうまくビジネスモデルを作れなかったからかなと思いました。
・エッツィーの手作り品の作成者と購入者をマッチングするビジネスモデルは誰でも思いつきそうですが(私も今までに2件相談を受けました)、軌道に乗るまでビジネスを作り込んだのはすごいなと思いました。
第11章 メイカービジネス
・昔から他とは違うアイデアで航空機やその部品を作り続けて、今も最先端の技術を追求している「スケールド・コンポジッツ」の話、レゴがフォローしていない20世紀の兵器を自作してレゴ基準に併せてレゴ本社に認められた「ブリック・アームズ」の話、Twitterを開発しておきながらその会社から抜け、元上司の吹きガラスの専門家と組んでスクエアというスマートフォンと接続可能なカードリーダーを開発したジム・マッケルビーとジャック・ドーシーの話など、どの話もメイカービジネスならではの話で面白かったです。
第12章 クラウド・ファクトリー
・遅く始めたせいでブームから外れ、そのおかげで逆に成功したB2Bマッチングサイトの「MFGドットコム」の話、中国で大企業も中小企業も参加できるB2Bサイト「アリババ」の話が載っていましたが、この本のテーマとの接点がイマイチよく分かりませんでした。
中国のシャンツァイ産業(パクリ産業)がオープンソースの組織構造とよく似ているという話は「FREE」でもでてきましたが、知的財産権に頼らないビジネスと言う共通点があるからかなと思いました。
第13章 DIYバイオロジー
・DNA特定のツールも安価になっていることから、台所でもDNA操作が可能な時代になってきているそうです。遠心分離機を安価な材料で自作できる話は、既存の企業にとっては顧客を奪われる恐ろしい話だろうなと思いました。