【アベノミクスのゆくえ 現在・過去・未来の視点から考える】レポート

【アベノミクスのゆくえ 現在・過去・未来の視点から考える】
片岡 剛士 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4334037410/

○この本を一言で表すと?

 アベノミクスや過去の経済を「3×3のフレームワーク」と様々な学説で分析している本

○この本を読んでよかった点・考えた点

・ページ数が割とある新書でしたが、難しいことが分かりやすく説明されていて、読みやすくてよかったです。

・アベノミクスの構造やねらい、日本銀行の変遷などがかなり分かりやすく書かれていて勉強になりました。また、アベノミクスをただ礼賛するのではなく、批判的にも評価していてよかったです。

・副題通り日本経済の現在・過去・未来の視点で見ることができました。

第1章 日本経済の現状

・日本経済の現状が7つのポイント「マイルドかつ持続的なデフレ」「円高トレンドの持続」「失業率の高止まり、名目賃金の停滞」「深刻化する不況と回復の弱々しい好況」「財政赤字・債務負担の深刻化と、将来の増税可能性の高まり」「少子高齢化の本格化」「東日本大震災の影響」でまとめられていてすっきりと分かりました。

第2章 日本経済を考えるための視点

・「3×3のフレームワーク」の解説で「3つの政策手段(安定化・成長・所得再分配)」「3つのステージ(経済情勢の把握・各種政策の選択と実行・政策効果の発現)」「3つの時点(過去・現在・未来)」をフレームワークとして、さらにその詳細が書かれていました。

・国際金融のトリレンマとして「為替レートの安定化」「国際資本移動の自由化」「独立した金融政策」の3つを同時に達成することは不可能という考え方は初めて知りました。

・「3つのステージ」の解説で、レジーム(政策についての基本原理の体系)と既得権益・観念がそれぞれのステージに影響し、内部ラグ(経済情勢を把握するまでの「認知ラグ」、認識してから政策を決定するまでの「決定ラグ」、政策を決定してから実行するまでの「実行ラグ」)と外部ラグ(政策を発動してから効果が発言されるまでのラグ)が存在すること、それぞれのラグが各政策によって長さが異なってくること(P.93)などが書かれていて政策決定から実行の結果の発現までの過程がよくわかりました。

・「ストック市場」と「フロー市場」という言葉自体は聞いたことがありますが、後者が前者に比べて「粘着的」な動きをすること、現在の経済活動が過去というフローの市場と未来というストックの市場の兼ね合いで形作られているということなどは面白い考え方だなと思いました。

第3章 過去から考える日本経済

・過去の経済の状況とその状況に対する政策が「3×3のフレームワーク」で分析されていてわかりやすかったです。
「3つの時点」の「未来」が明るいか暗いか、ストック市場の資産形成が有望か破壊的かで先行きが決まってくるというのは、結果論的な気もしますが面白いなと思いました。

第4章 未来から考える日本経済

・アベノミクスの3本の矢が『「大胆な」金融政策』『「機動的な」財政政策』『「民間投資を喚起する」成長戦略』ということと、その意味について説明されていて分かりやすかったです。
「3×3のフレームワーク」でみるとかなりアベノミクスが有望であるというのは結果だけ聞けばいかがわしい結論ですが、説明されている内容を読むとそれなりに納得できるような気がしました。

・日本銀行の新総裁・副総裁のメンツで、名前をよく聞く岩田規久男氏が副総裁になっていることを初めて知りました。
黒田東彦総裁と岩田規久男副総裁のかなり覚悟を決めたコメントと元から日銀理事の中曽宏副総裁のゆるいコメントが比較されていて、中曽氏が少しかわいそうな気がしますが、大事なポストに就いた以上はそんなことは言っていられないのかなと思いました。

・著者がアベノミクスの金融政策に対して述べている提言「基準となる物価指標の明示や展望レポートの変更・修正」「オープンエンドの金融緩和策」「日銀法改正」はかなり具体的で説得力があるなと思いました。

・財政政策に対して述べている増税のタイミングを焦らないことという提言も金融政策とのバランスを考えている真っ当な意見だなと思いました。

・成長戦略に対して述べている提言のTPP参加については反対意見に対する意見と併せて考えてみたいように思いました。

○つっこみどころ

・貨幣数量説が当然の前提として何の説明もなく「貨幣が増える」⇒「デフレ脱出」と繋げられているのにはかなり違和感がありました。

・第3章の最初で「長期停滞の主因についての6つの仮説」を出しておきながら、すぐにそのうち5つを「GDPに一貫した形で作用していない⇒主因でない」として、「貨幣的現象はGDPに一貫した形で作用している⇒主因である」としているのは、かなり短絡的な結論になっている気がしました。

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