【日本企業の復活力 コロナショックを超えて】レポート

【日本企業の復活力 コロナショックを超えて】
伊丹 敬之 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4166612964/

○この本を一言で表すと?

 日本企業がポストコロナで成長できる方向性について書かれた本

○よかったところ、気になったところ

・「ゼミナール経営学入門」「平成の経営」などで書かれている「場のマネジメント」や「オーバーエクステンション投資」などがウィズコロナでもポストコロナでも状況に適用して活用できることが書かれていて、伊丹教授独自の理論が生き生きと活写されていて面白かったです。

・「熱湯効果」「ポテンシャル開花効果」「地殻変動効果」という三つのタイプのインパクトで、日本企業がコロナショックを経てオイルショック後のように大きく成長できる見込みがあると、現在の状況や将来の状況についてポジティブに述べられていることが印象的でした。

プロローグ コロナショックは日本企業の分水嶺

・この本では、新型コロナウイルスによる禍を、「コロナ禍」ではなく、経済的マイナスのインパクトを表現するため、オイルショック、リーマンショックと同様に「コロナショック」と呼ぶことにすると書かれていました。

・戦後の大きな四つの経済危機の大きさを「バブル崩壊>コロナショック>オイルショック>リーマンショック」としていました。
バブル崩壊のみ国内型ショックでかつ戦後最大の危機で、他は世界的な規模のショックで、その中でもコロナショックは人の流れが停滞することによって生まれる珍しい危機であり、どこかに資金が集まるわけでもなく、解決が難しい危機だとされていました。

・コロナショックに負けず、バネに使うことを考えられるか、自分たちの強みの源泉を深く考え、長期的な視野を持ってウィズコロナの間に備え、ポストコロナで飛躍する道があるとしていました。

第1章 「不思議の国」日本の底力

・日本は新型コロナウイルスによる感染者も死亡者も他の先進国に比べて格段に少なく、また「法の支配」による強制ではなく自粛の要請による緩やかな対策でその結果を出している「不思議の国」だと述べられていました。

・日本は国家と個人の間に「共同体の道徳的ルール」「共同体への配慮」という中二階を有していて、全体の秩序が保たれているのだそうです。

・日本が「自粛受容社会」になりえたのは、自粛しても生活の不便がそれほど大きくないから受け入れられるという社会インフラの質の高さがあるからだと述べられていました。
その社会インフラの質の高さの前提が日本人の「一配慮・一手間」なのだそうです。

・コロナショックによる世界経済地図の大きな変化として「世界経済の勢力地図の変化」「グローバリゼーションへのブレーキ」「デジタル化の加速」があるそうです。
世界経済については、コロナショックによる経済の体力消耗の度合いが地域によって異なることから変化が起き、欧州が最も消耗が大きく、域内の不協和が加速しそうだそうです。
アメリカは最も深刻な感染被害があり、また社会的分断が大きいことがアメリカ経済のポテンシャルを割り引かせる効果を持ってしまうそうです。
中国は感染が収まり、経済も回復して主要国の中でも経済の被害は小さいものの、中国経済はすでにバブル状態にあったところにコロナショックによる収縮が来てしまったこと、中国の新型コロナウイルス対応や一帯一路のような強引な世界戦略から世界から警戒心を抱かれていることでその影響が抑制されそうと述べられていました。

・オイルショック時において、日本企業は「ゆでガエルへの熱湯効果」により、徹底的な省エネと、高度成長期時代についた「ぜい肉」を落とす減量経営を実施し、産業構造の転換にも繋がり、世界経済地図の中での地位を大きく向上させたそうです。

・コロナショックにおいて、日本企業は「ゆでガエルへの熱湯効果」による産業構造の転換、コロナショックに対して緩やかな政策で成功した先進国としての国際的な評判の向上、「一配慮・一手間」による産業の強靭さなどから、プラス効果を生み出せるポテンシャルを持っている、ということがこの本での著者の主張だそうです。

第2章 テレワークがあぶり出した日本の組織

・テレワークで様々なことがあぶり出され、日本の組織の弱さについては「働かないオジサンのあぶり出し」「管理職の良し悪しのあぶり出し」「社員の本当の能力のあぶり出し」が見られるそうです。

・テレワークによってあぶり出された良い面については、場のマネジメントと場の共有の意義が実感され、テレワークでは至らない日本の組織の強みが再確認できたことだそうです。

第3章 デジタル化に大わらわ

・日本のデジタル化が遅れている根本原因として「基礎的な人材供給不足」「長期にわたる投資の不足」があるそうです。
特に人材供給については、かつてエレクトロニクス産業では人材供給が多く、電子工学分野の学生数がアメリカの2倍以上という時期が続いていたことがあったそうですが、IT・インターネット分野ではアメリカとは比較にならないほど大学からの人材供給数が少なく、投資もされてこなかったそうです。

・日本のデジタル関連産業の方向性として、部品産業での技術蓄積の活用、アナログベースでのデジタル化、「ラストワンマイル」ではなく「ラストワンフィート」での「一配慮・一手間」、デジタルと人の協業などがあるそうです。
特に日本のアナログ技術・サービスのデジタル化が有望だと強調されていました。

・日本企業のデジタル化の最大の制約は人材供給だとした上で、これまで遅れながらもIT産業が日本でもある程度発展できたのは多様なバックグラウンドの人材をIT産業に転用できたからだとされていました。
今後も転用の余地は大きく、転用だからこそのアナログベースとの連携が考えられるとされていました。

第4章 逆張りのグローバリゼーション加速

・コロナショックによって国境が壁になるボーダーフルな環境が加速しつつあるそうです。
その中で、日本がグローバリゼーションの程度が元々低いので、逆張りでよりグローバリゼーションを加速させるべきだという主張がされていました。

・日本企業は根本技術まで海外に出すドーナツ型のグローバリゼーションではなく、自動車産業などで行われていたコア技術やコア部品は日本に残すピザ型のグローバリゼーションを加速させるべきだと述べられていました。
日本のサービス産業のグローバリゼーションが有望だと、ユニクロや公文などを例に述べられていました。

第5章 コロナショックが日本の産業を強くする

・コロナショックの産業インパクトで、新しい需要の発生と古い需要の再生・変容、事業ポートフォリオ転換への圧力などが起き、製造業は2.4次産業へ、サービス業は2.6次産業へシフトしていき、産業の再編成も進むそうです。

・日本のメイン産業は電機産業で産業内シェアも圧倒的な一本足打法だった状態から、自動車産業がメイン産業になったものの、化学産業や食品産業なども強く一本足打法にはなっていないこと、自動車産業は他産業への波及効果が強いこと、まだまだ自動車産業が強い状況が続きそうだということが述べられていました。

第6章 雇用と人事、改革待ったなし

・日本の雇用と人事はなかなか変えることが難しいものですが、コロナショックを機に、改革すべきと述べられていました。
退職要請もやむを得ず、ただしフォローは入念にした上ですべきだそうです。
管理職が多すぎる状況を改善し、管理職の能力、特に人を評価する能力を鍛え直すべきだそうです。

・若手の抜擢は少子高齢社会が進む中で必要なもので、日本企業は企業内格差が海外に比べて格段に低いので、ある程度格差を拡大しても許容でき、必要な差はつけていくべきだそうです。

・評価補助制度である管理職ポストを削減し、人事評価制度を正しく運用し、悪平等にしないようにするために、強い人事部を復権すべきだというのが著者の主張でした。
評価の差による格差の拡大等に対する不満や、評価制度運用のサポート等には人事部が介入していく必要があるそうです。

第7章 成長への心理的エネルギーが最大の鍵

・日本は自粛から萎縮に繋がっていくという方向性も考えられるものの、それは望ましくなく、バブル崩壊によって自身を失い、自己資本比率を高めて設備投資を抑えてきた状況から脱却する必要があると述べられていました。

・人間の困難を予測する能力と実は秘めている問題解決能力のポテンシャルでは前者が過大に評価されがちであり、能力を部分的に欠いていてもチャレンジする「オーバーエクステンション投資」で創造的緊張と実地学習効果を味方につけ、「神の隠す手の原理」で成功させる方法が勧められていました。

エピローグ 国際大学学長室から見える世界と日本

・著者が学長を務める国際大学で、日本の良さを伝える方向にシフトして海外の学生が日本の手法を学んで自国で成功した事例などが書かれていました。

・昔は企業から派遣された日本人も多く、海外人材との交流や連携が見られたそうですが、近年顕著に減ってきて、グローバリゼーションへの取り組みの熱が減っていることが気になっているそうです。

○つっこみどころ

・技術変革による将来の動き、既存の産業構造そのものが崩壊して新たな産業構造が生まれる動きなど、日本企業が対応できなさそうな領域にはあまり触れられず、日本企業が対応できているところだけ摘んで紹介されているような印象を受けました。
AIについて少し触れられていたくらいで、プラットフォーム、3Dプリンタ、VR・AR等によって産業がどのように変わるかが考慮されていないように思えました。

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