【地銀波乱】
日本経済新聞社 (編集)
https://www.amazon.co.jp/dp/4532263980/
○この本を一言で表すと?
地銀の置かれた状況について、様々な側面から迫ったルポの本
○面白かったこと・考えたこと
・よく知っているトピックも、あまり知らなかったトピックも、いろいろ掘り下げられていて勉強になりました。平成の経済、金融の本を読んでも地銀が破綻したことは書かれていましたが、その内情や現在の状況について新たに知ることができてよかったです。
・「地銀がやばい」という話をいろんな方面で聞くことがありましたが、どうやばいのか、具体的に知ることができました。
地銀の取りうる選択肢の少なさ、それも時が経つにつれて少なくなっていく状況がかなり大変そうだなと思いました。
第1章 迫り来る「地銀廃業」時代
・平成の金融と政治の本を読んでいて、都銀は政府がいろいろ口出しし、調整して統合などが進んだものの、地銀は進まなかった話が出ていて、なぜ地銀には適用できなかったのか不思議に思っていましたが、地銀の地域に対する経済の担い手としての立ち位置、インフラとしての立ち位置などがあり、それを守る必要があったこと、そしてその立ち位置を地銀自身が破っていかないと負担が大きすぎること、公的資金を投入されてもそれを返せる見込みがないこと、統合を進めようとしても独禁法の壁があり、公正取引委員会からストップをかけられることなどが書かれていて、想像以上に大変なのだなと思いました。
第2章 「優等生」スルガ銀行の背信
・スルガ銀行のことはITローンや走るATMの活動など、かなり革新的なイメージで知っていましたが、シェアハウス投資への絡みで一気にマイナス面でニュースになり、営業面でのノルマ・圧力がすごかったこと、管理体制そのものも営業寄りになっていったことが明るみになって、ある意味でなるべくしてそうなっていった構造が鮮明になり、これは銀行業界だけではなくて営業が強い業界だとどこでも有り得そうな話だなと思いました。
第3章 暴走するアパートローン
・「法人スキーム」の話は税金に関する資格の勉強などでも知っていましたし、税理士の人から話を聞いたこともあり、投資の本などでもよく出てきましたが、普通のサラリーマンが10億単位の投資をしていたスキームであったり、そのスキーム頼りで不動産会社も動いていたり、想像以上に大きな動きだったのだなと思いました。
第4章 モラトリアム法の負の遺産
・モラトリアム法でモラルハザードがあって、銀行が大変だった話は聞いたことがありましたが、今でもその延長で地銀が苦しんでいるというのは驚きました。
当時は必要だった制度かもしれませんが、その制度の有り様はもう少し工夫できたのではないかと思いました。
第5章 抱えた「不良債権」爆弾
・地銀が国債で安定した運用ができなくなり、外債に走って利上げで価値低下して損をして、更にリスクのある資産の運用に向かっている話、リーマンショックでその大きな原因にもなったデリバティブ、CLO(ローン担保証券)などに地銀が手を出している話など、かなり危険な兆候が現在進行系であるのだなと思いました。
第6章 人材枯渇の危機
・地銀に人が集まらなくなっていった話は前から聞いていましたが、大変な状況だなと思いました。
「最も敬遠したい業界」のランキングで地銀が上位に上がっている表を見て、それよりもメガバンクが上位にある理由を知りたいなと思いました。
・海外人材に頼らなければならない状況というのは、他の業界と求める人材像は異なるものの、どこか似ているなと思いました。
第7章 活路は草の根金融に
・京都信金の草の根活動、華僑による華僑のための金融、クラウドファンディングの手伝いをする金融マン、資産運用のプロを育てる塾、売掛資産などに着目して銀行と企業をつなぐトパーズ・キャピタルなどの話が紹介されていました。
売掛資産を担保にする金融の話は以前に聞いたことがあり、それを活用している金融機関の話は興味深いなと思いました。
○つっこみどころ
・第7章が地銀の活路という位置づけでしたが、具体的な数字が示されておらず、内容もかなり小ぶりでとても活路とまでは思えない内容でした。
手段としてはありなのかもしれませんが、これだけではとても活路は開けそうにないなと思いました。
AI審査の話など、地銀の活路というよりさらに追い詰めそうなテーマではないかと思いました。