【夫婦格差社会 – 二極化する結婚のかたち】レポート

【夫婦格差社会 – 二極化する結婚のかたち】
橘木 俊詔 (著), 迫田 さやか (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121022009/

○この本を一言で表すと?

 いろいろなデータから日本の世帯別の格差について、非難を恐れずに書いている本

○面白かったこと・考えたこと

・タイトルから「夫と妻の間の格差」の本だと思い、本屋でパラパラと目次や内容を見た上でもその認識が変わらなかったのですが、実際読んでみると「夫婦を中心とした世帯間の格差」の本でした。

・男女の優先順位の違いなどのデータがいくつも出てきて、それ自体が結構面白かったです。

・「パワーカップル(高所得夫婦)」「ウィークカップル(低所得夫婦)」「結婚『できない』人たち」など、人によってはカチンときそうなキーワードが躊躇なく使われ、統計データから推論して「貧困者は同レベルの者と結婚している」「貧困者はなかなか結婚できない」などの結論を導き出しているところなど、非難を恐れない人が書いているのだろうなと思い、個人的には痛快だなと思いました。

第1章 夫の所得と妻の所得

・個人の所得ではなく、世帯の所得の方が重要という意見は、確かに世帯所得の方が生活とリンクしていてその通りだなと思いました。

・夫の所得が高ければ妻の働く率が低い、夫の所得が低ければ妻が所得を補おうとするということが「ダグラス・有沢の第二法則」と定義されていることは初めて知りました。
今はそうとは限らず、夫が高所得でも妻が働くことが多く、夫が低所得でも妻が働いていないことが多いという話は周りを見ている実感でもそうだなと思いました。
妻の所得がさらに世帯格差を広げているというのは意識していませんでしたが、そうかもしれないなと思えました。

第2章 どういう男女が結婚するのか

・結婚相手に何を望むかで「相補説(自分にないものを望む)」「類似説(自分と同じものを望む)」があり、実際はそれぞれの要素(経済力、体格、容姿、性格)の優先順位が人によって違い、それぞれの要素にどちらが適用されるか異なるというのはそりゃそうだと思いました。
だからこそ統計を取ることは難しそうですが。

・晩婚・未婚・離婚原因の三仮説「女性の自立仮説」「相対所得仮説(稼得能力と生活水準の比率で結婚・離婚を判断)」「つり合い婚仮説(ジョブ・サーチ理論と同じく、マッチングがうまくいくかどうかが理由)」で日本では「つり合い婚仮説」が一番近いというのはなかなか実感としても納得できるなと思いました。

・三高(高身長、高学歴、高収入)は聞いたことがありましたが、3C(快適、通じ合える、協力的)という言葉は初めて知りました。

恋愛結婚と見合い結婚の区別はそれほど厳密ではないという意見(友人等を通じての紹介は見合い的な要素もあるし、見合いがきっかけで恋愛ということもある)はなるほどなと思いました。

・学歴がそれほど結婚の決定要因でなくなったというデータがある一方で、「名門大卒」「非名門大卒」「その他」という三極化になっていて、「名門大卒」と「非名門大卒」の間に大きな違いが出ているという指摘は面白いなと思いました。

・高水準職業同士、低水準職業同士が結婚する傾向にあること、特に女性側から見ると高水準職業の女性の結婚相手はほとんどが高水準職業であるという結果はなかなか興味深いなと思いました。

第3章 パワーカップルとウィークカップル

・パワーカップルの例で、「医師」「法曹」「研究者」「管理職」が挙げられて詳しく説明されていて、それぞれ母数の男女比が大きく異なることから女性はほぼ同職の男性と結婚し、男性は他の結婚相手を見つけることが多いということは納得です。
出会う場所が限られていて、しかも共感を得やすい相手を探すとなると同じ職場で結婚することが多いというのは、実際そうだろうなと思いました。

・ウィークカップルの例ではデータとして低学歴・低所得同士の夫婦が貧困世帯になることが多いこと、単身者や母子家庭には顕著にみられることが書かれていました。

第4章 結婚できない人たち

・生涯未婚率の上昇はよく聞く話ですが、その要因分析がされていて面白かったです。
結婚できない理由の第一位が「適当な相手にめぐり会わない」で第二位が「結婚資金が足りない」。

・未婚者の中には交際相手もいない者が多いこと、職場への帰属意識が弱くなってきたことから職場結婚が衰退していること、未婚期に友人が多くその中でも異性の友人が多いほど結婚しやすいという統計がある中で年齢を重ねると友人が減少する者が多いことなど、妥当かどうかはともかく、何となく当たっていそうなこともあるなと思いました。

・「異性と交際する上での不安」についても内閣府がしっかりアンケートを取って統計にしているというのは面白いなと思いました。
「自分は異性に対して魅力がないのではないかと思う」が第一位、「どのように声をかけてよいかわからない」が第二位というのは妥当な結果だろうなと思いました。

・年収300万円の壁が存在し、かなり明確に「既婚」「恋人あり」の数に差があるという統計結果はなかなか現実的だなと思いました。

第5章 離婚による格差

・離婚についてもいろいろな統計が出始めているというのはなかなか興味深かったです。
離婚の理由として「サーチ理論の問題のマッチング・ミス」「情報の非対称性による結婚後に分かる情報蓄積による不満」「不確実性(予期しない夫の収入減、妻の収入増など)」としているのはなるほどと思いました。

・失業率と離婚率に相関関係があること、「金の切れ目が縁の切れ目」というのは世知辛いですがそういうものだろうなと思いました。

・離婚後の養育制度が破綻しているといことは聞いたことがありますが、数字で見るのは初めてでした。
相手に収入が期待できなければ養育費を定めないというのは当然だと思いますが、貧困が原因での離婚が多いことと併せて考えるとなかなか深刻だなと思いました。

第6章 地域差を考える

・都市と地方の収入格差と結婚格差はよく聞きますが、これも統計で見たのは初めてでした。
結婚相手と出会う要因なども分析されていて面白かったです。
統計的にはそれほど大きな差がなかったことが逆に意外に思いました。

○つっこみどころ

・図表が読み辛いなと思うことがありましたが、著者も読み違えているところがありました(P.97)。

・データから推論するところまでは面白いだけでしたが、「~の状況から離婚しないことを勧める」「~より、勇気を出して数を打ってチャレンジしてもらいたい」などのアドバイスは学者らしい放言だと思いました。

・ところどころみられる施策提言は実現可能性が低そうな、弱者救済にしか目が行っていない意見だなと思いました。

・ところどころ、「男性は一部の者が複数回結婚することで他の者に女性が回らない」のような断定が他の統計からの推論と同じニュアンスで入っていて笑えました。

・この本の推論・結論の基になっている統計データに偏りがあり、海外の本に比べて根拠データの検討が弱く、ある統計データを見て即結論を出すところが全体的にみられ、各結論もこの本全体としても信憑性が薄いかなと思いました。
本の中でも「これだけでは結論は出せないが」などと留保しているところもあるので、著者も分かっていることかもしれませんが。

・あとがきで橘木氏が単著で出版しようと考えていたところを夫婦というテーマから女性の意見も必要ということで大学院生の迫田氏との共著にしたと書かれていましたが、ほとんど橘木氏が書いたか、迫田氏が橘木氏の意向を酌んで書いたかのどちらかだろうなと思いました。
時折「イクメン」などの現代語が書かれているところは迫田氏が協力しているのかもしれないなと思いました。

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