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【平成の経営】レポート

【平成の経営】
伊丹 敬之 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4532322596/

○この本を一言で表すと?

 著名な経営学者による平成の日本企業の動向について総括された本

○面白かったこと・考えたこと

・日本的経営に関する経営学の著作を出している伊丹さんによる平成の企業経営の総括本でした。
独自視点の人なので、日経の平成三部作でこの方が選ばれたのは意外でした。
日経新聞社から多数著作を出している兼ね合いもあったかもしれませんが、挑戦的な試みだと思いました。

・改めて平成30年の日本経済を企業経営面で概観すると、かなり試練の多い大変な時代だったのだなと思いました。

・日本企業がグローバル化にうまく対応し、リーマンショック以降の平成の後半10年は右肩上がりの業績で堅調だったと書かれていて意外でした。
製造業ではグローバル化にもうまく対応でき、確かな基盤を築いているそうです。
一般に反感を買いそうな内容も見られましたが、そういう見方もあるのかと思う点も多くあり、他の本と異なる意見が結構参考になったので読んでよかったなと思います。

<第Ⅰ部 平成三〇年間の日本企業>

第1章 バブル崩壊、そして金融崩壊

・バブルの大きさを、1985年から1989年まででどれだけ変わったのかを銀行貸出残高、日経平均、公示地価平均、乗用車新車登録台数の倍率で表していましたが、ものすごい差だなと思いました。

・バブルの慣性で株式市場が大幅下落した後も賃金上昇や設備投資上昇があったこと、金融機関の不正が立て続けに明らかになって、湾岸戦争の「金だけ出す」対応などもあって日本異質論が世界でも言われるようになり、円高なども続いてかなり日本企業にとって大変な時代だったようです。

・1997年につぶれるはずがないと思われていた都市銀行の一つ北海道拓殖銀行がつぶれ、山一證券が破綻し、アジア通貨危機も重なり、翌年にはロシアの国際デフォルト宣言、アメリカのLTCMの巨額損失、日本では日本長期信用銀行と日本債券信用銀行が破たん認定を受けるなど、平成最初の10年は試練が続いた時代だったそうです。

第2章 産業迷走、つかの間の成長、そしてリーマンショック

・1998年の金融崩壊後には銀行大再編があり、金融崩壊前の金融ビッグバンと呼ばれる大規模な規制緩和や消費税増税なども再編に大きな影響を与えたこと、アメリカ発のITバブルが1999年頃から起こって2001年頃にはもう収束し始めていたこと、日本はITバブルで部品産業が一時的に潤ったもののすぐに大幅赤字を出すことになったこと、2001年のニューヨーク同時多発テロで東京株式市場が1万円割れになるなど市場が大きく混乱したことなど、息を吹き返す間もなくまたトラブルに巻き込まれていった様子が書かれていました。

・銀行の不良債権処理、公的資金投入などもあり、「会社は誰のものか」という議論も大きくなって会社法の創設などもあり、ニッポン放送の買収問題なども話題になり、エンロン事件などでアメリカ流ガバナンスが機能しないことが露呈したにも関わらずその方向に進んでいったそうです。

・日本の大企業でも企業再編が盛んになり、中国への輸出が大幅に拡大して2007年には対米輸出を対中輸出が上回るようになり、産業のあり方が大きく変わっていったそうです。

・日本は失業率を低下させる代わりに一人当たり人件費を抑えることでワークシェアリングのように機能させていたという話も述べられていました。

・リーマンショックはそれほど日本に大きな影響を与えないという観測があったそうですが、日本産業はどん底を体験するまでに落ち込んだそうです。

第3章 どん底からの回復

・2008年、2009年は生産活動も急激に落ち込み、特に2009年はさまざまな経済指標でどん底になったそうです。

・日本の金融機関はアメリカ発の金融バブルにあまり絡んでいなかったために影響が少ないと思われていたそうですが、世界的な需要収縮と円高、資源価格の急落などが重なって日本の生産に多大なインパクトを与えたそうです。

・2009年9月に谷を越えて回復している中で、2011年の東日本大震災があり、にもかかわらずアメリカと欧州の信用不安により円高が進む異常事態となり、かなり大変だったそうですが、2011年ではそれほど生産が落ち込まずに耐えることができたそうです。
ただ、電機産業はずっと日本産業をけん引していたにもかかわらず、大きく後退し、自動車産業がグローバリゼーションをけん引してこの点でも産業構造は大きく変わったそうです。

・雇用と人件費はこの平成最後の十年では維持されていたそうです。最後の十年は純利益率も上昇し、「シャキッとして、地力をつけた日本企業」と表現されていました。

・最後に外患としてIT産業、特にソフトやプラットフォームでアメリカに大きく差をつけられていること、特に人材面での差が大きいこと、グローバリゼーションに反対する波が世界各国で起きていること、内患として設備投資不足と海外大型M&Aの増加と失敗が挙げられていたものの、波瀾に耐えることのできる日本企業と前向きに評価していました。

<第Ⅱ部 世界、技術、ヒト、カネの三〇年>

第4章 アメリカと中国のはざまで

・平成の30年間で日本プレゼンスは相対的に落ちていったこと、中国経済の大きな成長などが最初に挙げられていました。

・日本円の他の通貨に比べての上下が激しいことで、企業としては対応が非常に困難であったこと、日本は輸出より海外生産を伸ばすことで対応していたこと、アメリカ依存から米中均等に現地法人売上や輸出の比率が変わっていったこと、自動車の現地法人売上が電機に対して大きく上回るようになったこと、日本の自動車産業はドーナツ型ではなくピザ型グローバリゼーションで産業の空洞化を招かず、中核技術を日本に残したままグローバル展開していったことなどが述べられていました。

第5章 複雑性産業がより中核に

・日本の産業は平成の30年間で複雑性産業化していったという結論が述べられていました。
技術的複雑性の高い産業へのシフトが顕著だったそうです。

・日本の企業が得意とする方向で、製造工程の技術に競争の核があり、総合性や調整性が求められ、異種技術の融合が求められる産業であり、現場学習・自律的調整・情報融合などが優位に働いたそうです。
ただ電機産業においてはデジタル化とIT・インターネット化という外部の技術環境の変化に対応できなくなったことが大きな要因で敗北したようです。
このIT・インターネットへの対応は今後全産業のリスクになり、またその人材の供給の少なさは今後も顕著であり、かなり苦戦を強いられると述べられていました。

・アナログ的な化学産業、食品産業では日本はまだ強みを持っていて、コモディティと複雑性セグメントの組み合わせで対応できてきたために平成の30年間でも強かったそうです。幅広い技術基盤とアナログの強さは健在なので、ITの補強をどうするかが課題であると結論付けられていました。

第6章 変わる看板、変わらぬ基盤

・失業率・離職率が下がり、非正規雇用等の転換で一人当たり人件費が低減したこと、給与水準は不景気でも好景気でも変わらないために労働分配率が大きく変動することが、欧米との大きな違いであることなどが挙げられ、産業別の雇用環境なども平成の30年間で大きく変わらず、日本が「所属の国」であり、成果主義の導入等がブームになっても環境を維持する傾向にあったことも変わらなかったそうです。

・正規・非正規の格差もそれほど大きくなく、正規雇用されている者の間の格差(経営者と一般社員との格差等)もそれほど大きくないことも欧米との大きな差だそうです。

・高齢化で従業員構成は変わり、正規雇用が増えたものの退職後の再雇用が非正規雇用だったために正規・非正規比率もあまり変わっていないそうです。

第7章 積みあがる自己資本、増えない投資

・金融崩壊後、企業の自己資本比率が倍以上増加し、一方で設備投資比率が減少を続けている傾向が平成の最後まであったことが述べられていました。
一方で海外設備投資は進んでいるそうです。

・企業は株式市場を資金調達の場というより資金返還の場として自社株買いを進める傾向があると書かれていました。
株式市場は経営者の規律の場としての役割が大きいそうです。

第8章 トヨタと日産

・トヨタと日産の平成30年間の動きが比較されていました。
日産が系列の解体などしがらみを断つ方向性だったことと、トヨタが日本的経営最後の砦として日本的経営の原理を追求し続けたことを対比して、それがトヨタの力となったことを挙げていました。

・国内生産台数では両者ともにそれほど動きがなかったものの、海外生産台数については両者とも上がっているもののトヨタが際立った伸びを見せているそうです。

・海外販売台数については、日産は北米市場に偏っていて、トヨタはアジア比重を上げるなど市場拡大を続けていたそうです。

・ゴーン革命で大きく経営改善した日産は、ゴーン革命が立ち行かなくなり、立ち止まってしまった印象があるそうです。

・この本の原稿を出版社に送った一週間後にゴーンが逮捕される事件があったものの、この章のメッセージに影響はないものとして特に改稿しなかったそうです。

終章 日本の原理と神の隠す手を信じて

・伊丹さんが過去の著作で書いていた「人本主義」の日本的経営はまだまだ世界に通用するということがトヨタを例に上げて主張されていました。

・日本の企業は平成の30年間のほとんどの時期を設備投資しないままに過ごしていて、トヨタが例外であったと書かれていました。

・日本企業はあえて積極的な戦略をとる「オーバーエクステンション戦略」を採用してその困難や失敗からも学習して蓄積を生んでいく方向と、やってみないと何が起こるかわからない「神の隠す手」について述べて、想定外の困難がある可能性を考慮しても積極的にチャレンジするべきだと述べられていました。

・平成30年間で状況は大きく変わったものの、「悲観主義は気分に属し、楽観主義は意思に属する」として日本の将来も楽観視するとして締められていました。

○つっこみどころ

・リーマンショック以降、大企業だけでなく中小企業を合わせてもずっと企業は上り調子という話でしたが、実感と合わない気がしてなりませんでした。
政府の統計から結論を出していますが、その統計の取り方に問題があるのか、実際にそうなのかはわかりませんが。
消費、労働者が堅調とは書かれていなかったので、企業だけ一人勝ちのような10年が続いたということかもしれません。

・トヨタを大きく取り上げていましたが、トヨタ一社で日本的経営が成功しているような総括で、普遍性がない意見で締められていて残念でした。

・独自の経営学を提唱し、製造業寄りで日本的経営を称賛している伊丹さんの考えで書かれているので結構バイアスがかかっていそうだと思いました。
製造業に関する記述が厚めでサービス業に関する記述があまりなく、専門分野に引きずられている感覚もあります。
アメリカ等に較べて日本の労働分配率が大きく変動していること、給与水準を不景気でも好景気でも変えないことを、結構肯定的に書いていましたが、この点はかなり批判も多いだろうなと思えました。
第2章で失業率を下げるため、一人当たり人件費を下げることで雇用を確保したという意見がありましたが、かなり叩かれそうな記述だなと思いました。
他の同時代について触れた本との差がすごくて、何が事実で何が意見かの区分等が必要になる本かもしれないなと思いました。
そんな伊丹さんが経歴を見ると一橋大学の教授から国際大学の学長になっていて面白いなと思いました。