【ベースメタル枯渇―ものづくり工業国家の金属資源問題】
西山 孝 (著), 前田 正史 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4532354838/
○この本を一言で表すと?
金属資源に関する問題を分かりやすく詳細に解説している本
○面白かったこと・考えたこと
・時折ニュースに出てくる資源問題について、全体としての話や各論が初めて理解できたように思いました。ニュースが正しいかどうかの判断の軸も得られたように思います。
タイトルからしてベースメタルについてのみ解説した本と思って読み始めましたが、金属資源関係を全般的に扱っていてベースメタルの位置づけについてもよく分かりました。
・現未来の展望と近・中未来の展望を混同することの危険性についてこの本全体で自覚できました。
現在金属資源を必要とするとして、必要となった時の対応策の成果は数年先、というギャップについて考えていない政策、ニュースが多いことなど、この判断が漏れていてもなかなか気付かないものかもしれません。
1章 誤解されている資源の枯渇
・近・中未来の展望に重要となる「準経済的資源量」の考え方は重要だなと思いました。鉱物の場合には採掘のしやすさ、濃縮のしやすさなどによるコストと価格のバランスでコストに見合う資源量が変わってくるというのは、技術要素も含めると将来予測はかなり難しそうだなと思いました。
・インフラ整備に必要な銅が今後整備していく国家の発展と比較すると大いに不足するというのは、中進国や発展途上国の発展にとって意外なボトルネックになりそうだなと思いました。
・レアメタルがその採取を目的として取れるもの以外にバイプロダクト(副産物として生産)として取れるものがあり、何にとって必要か、どのベースメタルの副産物かなど、複数の変数が存在して将来予測が難しそうだなと思いました。
2章 レアメタルの価格高騰と供給システムのボトルネック
・製品の原材料として占める割合が小さいレアメタルがその総供給量の少なさから、主要生産国の規制の影響、利用する産品の急激な生産量増加、投機など、いろいろな要因に大きく価格が左右されるというのは利用する側からすると供給の確保が大変そうだなと思いました。
3章 意外と知られていない金属資源の基礎
・学生の頃に習った周期表の知識が実際の金属資源の理解に役立つことが何となく嬉しくなりました。
加工前の鉄鉱石などがどのような組成で存在し、どのように加工して取り出すのかは詳しく知らなかったので勉強になりました。
4章 制約の多いリサイクルと備蓄
・環境関係の本や未来予測本でよくリサイクルやアーバンマイニング(都市鉱山)の話が出てきて、将来かなりの割合を占めていくように書かれていることが大きかったですが、コストと見合うのかどうかイメージが持てませんでした。
なので、現在の技術ではやはりコストが見合わないというのは大いに納得できます。
・供給の変化が大きい金属資源を備蓄して対応するというのは真っ当な案だと思いますが、変化によるコストと備蓄コストの算出がそれぞれ難しく、暴落や高騰を繰り返す中で管理していくことは企業レベルでは相当困難で、国家レベルでも大変そうだなと思いました。
5章 アジアの経済発展と需要予測
・アジアの経済発展による金属資源需要の増加、資源メジャーに金属資源の流れの大部分を押さえられていること、それにより日本の対応できる範囲が狭いことなど、なかなか大変そうだなと思いました。
需要予測自体は最終生産品の需要予測が立てば逆算できるので、まだ簡単そうだなと思えました。
6章 我が国の資源戦略をどのように立て直せばよいか
・金属資源の埋蔵量の偏在性、生産量の偏在性により、必要な資源を必要な時に得ることは元々自分が考えていたよりも大変そうだと思いました。
国際情勢の変化に大きく影響を受けそうで、その変化に対応できないリスクはかなり大きそうです。
・この本が提唱する現未来と近・中未来、レアメタルとベースメタルの掛け合わせ4パターンに対する資源戦略は、ざっくりと供給先の多角化・新規開発くらいにしか触れていませんでしたが、予め打てる方策としてはそれくらいしかないのかなとも思いました。