【生き残る判断 生き残れない行動】レポート

【生き残る判断 生き残れない行動】
アマンダ・リプリー (著), 岡真知子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4334962092/

文庫版も出ています。
【生き残る判断 生き残れない行動 (ちくま文庫)】
アマンダ・リプリー (著), 岡真知子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4480435735/

序文 人生は融けた金属のごとくなって

 災害時にどのようなことが起こるか、その経験値は被災者が持っている。
 政府等の救助までには時間がかかる⇒その救助までに対応するのは被災者自身
 災害時に起こることは想像の外にあるできごとである
 生存への行程 否認⇒思考⇒決定的瞬間

第1部 否認

○立ち遅れ―北タワーでのぐずついた行動

 災害発生時(9.11事件時)、そこにとどまる以外何もしたくなくなる
 火災現場でゆったりとビールを飲む客
 パニックよりものろい反応がよく見られる
 否認の兆候・・・笑い、沈黙
 9.11事件の時、階下へ向かうまでに平均6分。45分の人もいた
 不自然なほどの余裕(身体障害者に手を貸す、電話をかける、PCをシャットダウンする)⇒正常化バイアス
 人の脳は過去の情報から未来を予測する⇒あまりに想定外だと控えめな反応をするという過ちを犯す。
 事件の生存者の4割が脱出前に私物をまとめていた。
 整然として、普段よりも親切になる
 恐怖に満ちた現状認識と機械的な服従の間を揺れ動く
 「解離」・・・起きたことを起きていないかのような反応を示す
 求心性の錯覚・・・自分のすぐそばでしか起きていない(規模が小さい)と思い込む
 「否認」は動きをのろくする。また、気持ちを落ち着かせて動き続けさせる。

○リスク―ニューオーリンズにおける賭け

 人はリスクの度合いを1日に何百回も測っている(無意識も含めて)
 経験が必ずしも良い教師になる、とうわけではない⇒「カトリーナ」の前の「カミール」に耐えた経験が甘い認識を呼んだ
通常は「リスク=確率×結果」
災害時は「リスク=確率×結果×不安あるいは楽観」「不安=制御不能+馴染みのなさ+想像できること+苦痛+破壊の規模+不公平さ」
恐怖のヒエラルキー:人々が求めているのは確率的な安全ではなく感情的な安全
自然の脅威を人間が引き起こした脅威ほど恐れない。
 実際の体験は公式の警告よりも説得力がある(ハリケーンの被害より避難による渋滞)
自信過剰:家、車などに対して。また自分が危険な目に会う確率は小さいと考える
 ⇒ただし、この自信過剰が困難に立ち向かう助けになることもある(行動を起こしやすくなる)
 ⇒不安などの情動も人間の頭の中に刻み込まれた知恵として役立つ(意思決定のもとになる)
 感情を要因として含めれば、人間のリスク方程式は精度の高いものになる。
警告の出し方も重要:「なぜ」がわからないと人は行動に移せない(酸素マスク、手荷物所持)
警告する側とされる側の相互不信⇒乗り越えるには「イメージ」
 人間は二元的な考え方をする(何かが起こるのだろうか。起こらないのだろうか。)
 人は自分の身に良いことがあると想像するとより危険を冒すようになる。(賭博師、麻薬常用者)
 ⇒良いことがあると想像すると脳の「側座核」が活性化⇒危険を冒す
 ⇒悪いことがあると想像すると脳の「島前部」が活性化⇒危険を回避する
シンプルな仕組みが有効でも役人は複雑な仕組みを好む⇒大衆に伝わらない
テレビニュースによるストレス⇒見る時間が長ければ長いほど大きいストレスを体験する。⇒映像より文字情報(新聞など)の方が感情を刺激せず、冷静に判断できる。

第2部 思考

○恐怖―人質の体と心

恐怖の生理学:ホルモンの発生により超人的な活力を得る。また回りの状況を判断できないような状態に陥る。
脳の扁桃体:2つの方法で危険を知る。「低位の道」・・・迅速だが大雑把な処理体系。「高位の道」・・・遅いが精巧
恐怖反応:肝要でないいくつかの体機能を放棄する。時間と空間の分離「解離」
極寒や酷暑の中では人間の行動の質は急速に低下する。
生死の関わる状況では視野狭窄になる(おかげで視力がよくなる)。タキサイキア(時間の奇妙なスローダウン)
聴覚も著しく低下する。
伝説の拳銃の名人:意識を排除して潜在意識を有効活用
生存ゾーン:必要な行動を取れる領域。経験と訓練で広げることができる。
視野狭窄:高ストレス下における注意力の欠如。十分な訓練をしなければなりやすい。
脳に記憶させる:触覚(反復訓練)で可能。準備の重要性
呼吸:落ち着くために呼吸を整える。
ドミニカ大使館人質事件の顛末:テロリストと人質が協力関係に。(ストックホルム症候群)恐怖を双方が感じていて全く異なる立場でも類似点があった。

○非常時の回復力―エルサレムで冷静さを保つ

極度の緊張状態において、動けない人と恐怖の隣に冷静さを保てる人がいる。
生存者のプロフィール:体型、身体能力、性別、人種、収入・・・状況や背景によって異なる。
回復力の資質=三つの長所⇒健全で積極的な世界観⇒導くものは「自信」
・人生で起こることに自らが影響を及ぼすことができるという信念
・人生に波乱が起きてもそこに意義深い目的を見いだす傾向
・いい経験からも嫌な経験からも学ぶことができるという確信
ありえないほどの自信にあふれている人(一般的には傲慢、自己評価が高い、自己陶酔)は災害時に目を見張るほどうまくやっていく傾向あり。
強い自尊心を持っている人たちは比較的回復しやすい。
IQが高い人の方が心的外傷を受けた後もうまくやっていく傾向がある。
特殊部隊の兵士は常人ではない:ストレス耐性が非常に強く、血中の化学物質の組成も異なる。
何事もないときに解離体験をした者は特殊部隊に入隊できない可能性が高い。
海馬の大きさが回復力を決めている(比例している)

○集団思考―ビバリーヒルズ・サパークラブ火災でのそれぞれの役割

緊急事態に陥った時、周りの自分に近い人間に確認する傾向がある。
災害では集団で動く傾向が強くなり、通常よりも礼儀正しくなる。混み合った廊下でも静粛に行動。
生物学的に集団でいると安全・安心という意識がある。
避難経路を考えるときに重要なのは物理構造ではなく人の行動。
火災の避難訓練の必要性:立ち止まってじっくり考えていると間に合わない(反射的に行動する必要がある)
救助の主役となったバス・ポーイ:クラブのヒエラルキーに影響を受けていない、利害関係がないことによる意思決定の自由度
役割への固執:「店員」と「客」・・・客だから救助に動かない。
従順な群衆:集団にはリーダーが必要となる。強いリーダーは意思決定が速い。
気が動転した人間には単純な指示が必要。
社会的なネットワークが有効。隣人が隣人を助け合う。SNSの有効性。
⇒自分の財産より共同体を優先できる団体は回復力がある。隣人の名前も知らないような大都市ではめったに到達しない領域。

第3部 決定的瞬間

○パニック―聖地で殺到した群集

○麻痺―フランス語の授業で死んだふりをする

○英雄的行為―ポトマック川での自殺未遂

ちょっとした手助けなら明確な進化上の理由(集団維持本能)があるが、自分の生命を危険にさらしてまで救おうとする。
パニックという機能不全、それより多い麻痺という行動停止。「英雄」という機能不全もほとんどの災害で発生する。
英雄たちの判断:論理的ではなく「そうせざるをえなかったから」
英雄たちの自覚:自身の人間性よりも状況により「英雄」になった
英雄たちの資質:遺伝的、性格、文化的、信仰、政治・・・これらは理由にならない。
両親との関係が密接である、多様な友人を持っている傾向は強い

結論 新たな直感を生みだす

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