【悪童日記】【ふたりの証拠】【第三の嘘】レポート

【悪童日記】

【悪童日記】
アゴタ クリストフ (著), 堀 茂樹 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4151200029/

○この本を一言で表すと?

 戦前・戦後のハンガリーで双子の兄弟が厳しい環境の中生き抜いていく話の本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・かなり重たい設定、重たいテーマの話でしたが、淡々とした筆致で何かが起きた時でも考え、即行動して切り抜けていく話が書かれているからか、話の内容は爽やかではないのに飄々とした爽やかさのようなものを感じました。

・戦前・戦後のハンガリーの話だということがわかっていると、当時のヨーロッパの歴史が書かれた本を今までに読んだからか、ある程度背景が理解できてより深く読めたような気がしました。
フィクションも混ぜていると思いますが、当時の雰囲気や感覚なども伝わってくるように感じました。

・自身の経験と重さなどは大きく異なるものの、重なるような話もあり、そういった中で双子の兄弟という相談し、協力できる仲間がいて問題に対応できるところが羨ましくも感じました。

・母親、兎っ子の母娘、父親などの死が淡々と書かれ、それに関わっている双子がそれまでの訓練で鍛えられた精神で踏み越えていくところは強さを感じました。

・最後の衝撃的な双子の別れのシーンがさらっと書かれていてそこだけでも強烈な読後感が残りました。

【ふたりの証拠】

【ふたりの証拠】
アゴタ クリストフ (著), 堀 茂樹 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4151200126/

○この本を一言で表すと?

 「悪童日記」の最後から続く、残った方の双子の物語の本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・「悪童日記」の最後の衝撃的なシーンの直後から始まるとは予想していなくて、かなり驚きながら読み始めました。

・戦後から10年ほど経過したあたりで、ハンガリー動乱の話が物語と交わって、出てくるだろうなという予想が当たって面白く感じました。

・出てきた人物の末路がかなり予想しやすくありましたが、それでも淡々とした書かれ方ながらそのシーンが鮮明に思い浮かべられ、特にマティアスの話はかなり感情を揺さぶられました。

・最後の章で双子のもう一方が描かれ、それまでの内容だけでなく「悪童日記」の内容まで物語上のフィクションなのかどうかを曖昧にしたままで終わっていたのが予想外で驚きました。

【第三の嘘】

【第三の嘘】
アゴタ クリストフ (著), 堀 茂樹 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4151200169/

○この本を一言で表すと?

 前二作の内容をフィクションとして扱う双子の最後の物語の本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・国外に脱出した方の双子、国内に残った方の双子のそれぞれの物語の二部構成になっていて、年老いた現在と若い頃の話を交えて話が展開されていました。

・「悪童日記」「ふたりの証拠」の話全体がフィクションで現実はこうであった、という形で最初から最後まで通され、同名の登場人物が別の国の人物になっていたり全く異なる配役にあてられたりしていて、前作の読者を混乱させながら読ませるスタイルかなと思いました。
それでいながら、確かにこの物語は終わった、と実感できる終わり方だったのが印象深かったです。

・原作の出版がこの本だけ冷戦後だったので、その変化の背景なども描かれるのかなと予想していましたが、直接的な描写はなく、それでも自由化が進んでいるところなどが、双子が高齢になったことの実感と交えて描写されていたのが興味深かったです。

【三部作を読んで】

・「悪童日記」「ふたりの証拠」「第三の嘘」を続けて読んで、「ふたりの証拠」は「悪童日記」の設定を借りたIF物語、「第三の嘘」は更に二作の設定を借りたIF物語のような、それぞれ全く違う読後感の別作品のように感じました。
「第三の嘘」の解説で、翻訳者が著者に、「悪童日記」は元々続編を書くつもりがない完結作品だったこと、「ふたりの証拠」を書いた時もそこで完結するつもりであったことを聞いたことが書かれていて、ものすごく腑に落ちて、「最初から三部作の最後で考えていたのではなかった」ということに何だかほっとした気持ちを覚えました。

・「ふたりの証拠」も「第三の嘘」も面白かったですが、「悪童日記」だけで止めておけばよかったと思う人も一定数いそうだなと思いました。

・三部作を通して一定の倫理を踏み外す、踏み外した人の話が多く出てきましたが、そういった人への眼差しも書かれ方が中立で、どこか温かい見方でもあるように思いました。
生まれた経緯や生まれ持った障害などに対して否定する人の描写はあっても、必ずそれを肯定する人も描かれていたように思います。

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