【日本霊異記 全訳注】レポート

【日本霊異記(上) 全訳注】
中田 祝夫 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4061583352/

【日本霊異記(中) 全訳注】
中田 祝夫 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4061583360/

【日本霊異記(下) 全訳注】
中田 祝夫 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4061583379/

○この本を一言で表すと?

 奈良時代後半に書かれた日本最古の説話集で、仏教を広めるために因果応報について例示した本

○面白かったこと・考えたこと

・日本史の教科書に名称だけ出てきた「日本霊異記」を読めてよかったです。

・紀伊国(和歌山県)を舞台にした説話の割合が多くて意外に思いました。
解説を見ると著者の景戒の出身地だったとか。
日本霊異記が最初に世に出たのは787年で、空海が高野山の下賜を受けたのが816年だそうなので、高野山開山以前も和歌山県が割と栄えていたのかが気になります。

・仏教を広め、信心を得るために、因果応報についての説話、それもすぐに応報が返ってくる説話を集めて「仏教を信じれば得をする。仏教を信じなければ痛い目を見る」ということを分かりやすく知らせようとする意図が伝わってくるなと思いました。
何が正しいか、何が間違っているかが分かっていない状態にある民衆が、こんな説話を聞かされまくったら「仏教を信じておかないとマズイ」と思いそうな気がします。

・生まれ変わりの早さが意外でした(死んだ後すぐに牛に生まれ変わったり)。

・天皇や皇族でも扱いが悪く書かれていたり、朝廷が認めていない私度僧も尊重されていたりするところは、「古事記」や「日本書紀」のように朝廷側が編纂した書物と違うなと思いました。
こういった内容の書物が1200年以上を経た現代にまで伝えられているというのは不思議な気がします。

・ほとんどの説話が後世の「今昔物語集」を中心とした書物に集録されているそうで、仏教の説話としてではなく、物語・民話として伝えられてきた一面もあるのだなと思いました。

・殺生についてかなり厳しい罰が設けられているなと思いました(魚、鳥、兎でも応報で殺される)。
現代の日本仏教のイメージとかなり違うなと思います。
徹底した菜食主義者で、虫も殺さないように常に口を覆い、日が暮れると食事をしない(間違って虫を食べないため)というジャイナ教が思い浮かびました。

・一方、僧であれば多少は許す、指摘した者を逆に罰するという方向で、著者が僧であるだけに寺や僧がかなりひいきされているなと思いました。

・中巻の第二十五で、閻魔大王の使いが迎えに行った衣女Aにごちそうを受け、同姓同名の別人の衣女Bを代わりに連れて行ったところ、それがばれて代わりの衣女Bが元に戻されようとするが既に死体を焼かれ、元々死んだ衣女Aの方の体に戻り、両方の家の財産を受け継いだという話は、ごちそうした衣女Aは全く報いられていないなと思いました。

・下巻の第六で、高僧が体力回復のために魚を食べたいと弱音を吐いて、魚を採りに行ったら信者に疑われ、「これは法華経だ」と誤魔化したら本当に魚が法華経に姿を変えて、それを見てその信者が感動して信心深くなった話は、ちょっと高僧に都合が良すぎだなと思いました。

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