【幕末歴史散歩 京阪神篇】
一坂 太郎 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121018117/
○この本を一言で表すと?
京阪神地域の幕末トピック集の本
○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
・かなりのトピックが挙げられ、この本以外では読んだことのなかった初見の人物についても知ることができ、興味深かったです。
・一方的ではないですが、どちらかといえば幕府側に寄った視点で書かれているように感じました。
「勝てば官軍」の諺通り、官軍側の方が幕府側より記述される機会が多いので、幕府側の人物の動きについて多く書かれていたのは勉強になりました。
・無関係なのに死んだ人や、直接関係がないのに責任を取らされて切腹した人たちのエピソードが多かったように思いました。
具体的に語られることは少ないように思えますが、この本でその一端を知ることができてよかったです。
・最後の「戊辰戦記絵巻」が、絵とわずかな字だけですが、戊辰戦争の状況が事細かにわかって良い資料だなと思いました。
第一章 天皇発見
・適塾の緒方洪庵や福沢諭吉については、司馬遼太郎の著作や福翁自伝などで知っていましたが、史跡の説明と一緒に述べられていて再確認できました。
・遭難してアメリカで過ごすことになったジョセフ・ヒコの話で、アメリカの2代にわたる大統領にあった後、日本に戻ってから攘夷運動で再度渡米してリンカーン大統領にも会ったというのは数奇な人生だなと思いました。
・橋本佐内と井伊直弼の派閥争いとその結果など、幕府内の勢力関係が少しずれていただけでも幕末・明治の状況が大きく変わっていただろうなと思いました。
第二章 「勅」争奪戦
・勝海舟が解説した神戸海軍操練所について詳しく書かれていて興味深かったです。天誅組が五条代官襲撃など、現地で民衆に慕われていた代官を襲ったことや代官の家族を閉じ込めたり民衆から搾取したりしたことが批判的に書かれていました。
歴史上の人物や出来事は、見る立ち位置によって評価が大きく変わりそうだなと改めて思いました。
第三章 倒幕強行
・南御堂前の切腹のエピソードがかなり印象的でした。薩摩藩御用商人の船を沈め、船主を斬殺したことを切腹したことで公表したことで大阪中の評判となったそうですが、実際は久坂玄瑞らが無実の山本誠一郎と水井精一に自殺を強要したそうです。
目的のために手段を選ばない、というのは歴史上いろいろあると思いますが、生々しい事例だと思いました。
・池田屋事変の夜に別の酒店で飲んでいた長州藩士の吉岡庄助が、池田屋の謀議と無関係なのに女将と一緒に殺されたことなど、疑わしければとりあえず殺すという殺伐とした当時の京都の雰囲気が感じられるなと思いました。
第四章 官賊逆転
・侠客が当時、武士の業務の下請けとして根を張っていて、朝敵となった旧幕府軍の遺骸などを埋葬していた話は、幕藩だけで手が回らなかった部分でどのように運営されていたかの一端が知れてよかったです。
・神戸事件は有名で知っていましたが、堺事件で死んだ11名のフランス人に合わせて20名中11名が切腹して果てたこと、残った者もその大部分が不幸な人生を送ったことなど、その藩に所属していたというだけでかなり重い罰を受けることになっていて、生まれる場所を選べなかった人の辛さを感じました。
第五章 開化と復古と
・何百年も前の楠木正成の人気が出て、湊川神社の再建に繋がるなど、時代に合ったエピソードに基づいて熱狂した人々が過剰に行動に起こすことなど、現代にも通ずるものがあるなと感じました。
○つっこみどころ
・時系列に焦点を合わせた構成だったからか、地理的に飛び飛びになっていて、最初の地図以外は散歩コースを定めるには向いていない本だと思いました。
・トピックの数が重視されているからか、一つ一つのトピックが余り掘り下げられておらず、物足りないところや、異論もありそうなところが多かったです。