ゼミナール経営学入門 第3版
伊丹 敬之 (著), 加護野 忠男 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4532132479/
第4章<多角化と事業ポートフォリオ>
1.多角化の論理
○範囲の経済、リスクの分散、成長の経済
・範囲の経済・・・企業が複数事業を同時に営むことで、それぞれ独自に事業を営むよりもコストが割安になる。
⇒副産物の利用、未活用資産の利用、情報的経営資源の共用
・リスクの分散・・・単一事業のライフサイクルに連動するより、それぞれが無関係または逆相関関係にある複数事業を営む方が全社リスクを分散できる。
・成長の経済・・・成長そのものがもたらすメリット
⇒コスト構造(若い人材の登用増)、組織が成長することによる心理的なエネルギーの供給。
○相補効果と相乗効果
⇒主に範囲の経済で出現
相補効果⇒物的資源の無駄のない利用、相乗効果⇒情報的経営資源の多重利用
⇒更に静的な相乗効果と動的な相乗効果⇒動的な相応効果(ある事業が作り出した情報的経営資源を別の事業が将来利用する)⇒多角化のキモ
2.選択と集中
○事業ポートフォリオの二つのレベルの戦略的決定
・個別事業の選択:どんな事業に進出すべきか?
①その分野の発展性(市場、技術)
技術⇒例)エレクトロニクス分野で事業としてはダメでも技術の蓄積
②その分野での企業の競争力⇒既存分野との共用範囲
市場共用⇒参入容易、差別化困難、技術共用⇒参入困難、差別化容易
③その分野から他分野への波及効果⇒リスク分散、成長の経済等に
・ポートフォリオ全体のレベルの決定
↑本来はこちらが個別事業の選択より先であるべきだが難しい
○集中の論理
集中<>横並び、再投入(稼いだところに投入する)⇒組織の論理から起こる
集中は、資源集中による差別化や組織の焦点を定める(方向づけ)のために必要
選択と集中により、全体の性格付け⇒企業ドメイン⇒注意の焦点決定
3.企業ドメインと事業間関連性パターン
○二つの事業のポートフォリオ・マネジメント
・ポートフォリオ全体の性格づけというマネジメント
・事業間の資源配分のマネジメント
○企業ドメインの意義
企業ドメインは「多角化の広がりの程度」と「企業のアイデンティティ」を決めている
設定の三つの意義
・企業の意思決定者の注意の焦点を限定する
・どのような経営資源の蓄積が必要かについての指針を与える
・企業全体を一つの組織とする一体感をつくる
○ドメインの表現
顧客軸、機能軸(役割)、能力軸(技術)
⇒企業ドメイン設定
⇒未来への方向性と広がり、自社の特徴、手触り感覚 (P.113)
○事業間の関連パターンの決定(P.114)
・集約型・・・事業間の距離が近く、相互に関連し合っている。範囲の経済の効果を狙う。
・拡散型・・・成長の経済とリスク分散を狙う。
4.資源配分によるポートフォリオ・マネジメント
○資源配分の仕掛けの重要性
事業構造を決めても資源配分の仕掛けを決めなければ動かない。
現実的であるがゆえに、企業内の利害や考え方の違いが表出し、組織内対立も生まれやすい。
○積み上げ方式とその問題点
ボトムアップであるがゆえに統制が取れない。
○PPMの枠組み(P.119)
○GEビジネス・スクリーン(P.123)
<演習問題>
1.ビール工場の工場跡地の不動産利用と技術のバイオ・医療品分野への多角化
範囲の経済の源泉、範囲の経済のタイプ、さらなる多角化への発展性の三つの観点から比較
不動産利用⇒相補効果、バイオ・医療品分野への多角化⇒相乗効果
不動産利用は物的資源の利用、多角化は情報的資源の利用
不動産利用はその事業による経営ノウハウ蓄積はあるが、本業に対する資源蓄積は見込めない。
多角化は本業と多角化した事業相互に影響し合って技術を蓄積でき、それぞれ転用可能。
2.既存事業と距離が短い分野への多角化のメリットとデメリットを短期、長期に分けて論じる
短期のメリットは参入が容易であること、デメリットは発展についての心理的効果に乏しいこと
長期のメリットは本業と多角化した事業で相互に情報的資源を蓄積できること、
デメリットはリスク分散・成長の経済の効果に乏しいこと
3.企業のドメイン設定時期
事後・・・ドメインを設定しやすいが、「組み合わせの妙」の選択が限定される
事前・・・「組み合わせの妙」を考えて進出することができるが、参入前に検討は実質的に困難
中間・・・ある程度の検討の上で仮説を立て、仮説に基づいてテストとして参入し、効果測定をする、
スパイラルなドメイン設定が現実的か