【続・わが闘争―生存圏と領土問題】
アドルフ・ヒトラー (著), 平野 一郎 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4043224036/
○この本を一言で表すと?
未編集の「わが闘争」続編
○面白かったこと・考えたこと
・「わが闘争」が出版された後すぐ(1928年夏)に口述筆記され、出版されなかった本ということで、「わが闘争」がかなり整理されていたのに対し、未編集らしさが出ていてなかなか興味深かったです。
「わが闘争」を読み終えた後、ヒトラーだけじゃなくて見識の高い別の人物も関わっていてそちらの方が主に書いていたという事情などがあってもおかしくないなと考えていましたが、若干荒い文章ながら「わが闘争」と内容の一貫性があり、さらに話を進めたところもあって、「わが闘争」はやはりヒトラーの本だと考え直しました。
・未編集だからか、「わが闘争」より人種の優劣に対する過激な意見が調整されずにそのまま残されているのかなと思いました。
・「わが闘争」の第一部(上巻)の売れ行きが出版以来最悪で、ヒトラーの新著が出版されると「わが闘争」と競争になるだろうという配慮と党の資金繰りに苦しんでいたという理由でこの「続・わが闘争」が出版されなかったというのはなかなか面白いなと思いました。
・翻訳者の平野一郎氏は「わが闘争」の共訳者であり、この「続・わが闘争」を一人で翻訳しています。
原文だけでなく海外の訳文なども都度参照しながら2004年にこの本を訳し終え、2006年に亡くなられたそうです。
ヒトラーの研究だけをやってきた人ではないようですが、自分の人生のいくらかはヒトラーの研究に捧げてきた人なのだろうなと思いました。
・副題の「生存圏と領土問題」の通り、ほとんどがこのテーマで語られていました。後半は外交問題について語られていますが、それもこのテーマに沿った外交について語られていました。
・南ティロール問題など、「わが闘争」が書かれていた後すぐの事情についても触れられていました。
・イタリアとの利害関係について書いた第十三章が全体の2割弱の長さで、この章以外でもイタリアについて触れている箇所がドイツの次に多く、イタリアとの同盟はかなり決定事項に近いほどに検討されていたのだなと思いました。
・ドイツ、イタリアの次にフランスの話が出てきますが、ここまで敵視していたのかというほどに戦う必要性について触れられていました。
「わが闘争」だけでなく「続・わが闘争」も出版されていて、フランスでも読まれていたらさすがにフランス政府も日和見はしなかったのではと思いました。
○つっこみどころ
・未編集なだけあって、「わが闘争」ほどの緻密な論理がないなと思いました。
・ほとんど「わが闘争」と内容が重複していて、「わが闘争」に載っていない部分をまとめたら小冊子くらいになるのではないかと思いました。
この辺りはいわゆる今の「成功本」の著者の手法に似ているなと思いました。
・「わが闘争」と同様、訳者序説・訳注・あとがきで、肯定的な意見はほとんどないなと思いました。若干見当違いではと思われる批判も見受けられました。
この傾向はヒトラーという悪の象徴的な人物を肯定するわけにはいかないという「事情」みたいなものを強く感じられました。
・訳注が「わが闘争」のような小さな字と違って本文と同じ大きさの時になっていました。
見やすいのはいいのですが、せめて「わが闘争」の下巻と同じくらいの厚さにしようという出版社の意図があったのかなとも思いました。