【ゼミナール 経済政策入門】前半レポート

【ゼミナール 経済政策入門】
岩田 規久男 (著), 飯田 泰之 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4532133106/

○この本の前半を一言で表すと?

 あまり複雑な数式を使わずに経済学について説明し、経済政策の事例とともに紹介した内容

○興味深かった点

・微分・積分や複雑な数式は「詳細は他の参考書を参照」として、一次関数レベルの数式で理論を説明してくれていたので分かりやすく、なんとかついていけました。

・「大停滞(タイラー・コーエン 著)」で「実際の生産性と見かけの生産性のギャップの要因として政府部門、医療部門、教育部門を挙げ、これらは価値を数値化することが難しいことから生み出した価値ではなく支出の額でGDP等に表されている」と書かれていました。
医療部門の大きい日本のGDPは実体よりかなり大きく評価されるのかなと思いました。(P.19~23)

・経済学の他の本で、「費用曲線と価格の交点が最適点」のような話がよく載っていて、「利益ゼロで最適?」と疑問に思っていましたが、経済学の利潤と企業会計の利潤は異なり、費用に正常利潤(企業が競争市場にとどまるために必要とする最小限の利潤)を含めて考える、書かれていてやっと納得がいきました。(P.30)

・戦後日本の成長と自由競争を結びつけて考えているのは面白いなと思いました。(P.80,81)

・東電の電気料金の計算方法として出てくる総括原価方式の話が出てきてわかりやすいなと思いました。
相反するインセンティブとして書かれている「政府に予想事業費用を高めに申請する方法」というのはまさに東電が非難されている部分だと思いました。(P.94~96)

・国営事業の民営化について、そのタイミングは需要の増大と規模の経済の消滅と書かれていて分かりやすかったです。(P.105,106)

・国営企業を民営化したときの問題が「規模の経済」「接続料金(インフラの利用料)問題」「ユニバーサル・サービス(僻地も含めて全体にサービス)とクリーム・スキミング(儲かるところだけに集中)問題」とまとめられていて分かりやすかったです。(P.109~114)

・外部性についてはよく本などに出てきますが、正負の外部性、外部費用を通常の費用と合わせた「社会的限界費用(=私的限界費用+限界外部費用)」の考え方が載っていて分かりやすかったです。(P.116~120)

・よく目にする「コースの定理」の説明と、負の外部性の解決策の種類がまとめられていて分かりやすかったです。(環境税、補助金、環境規制、排出権)(P.121~143)

・「地域公共財の足による投票」(住民の移動による地域政府の選択)の話は聞いたことがありますし、行きつくところが道州制の話かなと思いますが、日本では中央からの地方交付金などにより現在働いていないこと、働いているアメリカでも問題があること(地域格差の助長)などが書かれていてなるほどと思いました。(P.152~154)

・第5章で書かれている不完全情報、期待効用仮説、情報の非対称性、逆選択、モラル・ハザードなどの話はなんとなくしっていた内容ですが、より整理されて頭に入ってきました。

・危険回避者と危険中立者の間での保険売買とリスクプレミアムの仕組み、保険業者は「大数の法則」により危険中立者となれることなどは個別には知っていても流れとして知るとより納得がいきました。(P.162~167)

・逆選択とその対応(シグナリング)やモラル・ハザードとその対応(望ましくない行動へのインセンティブ低下)は分かりやすいなと思いました。(P.168~172)

・経済政策としての不完全情報・非対称情報への対策について、情報開示が挙げられていますが、その中の会計監査制度の不備について特に挙げられているのが印象的でした。(P.173,174)

・「マクロ・ショック」という言葉はよく聞いたことがありますが、「大規模災害や失業のようにリスク・プールが困難なショック」という意味だということは初めて知りました。(P.175)

・銀行の預金保険制度によるモラル・ハザード、有限責任制と危険愛好行動はわかりやすい事例だなと思いました。(P.179~185)

・金融市場と情報の経済学の関係の事例は、情報の非対称性が借り手側と貸し手側のどちらにとっても都合が悪いというわかりやすい事例だなと思いました。(P.185~190)

○つっこみどころ

・第2章~第4章で、個別物品税や関税など政府が課税した額は別の形で還元されるから総余剰に含める、という考えが前提となっていましたが、この前提をそのまま受け入れるには政府の業務執行の正当性や透明性がかなり確保されていないと難しいなと思いました。

・「経済学的にこういう理屈だから、この政策が有効」と言い切っている箇所が随所にありました。
理論として正しければ大きな枠組みを考える上では有用だと思いますが、前提となっている条件が大いに異なる現実にどうすり合わせるかについて考えるべきではないかと思いました。

・P.173で「一般の投資家は、情報が開示されても内容を理解することは困難です。そこで、企業はこれらの情報について、国から免許を受けた公認会計士の会計監査を受けなければなりません。」と書かれていますが、「情報の内容理解が困難」と「企業が会計監査を受けること」の繋がりはかなり薄いと思います。

タイトルとURLをコピーしました