
【進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線】
池谷 裕二 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4062575388/
○この本を一言で表すと?
中高生の質疑応答を交えて平易な文章で脳科学の様々な点に触れた本
○よかったところ、気になったところ
・対話ではなく、池谷氏がメインテーマの手綱を握りながらも生徒に自由に質問させ、池谷氏の広範な知識で対応していく内容でした。
メインテーマからそらさず、かつ質問内容も絡めて展開させていく池谷氏の学識はすごいなと思いました。
第一章 人間は脳の力を使いこなせていない
・「戦争があると脳科学が進歩する」の内容として、脳に弾丸が当たっても死ななかった人が増え、脳の一部がかけたケースについていろいろ調べることができるからというのはすごい因果関係だなと思いました。
・「報酬系」の話は聞いたことがありましたが、特定の動作で「報酬系」を刺激する実験をすると死ぬまでその動作を続けるほどの快感があるというのはすごいなと思いました。
・視覚と聴覚の神経を繋ぎ変えても機能するほど脳の適応力があることは初めて知りました。
指が多い人がどうやって通常より多い指を動かせるのか不思議に思ったことがありましたが、体に応じて脳が適応するという方向性があるのは興味深いなと思いました。
第二章 人間は脳の解釈から逃れられない
・錯覚や盲点の話から「人間は見るものを意識して選択できない」ことと「不十分な情報を自動的に補完する」ことに繋がっていて、なるほどなと思いました。
周辺視野についても実は色を識別することが視覚の構造的に不可能で、自動補完している話、死角にあって意識に残らないのになぜか「知っている」状態になる話なども興味深いなと思いました。
・抽象的な思考のためには「言葉」が必須であることについて、それ自体の意味と、「ウェルニッケ失語症」の患者が抽象的な思考ができなくなった事例などで説明されていました。
「言葉」の重要性についてより深く考えさせられました。
・扁桃体の話は「EQ~こころの知能指数」で自分は初めて知りましたが、そこでは恐怖を感じる器官として書かれていました。
実際には扁桃体は回避反応をさせる器官であり、恐怖を感じる場所は別だということは初めて知りました。
・自由意志と脳の指令の話はこの本の著者の後の著作「脳には妙なクセがある」で初めて知り、「自分の考えている事自体も自由意志でない可能性があるのか?」と恐ろしさを感じていましたが、実験の内容からごく限定された状況の、意思決定のようなプロセスではないことを知って安心しました。
第三章 人間はあいまいな記憶しかもてない
・記憶のあいまいさこそが人間の特徴で、重要な資質であることが書かれていて、なるほどなと思いました。
ある程度記憶することも生きていく上で重要だと思いますが、記憶力一辺倒でもだめなのかと思いました。
よく聞く「写真のように記憶して忘れない」能力を持つ人は、その能力ゆえのトラブルなどもあったりするのかなと思いました。
・脳で情報が伝わっていく仕組みが詳細に説明されていて興味深かったです。
個人的な話ですが、高校の時に生物学の授業でナトリウムイオンやカリウムイオンなどが出てくる箇所があって、どこのことだったかは忘れてしまっていたのですが、ここのことだったのかと納得でき、もう忘れなさそうです。
・グルタミン酸が情報伝達を促進し、GABAが抑制すること、促進する方向に進みすぎて起きる症状が「てんかん」であることなど、いろいろ勉強になりました。
GABAは一時期頭に効くお菓子で有名になったような気がしますが、情報伝達を抑制する機能とどうつながるのかなと思いました。
第四章 人間は進化のプロセスを進化させる
・「アルツハイマー病」の原因がアミロイドβだということは知っていましたが、どのようなプロセスでそうなるのかなどが詳細に述べられていて勉強になりました。
グリア細胞が神経細胞間の情報伝達物質の回収をしていて、アミロイドβがグリア細胞の機能を促進することで情報伝達を阻害することなど、知らなかったことがたくさんありました。
第五章 僕たちはなぜ脳科学を研究するのか
・脳科学を専攻する大学院生が、どういった経緯で研究するようになったのか、どういった意義なのかなどについて語っていました。
意外と何となくのような動機の人もいて、脳科学を専攻する以前のバックボーンも異なっていたりして興味深いなと思いました。
○つっこみどころ
・「はじめに」で、「本書の一部では・・・心理学や哲学の世界にまで到達しています。」とあったので、哲学にまでどれくらい踏み込むのかなと期待していましたが、最後までごく表面的な話以外は出てこなかったなと思いました。
