【ビジョナリーカンパニー4 自分の意志で偉大になる】レポート

【ビジョナリーカンパニー4 自分の意志で偉大になる】
ジム・コリンズ (著), モートン・ハンセン(著), 牧野洋 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4822249239/

○この本を一言で表すと?

  経営戦略よりリーダーシップに焦点を当てた本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・内容としては、「ビジナリー・カンパニー2」の続編というようなリーダーシップ論になっていました。
2と同様に具体的な事例を挙げて各内容が説明されていて、いろいろ考えるきっかけを与えてくれました。
訳者解説に書かれていましたが、ドラッカーを尊敬し、「ドラッカーの後継者」と言われるだけあって、ドラッカーの「マネジメント」に書かれているような内容と方向性が似ているなと思いました。

・全体として南極到達を達成したアムンゼンと達成できなかったスコットが例として挙げられていますが、その例が各章の内容を分かりやすくしていてよかったです。

・各章ごとに要約が載せられていて後で振り返りやすいなと思いました。

第1章 不確実性の時代に飛躍する

・この本で選抜した企業の選考基準が述べられていました。この構成はこの著者の書き方の特徴だなと思います。

第2章 10X型リーダー

・「ビジョナリー・カンパニー2」だと「第5水準のリーダーシップ」という名称で出てきた内容が新たに「10X型リーダー」という呼び方で書かれていました。
2では「謙虚で意欲的」という書かれ方で、謙虚である面がクローズアップされていましたが、この本では意欲的・主体的な面がクローズアップされていました。

・主要行動パターンの三点セット「狂信的規律(一貫した価値観・目標・評価基準・方法等について、徹底した行動の一貫性を示す)」「実証的創造力(不確実な状況に直面した時実証的な基盤をしっかりと築いてから大胆で創造的に行動する)」「建設的パラノイア(常に最悪の事態を想定して準備を怠らない)」は第3章から第5章で詳しく解説されますが、それぞれ重要な資質だと思います。

第3章 二十マイル行進

・良い状況でも悪い状況でも二十マイル進むということを厳守する「二十マイル行進」という表現はイメージしやすくてよいなと思いました。
悪い状況でも進むという「最低基準」としての話ならありきたりだと思いますが、もっと進める時でも二十マイルに抑えるというのはかなり主体的に維持するイメージだなと思いました。
「行ける時にできるだけ行く」という考えが一般的で、ダメな時と併せて平均化すれば同じ結果を出せそうな気もしますが、実際にはそうはいかないというのもイメージできます。
それを成功した企業が意識して実施していたというのは、企業の経営者にかなりの主体性が求められそうです。
この「二十マイル行進」の七つの特徴として、「明確な工程表」「自制心」「企業ごとの独自仕様」「他力本願ではなく自力達成型」「ゴルディロックス時間(ほどよいスピードを保つ)」「企業が自らに課す規律」「並外れた一貫性」を挙げているのは実践する基準として分かり養と思いました。

第4章 銃撃に続いて大砲発射

・銃撃で大体の照準を合わせてから大砲を発射するというイメージは、様々なテストを繰り返して実証した後で大胆に動くという「実証的創造力」の具体的な内容を分かりやすくさせているなと思いました。
それほど目新しい内容ではないですが、重要だと思います。
最近イノベーションが企業成長と相関しているかどうかは分からないという話を聞いたことがありましたが、同じ内容がデータで検証され、イノベーションの数では成功するかどうか分からないことが示されていました。

第5章 死線を避けるリーダーシップ

・「建設的パラノイア」の主要三手法「前もってバッファー(余裕・余分)を積み上げてリスクに備える」「リスクを抑える」「状況変化を察知して徹頭徹尾用心深くなる」は重要だと分かっていても、リスクが実現して痛い目に遭った直後でもなければ疎かにしそうなことで、これらに常に気を付けていればかなりダメージが少なそうだなと思いました。

・特に注意を払うべきリスクの三形態「死線リスク(企業を潰すか深刻な打撃を与えるリスク)」「非対称リスク(ダメージが利益よりも大きいリスク)」「制御不能リスク(自力で管理できない不可抗力に直面するリスク)」はそれぞれに重大で、またそれぞれに対応方法が違っていて、リスクを発現させないことの困難さが分かりました。状況が急変した時にズームアウト(状況から一度離れて客観的に把握する)してからズームイン(対処すべき目標に集中する)というのは、すでにいろいろな本で語られていますがやはり重要なことだと思いました。

第6章 具体的で整然とした一貫レシピ

・「SMaC(具体的・整然・一貫)レシピ」を憲法のように遵守し、また憲法のように本当に必要な時には変更しなければならないというのは、妥当だと思えるものの実行は難しく、また判断も難しい内容だなと思いました。
日本企業ではむしろ守り過ぎて時代についていけなくなるパターンが多いように思います。
この辺り、この本で変更手順を盛り込むべきとされている憲法を一度も変更されていない日本のイメージが重なって興味深いなと思いました。

第7章 運の利益率

・「運」という誰もが必要だと思いながら、定量化することが困難な要素を定義して定量化しているのは興味深い試みだなと思いました。
ある程度恣意的な判断が除けないのは仕方のないことで、そこからその「運」の動きに対する企業・経営者の動きを評価しているのも興味深かったです。

・運に対するリターンを「ROL」として、「幸運から高リターン」「幸運なのに低リターン」「不運なのに高リターン」「不運から低リターン」の四つのパターンを設定し、どのパターンで動けるかが企業の業績を決定的に分けているというのは納得できる内容だなと思いました。
これは個人に照らし合わせても該当し、いろいろ考えさせられる話だなと思いました。

・最高の「運」を「人間関係」としているのは、陳腐なほど使い古された内容かもしれませんが、この本の内容に裏付けされてかなり含蓄のある話だなと思いました。

○つっこみどころ

・「ビジョナリー・カンパニー」という日本向けタイトルを著者が同じだという理由で引き継いでいますが、この著作ではほとんど「ビジョナリー・カンパニー」という言葉が使われていないのが笑えました。
原題との乖離が激しいのもこのシリーズの特徴だと思います。

・分厚い本のように見えて、後半150ページほどが解説や脚注になっているのはこのシリーズの特徴ですが、その部分をサイトで掲載するなどして本を薄くしてくれればいいのになと思いました。

・著者のジム・コリンズ氏が「ビジョナリー・カンパニー」の1と2で書いた企業がかなり倒産したり経営が傾いたりする中で、「ビジョナリー・カンパニー3」で衰退の理由を書いたことでこのシリーズは完結したものと思っていたので、4が出版されてびっくりしました。
本の中で「過去に書いたことは間違っていなかった」と何度もフォローしているのが面白かったです。

・帯の「本書の内容」で「第7章 運の利益率」が抜けていて笑えました。

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