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【未来をつくる資本主義[増補改訂版]――世界の難問をビジネスは解決できるか】レポート

【未来をつくる資本主義[増補改訂版]――世界の難問をビジネスは解決できるか】
スチュアート・L・ハート (著), 石原薫 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4862761275/

○この本を一言で表すと?

 自然資本主義によるBOPビジネスとイノベーションについての本

○この本を読んで興味深かった点

・前半はありがちなサステナビリティに関する本だと思えましたが、第二部以降で「ネクスト・マーケット」以降で有名になったBOPビジネスについての新しい考え方や展開、開始時点ではうまくいっていたものの定着せず失敗した事例などの新しい情報について触れられていてよかったです。

・これまでに読んだことがある「ネクスト・マーケット」「イノベーションのジレンマ」「イノベーションの解」の著者と交流がある著者だけあって、これらの内容が適用された事例が多かったなと思いました。

第1章 企業責任からビジネスチャンスへ

第2章 衝突に向かう世界

・経済を「貨幣経済」「伝統経済」「自然経済」の3つに分けてそれぞれの経済の衝突やその対処について表し(P.73)、市場を「先進市場」「新興市場」「伝統市場」の3つに分けて環境汚染・資源枯渇・貧困に課題を分けるなど(P.76)、一つの大きな枠組みを分解し、その上で個別の問題と連動した問題について考えているのは整理されていて分かりやすいなと思いました。

第3章 持続的価値ポートフォリオ

・よく使われる「持続可能性」「持続的価値」という言葉から連想するキーワードを内部・外部の軸と現在・将来の軸で4象限に分けて分類しているのは、よく使われている割に曖昧に捉えられるこの言葉について考えやすくなっていいなと思いました(P.100,102,114)。
「持続的価値」を「汚染防止(内部・現在)」「プロダクトスチュワードシップ(外部・現在)」「環境技術(内部・将来)」「BOP(外部・将来)」の区分しているのもそれぞれの要素を検討するために有用だと思います。

第4章 環境技術と創造的破壊

・環境技術が大規模集中型の緑の巨人(グリーン・ジャイアント)と小規模分散型の緑の新芽(グリーン・スプラウト)に分かれ、デュポン、GM、ウォルマートなどの大企業がこれまで新興企業が担ってきた創造的破壊を自分で行う「食われる前に自分を食う」戦略を採っているというのは面白いなと思いました。

・ドライクリーニング事業一つとっても、既存の事業者は溶剤という汚染物質を廃棄する場所となっていて、化学教授のジョー・デシモンが率いるミセル・テクノロジーズが開発した安全な液体二酸化炭素を利用するハンガーズ・クリーナーズが土壌に優しい事業でまさに創造的破壊を行っているという話は章全体の話がイメージしやすくてよかったです。

第5章 ボトムアップ型のイノベーション

・「ネクスト・マーケット」の著者のプラハラード教授とこの本の著者の対話からBOPを考慮したビジネスの考え方が広まったというのは、後にとても大きな影響を与えた対話だったのだなと思いました。
第4章でよい事例として出していたGEのエコマジネーションをトップダウン型のイノベーションの限界という制約で考えているのは、上げて落とすイメージで面白いなと思いました。

・ピラミッドの底辺に向かっての躍進とそこからのボトムアップという考え方(P.169)は面白い考え方だなと思いました。
これは「イノベーションのジレンマ」に書かれている破壊的イノベーションを意図的に進めていく意味でより積極的だなと思いました(中国のギャランツの電子レンジなど)。

第6章 ピラミッドを底上げする

・「ネクスト・マーケット」で有望な企業として挙げられていたHUL(ヒンドゥスタン・リーバ)が「ブランド+小分け」で進めていたビジネスモデルが後発企業のニルマに迫られて改善せざるを得なくなったというエピソードは、「ネクスト・マーケット」を初めて読んだ時に「すごい!」と思った戦略もいずれ陳腐化するのだということがわかって、その時に良いと思われる戦略が後にも通じるかどうかが分からないということが身に染みました。

・また、阻害要因を特定し、取り除くという視点でBOP層のニーズに沿った事業を進めたメキシコのセメント会社のセメックスの話は「ネクスト・マーケット」でも書かれていましたが、持続可能性も含めて考えられた戦略が変化の多い時代でも長期間通用するという教訓であるように思われました。

・非営利組織として発足したキックスタートが安価な足踏みポンプを灌漑設備として利用できるようにして、導入した場合の費用対効果が高いものを開発できたことはすごいと思いますが、寄付だけではやっていけなくなり、一部営利化せざるを得なかったという話は、やはりビジネスとしての持続可能性も兼ね備えていないと、善意でやっている企業はその善意が途絶えた途端に企業の持続可能性に影響してしまうのだなと思いました。
ムハマド・ユヌスが提唱する営利事業でもNPOでもない「ソーシャル・ビジネス」という持続可能性のある社会事業というものはこういったことを解決する策になっているのかなと思いました(但し、ムハマド・ユヌスの「ソーシャル・ビジネス革命」を読んでも、結局どういった組織を構築すればいいのかは読み取れませんでしたが)。

第7章 活動領域の広い企業へ

・「ラダック」というカシミール地方の古代部族社会が、あらゆるものに用途を見出す社会として持続可能で生活水準が高い文化を築いていたにもかかわらず、GDPの考え方や環境汚染によりその文化が崩壊してしまった、という事例はこの本で書かれている通り、他の場所でも先進国側のルールが推し進められて起こってきたのだろうなと容易に想像できました。

・ラディカル・トランザクティブネスで末端ステークホルダーも見逃さずに視野を広げる(P.238)の話とその図は、確かに私自身も主要ステークホルダーしか考えていなかったなとはっとさせられました。

・世界5位のジーンズメーカーであるインドのアービンドが、ジーンズの手作りキット「ラフ・アンド・タフ」を6ドルで販売して成功している話は、まさに視野を広げて考慮されているなと思いました。

第8章 土着力を身につける

・「BOPバージョン1.0」と「BOPバージョン2.0」の差の話は、私自身が「ネクスト・マーケット」を読んで考えたのが「1.0」の方であるだけに、当時は表面的にしか読めていなかったのだなと恥ずかしく思いました。
BOPはパイが大きいという話と、どのように持続可能性を持ったビジネスモデルを構築できるかという話は全く違うものだなと思いました。

・現地の事業者などを巻き込んで事業を構築する話は別の本(どの本だったかを忘れてしまいました。直接は関係がないですが、「第3の案」でも同じような考え方が書かれていました)でも書かれていてなるほどなと思った記憶がありますが、さまざまステークホルダーを巻き込んだ事例が書かれてあってより理解を深めることができたように思います。

・「イノベーションの解」で書かれていた「利益は性急に求め、成長に対しては辛抱強く」という考え方をBOPに適用している記述は本当にその通りだなと思いました。ジョン・コッターの組織のリーダーシップ論「変革の8段階」でも6段階目で「短期的な成果を生む」ことが組織の目的を目指すモチベーションの維持に必要だとされていて、これとも整合的だなと思います。

第9章 イノベーション戦略を再埋め込みする

・BOPプロトコルの「①扉を開く②エコシステムを築く③事業をつくる」というステップ(P.291)はよく考えられているなと思いました。
本格的に事業を立ち上げるまでにこれだけ入念に準備すれば、予め起こり得る問題を早めに潰して成功率が高い事業を構築できるように思います。
ただ、この章の後半で書かれている三つの課題「①事業者の心理(思い込み、偏見など)」「②組織(BOP事業以外の組織の枠組みに飲み込まれる)」「③戦略(上位組織の戦略に飲み込まれる)」はなかなか厄介だなと思いました。
実際にうまく回っていたBOPプロジェクトが潰されているところみると、予め分かっていても避けがたいのかなと思いました。

第10章 持続可能なグローバル企業をつくる

・これまでの章の内容がまとめられていて、読み返すときはこの章を読めばほとんど想起できそうだなと思いました。
トップダウンが制約になり得ること、持続的イノベーションの限界などがデュポンなど、この本の前半でそれなりに評価した企業がこれらのことが制約になり、致命的なダメージになり得ると書かれていて、面白かったです。

○つっこみどころ

・翻訳ソフトなどで一括翻訳を試みたような日本語の間違いが多く、文脈から類推して真逆の意味になっているのではないかと思われる記述が散見されました(特に前半)。