【ヴェトナム新時代―「豊かさ」への模索】
坪井 善明 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4004311454/
○この本を一言で表すと?
ベトナム戦争から現代までのベトナムを日本人視点で書いた本
○この本を読んで面白かった点・考えた点
・ベトナムについて最初はIT系の記事から興味を持ち、「日本人に近い民族性」「日本人と同じように勤勉」というような印象から見て、実際にベトナムに行った人や仕事をした人の話を聞いて少し情報が修正されながらも日本に近いような印象を持ち続けていましたが、ベトナムに対する印象がガラッと変わりました。
・ベトナムは社会制度や政策では中国、産業的にはインド、実態的には発展途上国等の一面を併せ持った不思議な国だと思いました。
第1章 戦争の傷跡
・「ベトちゃん・ドクちゃん」のベトちゃんが2007年に亡くなり、ドクちゃんがプログラミングを習い、病院の事務職員として自立し、結婚していたということを初めて知りました。
昔は「そんな状況の人がいるのだな」と思っていただけでしたが、枯葉剤の影響やそれが使用された背景などを知ると、イデオロギーの対立・国家間の対立などからこのようなことが引き起こされるのだと改めて考えさせられるものがありました。
・枯葉剤を直接摂取した者の孫までに障害が現れるというのは驚きでした。そして枯葉剤散布の責任の所在が今もって自国の兵士に対しては認め、ベトナム国民には認めないという状況が続いていることも初めて知りました。
・カンボジア侵攻、中越戦争、経済封鎖などの経緯も初めて知りました。
第2章 もう一つの「社会主義市場経済」
・ベトナムの「ドイモイ政策」はかなり成功した政策なのだと思っていました。
よくベトナム経済が明るい、ITに強い、教育環境が整っている、「VISTA」「NEXT11」の1国である、などと前向きなイメージがありましたが、実態として経済環境が整っておらず、石油が出ても自国で精製できず、鉄鋼の生産も覚束ないというような状況で止まっているというのは初めて知りました。
インドでも第1次産業から第3次産業に移行したが工業が育っていないという話を聞いたことがありますが、それでもそれなりに工業にも進出していることに比べてなかなか厳しい状況だなと思いました。
第3章 国際社会への復帰
・イデオロギー的にも歴史的にも対立していながら、国際情勢のなかでの自国の立ち位置を把握してアメリカと交渉してWTOに加盟したり、社会主義国家でありながらASEANに参加したりする、ある意味マイナスな状態から築き上げていく外交力はすごいなと思いました。
第4章 共産党一党支配の実相
・政治的な構造、特に共産党の役職が政府の役職より上位にきて、三権分立ではなく三権分業という政治体系は中国に似ているなと思いました。
公安のトップが国家主席よりも上位に来るところは中国よりもさらに中央集権的な印象を受けました。
・汚職体質は他の東南アジアの国でもありましたが、その中でも汚職の蔓延度が高いというのはすごいなと思いました。より中央集権でモニタリング機構がなければそのようになっても仕方がないのかなと思いました。
第5章 格差の拡大
・格差が拡大していることとそれを許容しない社会という対比は似たような政治構造の中国の先富論と大きく異なるところだなと思いました。
政治構造が似ていても経緯や歴史が異なれば違うものだなと思いました。
第6章 ホーチミン再考
・名前とベトナム解放の英雄という実績だけはなんとなく知っていたホーチミンがほとんど海外で活動し、その中で単なる抵抗運動ではなく「ベトナム国民」という価値観を共有することで持続的に活動できる体制に持っていったというのはすごい人物だなと思いました。
カリスマ的な人物ではなく、見た目で威厳を醸し出すような人間ではないにもかかわらず、時勢の動きを利用して独立まで持っていったのは、他の歴史上の何かを成し遂げた人物と違った凄みを感じます。
第7章 これからの日越関係を探る
・日本のベトナムへの貢献と、それに比例しない存在感の薄さは他の国でも似たような話があったなと思いました。
この本でベトナムが変革していきながらも変えられないものについて触れられていましたが、日本も世界のなかで地位を確立していかなければならなかった時の戦略が今も惰性で行われているような、昔はあったであろう海外支援と外交を包含するような戦略・方針が今はなさそうなところはダメな意味で似ているのかもしれません。
終章 新しい枠組みを
・著者のベトナムに対する提言は、中国に関する本や記事で書かれている提言に似ているなと思いました。国家としての規模が大きく、より危ういバランスの下で成り立っている中国よりは実行するにあたって現実味があるのかなと思えました。
○つっこみどころ
・各章の最初にバイクにいろいろ乗せた人たちが載っていて、何かメッセージのようなものを持たせているのかなと思っていましたが、あとがきで「しかし冷静に考えると、交通安全という観点からはこれほど危険なことはない。」とバッサリと切っていて笑えました。