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【タイ 中進国の模索】レポート

【タイ 中進国の模索】
末廣 昭 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4004312019/

○この本を一言で表すと?

 タイの政治経済を1988年を起点にして詳しく説明している本

○この本を読んで面白かった点

第1章 タイ社会を見る目

・1973年以降、2008年までにクーデター4回、憲法制定6回、総選挙14回、政権交代27回というのはすごいなと思いました。

・民族・宗教・国王という三つの柱が国家を支えていて、三つの柱の内の一つが国王(王室ではなく国王個人)が柱になっていて、国王の署名がないと法律や人事が発行されず、国王が国軍を統括していて軍がクーデターを起こしても国王が裁可しなければ反乱に転じ、枢密顧問官という政治に関わるものを任命する権限を持っているというのはすごい権力だなと思いました。

・統治構造を「国民の父」「仏法と倫理にもとづく統治」「選挙にもとづく政治」の三層で考え、この三層の関係で1988~1995年を「政党政治家の政治」、1995~2000年を「市民を主役とする政治」、2001~2006年を「強い首相の政治」、2006年以降を「国王を元首とする政治」と区分しているのは分かりやすいなと思いました。

・タイの中進国化と経済社会の変化で1958~1987年を「発展途上国の時代」、1988~1996年を「中進国化の時代」、1997年以降を「選択の時代(現代化への道と社会的公正の道の選択)」という時代区分で分けているのも分かりやすいなと思いました。

第2章 経済拡大、バブル、そして通貨危機

・1988年以降のタイは経済ブームを経験して別の国になった、という表現は面白いなと思いました。高層ビルの建設ラッシュ、百貨店、コンビニエンスストア、総合量販店の開店ラッシュ、少子高齢化の進行という流れは日本に似ているなと思いました。

・不動産投機と株式ブームによる経済のバブル化、通貨危機・バブル崩壊と中央銀行の対応ミスなど、経済の流れも日本を追うような流れだなと思いました。

第3章 「五月流血事件」から「人民の憲法へ」

・1988年以降の経済ブームと連立政権による利権漁りの政治、クーデター、都市と農村でのそれぞれの運動などは、ある意味では経済的な成長や国民の政治に対する理解が進んだことによる動きで、国家として成熟したから起こり得ることかなと思いました。

・クリーンな民主主義が求められる「都市の政治」と利益誘導が求められる「農村の政治」の二種類の政治の存在、高潔な上流人士のプゥーディー型政治家と家父長的に利益を誘導する親分肌のナックレン型政治家の違いは歴代タイの政治や政治家をうまく分類しているなと思いました。

・経済危機が憲法改正を容易にし、その流れで強い首相であるタックシン首相が出現したというのは、いろんな要素が絡み合っていて面白いなと思いました。

第4章 タイ中進国化と社会の変化

・ビールの生産量増大とコンビニの進出(セブンイレブン開店数は世界4位)、大型百貨店の開店など、都市部はもちろんのこと、全国的な発展がみられること、携帯電話の普及、少子高齢化、病気構造の変化(伝染病から生活習慣病へ)、精神的ストレスと自殺者数の増加、大学数の増大と高等教育の大衆化、教育と労働のミスマッチなど、急激な社会変化が感じられる事象だなと思いました。

・国王が提唱する「足るを知る経済」が国家経済社会開発庁(NESDB)により真剣に進められているというのは何となくタイらしい解決策の模索だなと思いました。

第5章 タックシン首相の「国の改造」

・タックシン首相のリーダーシップ、やろうとしたことはそれほど間違ったことではなかったのかなと思いました。ただ、政策の導入が急過ぎたこと、自身の蓄財や親族や友人を優遇するネポティズムが過ぎたことが原因で失脚したのは残念だなと思いました。

・国や地方自治体を企業に見立てて首相は国のCEO、県知事は県のCEO、省庁の大臣は各分野のCEO、各国の大使は外交のCEOとして権限委譲し、結果を求めるという点で優れていたのではないかと思いました。

・政府機関に「ビジョン・ミッション・ゴール」を要求し、公務員制度の改革と意識改革を進めようとした点も、日本でもやろうとして失敗したことでこの点では日本よりもうまく進められそうだったのではないかと思いました。

・有名なマイケル・ポーター教授を招聘して国家戦略をポーター教授の「ダイヤモンド・モデル」に基づいて国家としての競争力向上を目指し、食品加工・自動車組立・ファッション産業・観光産業・ソフトウェア開発の5分野をターゲットとしたというのはかなり意欲的な試みだったと思いました。

・農村に対しても村落基金・負債返済の猶予・医療サービスの提供などを進めたのは場当たり的だとは思いますが、次に繋げることができれば農村地域の振興に繋がったのかなと思いました。5ヶ年で1兆8,000億バーツを投入する「メガプロジェクト」のスケールはすごいなと思いました。

第6章 政権の不安定、政治の不安定

・メディア・出版王ソンティから始まった反タックシン運動が大きくなってタックシン政権を倒すまでになったのは、この国のジャーナリズムの自由さも表しているのかなと思いました。この本だけでなく他の本でも、軍事政権の時期であっても政権を批判した内容の雑誌が紹介されていて、ジャーナリストの強い国だなという印象を受けました。

・タックシン首相のタイ・ラック・タイ党以外の政党の選挙ボイコットによる騒動や民衆に歓迎されたクーデターなど、大きな動きが割とすんなり起こって通っていることが印象的でした。

・憲法裁判所という国王が任命する機関が政党を解散させる権限を持ち、「憲法裁判所の裁決は絶対的であり、国会、内閣、裁判所およびその他の国の機関を拘束する効力をもつ(1997年憲法第268条)」と定められているのはとてつもなく強力ですし、実際に最大政党だったタイ・ラック・タイ党を解散してタックシンの財産を凍結したところもコントロールが過ぎるなと思いました。

・黄色のシャツのPADと赤色のシャツのUDDの占拠合戦など、いろいろ不安定な要因を抱えて大変な状況だなと思いました。