【物語タイの歴史―微笑みの国の真実】レポート

【物語タイの歴史―微笑みの国の真実】
柿崎 一郎 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/412101913X/

○この本を一言で表すと?

 タイ族国家の成立からタックシン政権崩壊までの歴史について書かれた本

○この本を読んで面白かった点

・タイの成り立ちや王国としてのあり方、クーデターやタックシン政権のことなど、ニュースでぼんやりと聞きかじったことの背景をある程度知ることができてよかったです。

・タイが列強進出にさらされた東南アジアで唯一独立を保った国ということを世界史や地理の教科書で昔から知っていましたが、なぜそうなったかがずっと疑問でした。その経緯をある程度知ることができてすっきりしました。

第1章 タイ族国家の勃興

・ドゥヴァーラヴァティー、シュリーヴィジャヤ、真臘、クメールなど、様々な国が東南アジアで勃興し、現在のタイがある地域は周辺国として各王国に支配されているところから、タイでスコータイ朝が成立し、アユッタヤー朝がスコータイを併合して成り代わったという経緯を初めて知りました。なんとなくですが、中国の歴史より古代の日本の歴史(邪馬台国などの時代)に似ているのかなと思いました。

・掲載されている写真の「タイの古代の英雄=象に乗っている」というイメージは面白いなと思いました。

第2章 マンダラ型国家の隆盛

・大マンダラ・中マンダラ・小マンダラとして各国家が規模の小さなマンダラを修めていく仕組みは、「もういちど読む山川地理」で見た大きな都市圏がそれより小さな都市圏を支配下にするというクリスタルラーの中心地理論に似ているなと思いました。

・名前だけはよく知っている山田長政がアユッタヤー朝で重用されていたこと、アユッタヤー朝は外国人でも有能なものを抜擢する文化があり、山田長政が特別だったわけではないことなどを知ることができて良かったです。

・アユッタヤー朝が一度ビルマの属国になり、また地位を回復した後ビルマに滅ぼされ、タークシン王がトンブリー朝を築いてまたタイ族の国家を築くも一代で失脚し、現代に続くラッタナコーシン朝が継承したこと、カンボジアを支配し、ベトナムとも争っていたことなど、現代の東南アジアに繋がる国際情勢が理解できたような気がします。

第3章 領域国家の形成

・タイがビルマの敗北で西欧諸国の強さを知り、開国することになって不平等条約を締結、という流れは、日本が清の敗北で西欧諸国の強さを知り、開国することになって不平等条約を締結、という流れと似ているなと思いました。

・西からのイギリスの進出と東からのフランスの進出で領土が削られ、英仏の緩衝国という地政学的な位置にあったこと、「もういちど読む山川地理」で日本の明治維新並の改革をやり遂げたと書かれていたチュラーロンコーン王(ラーマ5世)のチャクリー改革で近代化をやり遂げたこと、第一次世界大戦で戦勝国側に立ったことなど、立ち位置も日本に似ているなと思いました。

第4章 シャムからタイへ

・クーデターによる立憲革命、「シャム」から「タイ」への国名変更、ピブーンによる独裁、日本の圧力による枢軸国側での第二次世界大戦への参戦、宣戦布告無効宣言による敗戦国としての立場の回避、コメの供給による国際的な立場の回復など、一つ間違えば国家として不利な立ち位置になるところをうまく回避していてすごいなと思いました。

第5章 国民国家の強化

・戦後のピブーンの復帰と失脚、クーデターによる開発独裁、プレームによる80年代の調整型政治、チャーチャーイのビュッフェ内閣(利権あさりの政治)など、かなり大きな政策や体制の変更を経てきているのだなと思いました。

第6章 「先進国」をめざして

・1992年の軍事政権への反対運動に対する弾圧(五月の暴虐)、アジア通貨危機という2つの大きな危機を超えて経済を建て直し、2001年のタックシン政権樹立からさまざまな政策が動き始め、2006年にタックシン政権がクーデターで潰されるという、なかなかアップダウンの激しい歴史が現在に至るまで繰り広げられているなと思いました。

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