【アメリカン・デモクラシーの逆説】レポート

【アメリカン・デモクラシーの逆説】
渡辺 靖 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4004312779/

○この本を一言で表すと?

 アメリカ内の対立構造について述べた本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・「逆説」という言葉を多用すること、少数派の取り上げ方など、何となく見たことのある書き方だなと思って読み進めていましたが、以前読んだ「アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所」と同じ著者だったことに途中で気付いてすごく腑に落ちました。

第1章 アメリカン・デモクラシーの光と影

・リンカーンへの回帰、オバマの最初の選挙で敗北したマケインの高潔な演説、オバマの対立構造の超克としての内包的な手法、情報公開の原則などのポジティブな面を最初に挙げ、その後でニューオーリンズの残留市民の抵抗と、他の地域からの差別、「アメリカで最も優れた公共住宅」の強制退去などのネガティブな面を挙げ、章のタイトル通りの光と影をそれぞれ照らし、影の部分をオバマでも解消できない「逆説」と位置付けていました。

第2章 政治不信の根源

・ゴアの著作で選挙資金集めのために議会に欠席する議員が存在すること、ある程度制限をかけられているものの、それらをすり抜けて個人献金やロビイストの活動が政治に大きく影響を与えていること、むしろロビイスト活動の参入障壁が一部の資金力・影響力のあるユダヤロビーや全米ライフル協会などの特定の団体の影響を強める結果に繋がっていることなど、制度の不備が見られる点が説明されていました。

・二大政党の差異が縮小し続けていることから、中絶・アファーマティブ・アクション・銃規制・死刑・同性婚・教育バウチャー・安楽死などの政治化による文化的な差異のクローズアップが志向されるという状況に陥っていることが述べられていました。

・選挙のマーケティングが重要度を増し、その効果が実証され、かけるコストが大きくなることで市場競争と似たようなものになっていることも述べられていました。

・メディアについても、その政治的中立性を担保してきた「放送の公正原則」や「公共番組枠の義務付け」をFCC(連邦通信委員会)が1987年に撤廃して以降、特定の党派色やイデオロギー色を意図的に流すようになっていることについて述べられていました。

第3章 セキュリティへのパラノイア

・ゲーテッド・コミュニティやメガ・チャーチのようなセル化した隔離されたコミュニティが増加し続けていること、持つ者と持たざる者の二極化を表す貧困層の増加・第三世界化、その象徴とも言えるマイクロクレジットのグラミン・アメリカの設立など、異なるコミュニティが隔てられていっている状況が述べられていました。

・人種別の状況、黒人だけでなく他のマイノリティの増加による多極化と各コミュニティの隔離、個人主義・孤独主義の進展なども、「アメリカン・ドリーム」の「逆説」として列挙されていました。

第4章 多様性の行き着く先

・上流階級として自分たちを他と区別していたボストンの一族、宗教的要素を重視する保守主義者による啓蒙主義者のトーマス・ジェファーソンの「削除」、ティー・パーティー内での右派・左派の分派、カジノを運営するネイティブ・アメリカンの状況など、多様性が市場主義などで歪められて望まれるものとは別物になっていくことが描写されていました。

第5章 アメリカニズム再考

・アメリカの自国例外主義やダブル・スタンダード、帝国的な側面などを列挙したのちにアメリカの自己修正力を挙げ、その「逆説」の事例としてKKK(クー・クラックス・クラン)の本拠地だったジョージア州ディケーターの難民受け入れとその児童の教育を挙げ、これまで述べてきた「逆説」の「逆説」として締めくくっていました。

○つっこみどころ

・同じ著者の著作の「アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所」は各章ごとがしっかり独立した読み物になっていて、アメリカの中で存在する少数派のあり方がよくわかる本でしたが、それに比べてかなり読みにくく、無理やり詰め込んだ本のように感じました。
単行本ではなく新書であること、それなのにそれ以上の論点と結論まで書いているため、仕方のないことかもしれませんが。

・著者が「逆説」してメインストリームにあるものの反証として挙げ、うまくいっているように見えてもその中で例外があることを強調しようとしている意図は分かりますが、かなり強引な紐付け方がされていたり、ごく一部をメインにあるものと対等に取り扱ったりして、無理に二極化しているように見せようとしているように感じられるところもあり、公平性に欠けたかなり偏った視点で書かれているように感じました。

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